第320話 アメリカの兵器開発

 クノーバル王国の整備された道を国境へ向って進み、無事に国境を越え、マウセリア王国のヴァスケス砦に到着した。


 預けてあった改造型飛行バギーを格納庫から引き出し、チェックする。問題ないようだ。

 ヴァスケス砦から交易都市ミュムルへ飛んでいる途中、サーベルバードに遭遇した。サーベルバードは風の刃を飛ばす能力を持つ鳥型魔物である。


 空中戦は不利だと判断した俺は、急いで着地する。

 改造型飛行バギーから降り、マナ杖を取り出そうとして、新しい武器を試す絶好のチャンスじゃないかと思い付いた。槍のライマルが使っていた槍である。山崎が気絶している間に拾って魔導ポーチに収納しておいたものだった。


 柄の部分が壊れているので、武器としては使えない。だが、使われている魔導核は壊れていないので、魔道具としては使えそうだ。


 俺はライマルの槍を取り出した。けら首に魔導核が取り付けられている。その槍の穂先を上空で旋回しているサーベルバードへ向けて魔力を流し込んだ。


 その時、サーベルバードが俺たち目掛けて急降下を始めた。俺は槍の穂先を急降下するサーベルバード向け、ライマルを真似て半分の長さになっている槍を突き出す。


 魔力で作られた小さな針のようなものが数十本も槍の先に現れ、渦を巻きながら前方へ弾け飛ぶ。サーベルバードは魔力針の渦に呑み込まれ穴だらけとなって死んだ。


 サーベルバードだったものが、血を吹き出しながら落下した。

 アカネがジッと俺の方を見る。

「ここまで来る途中、その槍を調べていたみたいだったけど、魔導武器だったの?」


「そうだ。壊れているけどね」

 アカネが肩を竦める。

「でも、サーベルバードの骨が穴だらけよ。こうなると素材として使えないじゃない」

「実際に使ってみるまで、威力は判らなかったんだ」


 その件については失敗だったと素直に認めた。ただ魔導核に刻まれている補助神紋は興味深いものだったので、槍などではなく銃のような形に改造して使う方が良いんじゃないかと思った。迷宮都市の若い職人に頼んで改造させてみよう。


 サーベルバードの魔晶管にも穴が開いていたので、剥ぎ取りは諦めた。


 俺たちは改造型飛行バギーに乗り飛び立った。その後は何事もなく迷宮都市に到着。趙悠館に戻った俺たちは、アマンダを趙悠館の皆に紹介した。


 紹介された伊丹がニコニコして声を上げる。

「ほほう、アカネ殿の弟子でござるか」

「よ、よろしくお願いします」


 アマンダがぴょこりと頭を下げる。ルキも同じようにぴょこりと頭を下げ、アマンダの手を握った。

「ルキが、お部屋に案内ちてあげりゅ」


 アマンダの手を引いたルキは、趙悠館の従業員宿舎へ連れて行った。アマンダは従業員宿舎で生活しながら、アカネの弟子として修行する事になったのだ。


 翌日、クノーバル王国での出来事を伊丹に話すと、伊丹は『神行操地の神紋』に興味を持ったようだ。

「その神紋、拙者も手に入れたいのでござる」

「伊丹さんだったら、大丈夫じゃないか」


 その言葉を聞くと、伊丹はクノーバル王国へ行き、悪意の迷宮で適性が有るか試すと言い出した。

「でも、行く前に、山崎さんに連絡した方がいいかも」

 次のミッシングタイムで日本に戻ると山崎は言っていたので、俺と伊丹も日本に戻る事にした。


 俺は伊丹の神紋記憶域について確認した。

「それなら問題ないです」

 伊丹も神紋記憶域が拡大したらしい。


「そう言えば、抓裂竜の特異体を倒し、山崎殿は『竜の洗礼』を受けたのでござろう。ミコト殿に何か変化は?」

 俺は何か変化が有ったか考えてみたが、思い当たらなかった。


「特にないようです。崩風竜が放った魔粒子以上に濃密なものでないと変化は起きないんじゃないかな」

「ふむ、そうでござるか」


 その後、俺はハンターギルドやカリス工房、太守館を回って、迷宮都市を離れていた間に何かなかったか情報を収集した。


 特別な情報はなかったが、ドルジ親方に捕まり精密部品の製造を手伝わされた。ミッシングタイムの日までの数日を工場で働き、疲れた身体で日本に戻った。

 日本に戻った俺と伊丹は東條管理官に報告し、最近の出来事を聞く。


「各国政府の話し合いで、オークに占拠されている転移門を奪い取ろうという計画が提案された」

 オークにより魔物をリアルワールドに送り込む事件が世界各地で起きた事を憂慮した各国は、異世界側の転移門をオークから取り上げようと決意したらしい。


「しかし、オークの軍隊はあなどりがたい実力を持っていますけど」

「そうなんだ。そこで、アメリカは武器の開発を行う事にした」

「まさか、異世界で火器を開発するつもりなんですか」


「いや、それはない。協約違反となるからな」

「と言う事は、魔導武器か?」

「そのようだな」

 俺は嫌な予感を覚えて確かめた。


「もしかして、マナ研開発に協力要請でも来たんですか?」

「いや、そんな要請はなかった。どうやらアメリカがクラダダ要塞遺跡で発見した遺物を元に開発するらしい」


 今回の開発プロジェクトでは、アメリカの軍需産業が中心になって進められるようだ。

「日本は参加しないのでござるか?」

 伊丹の質問に、東條管理官が首を振って否定した。


「遺物自体の調査研究には、日本も参加しているが、兵器開発プロジェクトの方はどうかな。アメリカの軍需産業は、自分たちだけで開発する気でいるようだぞ」


 それを聞いて、俺はホッとした。下手に兵器開発などに関わると厄介だからだ。

「そう言えば、高速空巡艇の開発は何処まで話が進みました?」


「空巡艇を設計した御手洗教授が中心になって進めている。これにはマナ研開発も協力していて、大出力の推進装置を開発中らしい」


 巡航速度が時速三〇〇キロになるような航空機を目指す計画なので、御手洗教授は苦労しているだろうと思った。


 事務処理を終えた俺は、空腹を覚えたので食事に外へ出た。JTG支部の近くにラーメン屋があり、そこで久しぶりのラーメンを食べてから、日が落ちて暗くなった街をアパートのある方角へ歩いている途中、立ち止まった。


「しまった。スマホを忘れた」

 仕方なく、支部ビルの方へ戻った。街灯の明かりに照らされながら歩いていると、前から大きな声が聞こえた。


 何事かと見ると、歩道を歩いていた数人が上を見て何か叫んでいた。俺も上を見る。支部ビルの隣りに在る雑居ビルの屋上に人影が有った。


「おい、あれって自殺しようとしてるんじゃないか」

 上を見上げている通行人の一人が声を上げた。周りに居た通行人が立ち止まり、段々と野次馬集団が出来上がってきた。


 近くの交番から警官も来て、無線で警察署に連絡した。その後、警官は雑居ビルに入り、屋上に向ったようだ。


 その時、東條管理官の声が聞こえた。

「まだ帰らなかったのか?」

 鞄を持った東條管理官が側に立っていた。


「スマホを忘れたのに気付いて、支部ビルに戻る途中だったんです」

「自殺志願者か……警察は呼んだのか?」

「交番のお巡りさんが、屋上に向かいましたよ」

 警察署から駆け付けた数人の警官が、雑居ビルに入っていく。


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