第327話 豪剣士2
気合を発した伊達が目にも留まらぬ速さで太刀を振る。恵梨香たちには一度だけ太刀が振られたように見えた。そして、一瞬だけ伊達の身体がブレたように感じる。
だが、実際は三度斬撃が放たれており、巻藁の三箇所に切れ目が入りパラパラと地面に落ちた。
「おい、どうなってんだ」
「何で?」
恵梨香と南城が驚きの声を上げた。伊達は刀身が刃毀れしていないかチェックし、満足そうに頷く。
「いい刀だ」
伊達と一緒に来た男が声を上げる。
「さすがです、師匠」
伊達の連れは弟子だったようだ。この弟子も鍛え抜かれた肉体の持ち主で、年齢は二〇歳くらいだろう。
皆が伊達の技量を褒めると、南城が面白くないという顔を見せ始めた。そして、自分にも試し切りをさせろとゴネ始める。
「真剣を扱った経験のない者が、試し切りをするのは危険なのだ」
久嗣は了承するのを渋った。そこに伊達が口を挟む。
「いいではないか。役者として経験を積む為に、ここへ来たというのなら、試し切りも一つの経験となる」
伊達が賛成した事で、久嗣は了承した。但し試し切りに使う刀は、伊達に渡したものではなく、白鞘に入ったものを使えと指示した。
白鞘に入った日本刀は、弟子が練習として作刀したものである。久嗣自身がこれで試し切りを行い、薫たちに見学させる予定にしていたものだった。
南城は白鞘から刀を抜き、巻藁に近付いた。重さを確かめるように刀をちょんちょんと振る。上段に構え一気に振り下ろした。先程の伊達に比べると悲しいほど遅い。
振り下ろした日本刀の刃は、巻藁に食い込む。だが、半分ほどで止まった。
「クソッ」
南城は何度も刀を振り下ろし、四度目に漸く巻藁を両断する事に成功した。
思うように切れなかったので、南城は白鞘の刀が出来が悪いと文句を言う。
「確かに、それはいい出来とは言えないが、巻藁くらいなら簡単に切れるはずだ。試しに、お嬢ちゃんがやってみろ」
伊達が予想外の提案をした。
「そんなー。カオル、危ないから止めた方がいいよ」
恵梨香が心配そうな顔をして止めた。
「大丈夫よ。少しだけど、古武術を習っていると言ったでしょ」
薫は承知する。伊達が自分の腕を試したいのだと判ったが、伊達の試し切りを見て身体を動かしたくなっていたのだ。
久嗣の弟子が作った刀を薫は手に取り、重さを確かめた。
巻藁の前に立つと刀を振り下ろす。伊達の斬撃スピードには及ばないが、かなり速い。巻藁が両断され、上部が落ちる前に、下から斜め上に斬撃が放たれた。
地面に落下しようとしている巻藁が、もう一度両断され二つの欠片となって地面に落ちる。薫の斬撃は隙がなく一つ一つの動作が舞うように決まった。
「見事だ」
伊達が声を上げた。
「すごーい。本当に武術を習っているんだ」
恵梨香は驚き喜んだ。ただ南城が面子を潰され悔しそうな顔をしている。
「名前に聞き覚えが有る気がしたのだが、第二地区の転移門からオークが現れた時、入れ違いに異世界へ飛ばされた者たちの一人ではないか?」
伊達が突然言い出した。
薫は思い出したくない事を思い出し顔を顰めた。
「ええ、そうです」
「なるほど、その時に伊丹さんと出会ったのか」
「いえ、伊丹師匠が案内人になる前から、師事していました」
「ほう、そんな偶然も有るものなのだな」
伊達が意味有りげに薫を見た。
「何か?」
薫が尋ねると、伊達が皆から少し離れた場所に薫を連れ出し告げた。
「近々、自衛隊から呼び出しが有るかもしれんぞ」
「どういう事です?」
「自衛隊は、オークが占拠している転移門を、どうにかしようと考えている」
「まさか、あの転移門を使おうと考えているのじゃないでしょうね。異世界側にはオークが待ち構えているのよ」
「自衛隊も、そこまで馬鹿じゃない。転移門近くの地形を詳しく知りたいだけのようだ」
薫はホッとすると同時、ある事が気になった。
「何故、伊達さんが自衛隊の動向を知っておられるのですか?」
「オークとの戦いに参画する事になった」
自衛隊は本気のようだと薫は感じた。
見学を終え家に戻った途端、マナ研開発の荒瀬主任から呼び出された。マナ研開発の研究所へ行くと、荒瀬主任と数人の研究者が待っていた。
「以前、持ち込まれた結界装置と風の制御に関する情報の解析が終わりました」
クラダダ要塞遺跡で発見した結界装置と風の制御に関する書籍の内容を記憶し、日本に持ち帰った薫は、荒瀬主任たちに頼んで解析して貰っていたのだ。
解析途中の報告も薫は聞いており、その内容は黒翼衛星の開発にも生かされていた。
「解析結果を検討したのですが、これは凄いものです」
荒瀬主任が興奮した声で薫に告げた。
「何を興奮しているの?」
「あの結界装置は、任意の位置に結界を張る事が可能だと判りました」
それの何が凄いのか、薫には理解出来なかった。
「当り前の事のように思えるけど」
「この結界装置は、最大一〇〇〇キロ離れた場所へも結界を構築出来るようなんです」
「へえ、それは凄い」
薫があまり驚いていないようなので、荒瀬主任の声が大きくなった。
「これを軍事利用すれば、完璧な弾道ミサイル迎撃システムが作れます」
それを聞いた薫が顔色を変えた。
「本当に?」
「嘘なんか吐きませんよ」
「でも、動力源はどうなの?」
「大量の魔粒子が必要になります。これまで我が社が生産した総量の一〇倍ほどです」
薫が肩を落とした。
「はあ、そんな落ちなのね。結局、無理じゃない」
「いや、無理じゃありません。黒翼衛星プロジェクトが成功すれば可能です」
「まさか、本気で弾道ミサイル迎撃システムを作ろうと考えているんじゃないでしょうね」
「我が社に、そんな開発費がないのはご存知でしょ」
「そうね……黒翼衛星プロジェクトも資金不足で実験施設が作れない状況だものね」
「黒翼衛星プロジェクトだけは、何とかならないんですか?」
「一つだけ手は有るのよ」
「どうするんです?」
薫は国が欲しがるだろう技術を一つ持っていた。それを売る事を考えたのだ。
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