第316話 修行とハグレ
魔導練館に戻ると仙崎が出迎えてくれた。その仙崎の様子が少しおかしかった。いつもは威勢の良い仙崎が憔悴した顔をしている。
「どうかしたのですか?」
アカネが尋ねた。
「第十四階層で地獄トカゲの群れに遭遇した。パーティの一人が逃げ遅れて……」
どうやらパーティの一人が地獄トカゲに殺られたらしい。
部屋に戻って着替えてから、仙崎の話を聞いた。地獄トカゲの群れと遭遇した仙崎たちは、撃退しようと戦ったらしい。だが、力及ばず逃げ帰る事になったようだ。
「畜生、新しい神紋を手に入れておけば」
仙崎は迷宮都市から戻った後、現地の知り合いであるハンターたちとパーティを組み、修行の成果を確かめる為に迷宮に潜った。
パーティは順調に第十四階層まで到達し、仙崎も修行の成果に満足していた。以前は第十四階層に到達する頃には魔力を消耗し、先へ進むのを断念する状況になっていたが、今回は魔力をほとんど使わず、そこまで辿り着けたと自信を持ったそうだ。
目標としていた第十五階層にもう少しで到達すると喜んでいた時、地獄トカゲの群れに遭遇したのだと言う。
「迷宮に潜る前に、魔導寺院へ行って新しい神紋を授かっていれば、撃退出来たかもしれないのに」
トラウガス市の魔導寺院にある第三階梯神紋は『天雷嵐渦の神紋』『崩岩神威の神紋』『天霊聖印の神紋』『煉獄紫炎の神紋』の四つである。
『天霊聖印の神紋』は伊丹が持つ『聖光滅邪の神紋』の上位神紋であり、『煉獄紫炎の神紋』は仙崎が持つ『紅炎爆火の神紋』の上位神紋である。『天霊聖印の神紋』を除く三つの神紋から、どれかを選ぶつもりだったようだ。
意気消沈している仙崎を慰め、彼が落ち着いた後、ライマルについて尋ねた。
「よく分からない。奴は秘密主義なんだ。ただ数か月前に、奴のパーティがオーガの群れに遭遇した事がある。その時、奴一人だけが生きて帰って来た。奴なら仲間を守りながらオーガの群れから脱出出来たはずなんだ」
仲間より自分の命を優先したという事だろうか。それが本当なら非情な男だ。
ライマルの事は気になったが、アマンダたちを鍛える事を優先した。次の日から迷宮の第三階層辺りに潜り、アマンダたちに実戦をさせる予定だった。
だが、アカネに指摘されアマンダたちの装備を思い出すと確かに心許無い。なので、本格的に鍛える前に、武器だけでもグレードアップさせる事にした。
俺たちは迷宮の第三階層を通り過ぎ、第九階層に向った。途中に遭遇した魔物は、俺とアカネが問答無用で切り捨てて進む。
昼頃に第九階層に到着。アマンダたちには、きつい行軍だったらしく息を荒げている。
この階層は森が広がっており、住み着いている魔物は昆虫系の魔物が多い。仙崎の情報によると大剣甲虫などの大型昆虫系魔物と一緒に虫を捕食する大角蟷螂が居るらしい。
第九階層に来た目的は、大角蟷螂の角を手に入れる為である。大角蟷螂の天頂にある角はミスリル合金並みに硬く、『刺突』の源紋を秘めていた。『刺突』の源紋には貫通力増大の効果が有る。
俺は大角蟷螂の角を使ってアマンダたちの武器を作ろうと思っているのだ。
大角蟷螂は足軽蟷螂より一回り大きいルーク級中位の魔物である。遭遇した大角蟷螂を邪爪鉈の一振りで首を刎ね飛ばした。
「やるわね。私も」
そう言ったアカネが、もう一匹の大角蟷螂を邪爪グレイブで薙ぎ払う。アマンダたちにとって、大角蟷螂は強敵である。そんな魔物を軽々と仕留めてしまう二人を唖然とした表情で見ていた。
「凄いとしか言いようが無いわね」
アマンダが呟くように言うと、スヴェンとイルゼが頷いた。
間もなく三本の大角蟷螂の角を手に入れた。
「この後、どうする?」
思った以上に早く目的を達成したので、アカネが戻るか探索を続けるか尋ねた。
「大剣甲虫を狩ろう。アマンダたちに少しでも多くの魔粒子を吸収させてやりたい」
「そうね。そうしましょう」
それを聞いた三人が礼を言う。
「こんなによくして貰っていいんでしょうか?」
イルゼが恐縮しながら確認した。
「ハンターになれるように協力する……と約束したからには、中途半端にはしないさ。ハンターとして生きていく為の基礎は教える。頑張って覚えろ」
「「頑張ります」」
スヴェンとイルゼは嬉しそうに返事をした。
<魔力感知>を使って樹々の上にいる大剣甲虫を探し出し、一番密集している場所で<閃光弾>を投げ上げた。強烈な光に驚いた大剣甲虫たちが樹からポトポトと落ちて来る。
「急いで止めを刺すんだ」
アカネと一緒に大剣甲虫に止めを刺すと、その死骸から濃密な魔粒子が溢れ出した。スヴェンたちに吸収するように指示を出す。
大剣甲虫から剥ぎ取りを行い、魔晶管とアマンダたち三人の防具を作る為に外殻を少し手に入れた。
目的を達成した俺たちは、迷宮から戻り武器工房へ行って、持ち帰った大角蟷螂の角をホーンスピアにして貰うよう依頼した。
明日の昼には出来上がるというので、魔導練館に戻って休んだ。アマンダたちは休まなくても大丈夫だと言ったが、休む事も修業だと言い聞かせて休ませた。
翌日の午前中は、皆で魔導寺院へ行き、三人に新しい神紋を手に入れさせる事にする。
「アマンダは『凍牙氷陣の神紋』を選ぶと言っていたが、適性はどうだった?」
俺が尋ねると、アマンダは躊躇いながら答えた。
「『凍牙氷陣の神紋』の適性は有りました。でも、アカネ師匠と話し合って『魔力変現の神紋』を授かる事にしました」
「俺たちの真似をする事はないんだぞ」
もう一度確認すると、アマンダは『魔力変現の神紋』でいいと言い切った。
「何故『凍牙氷陣の神紋』より『魔力変現の神紋』の方がいいんです。私が聞いた情報だと『凍牙氷陣の神紋』の方がずっと強力な魔法が使えるそうですけど」
イルゼがアマンダに尋ねた。
「一般的にはそうだけど、ミコト様たちは『魔力変現の神紋』の応用魔法を幾つか開発していて、それが凄いらしいの」
それを聞いたスヴェンが、
「そうなんだ。おいらたちも『魔力変現の神紋』にしようか?」
「ちょっと待て、『魔力変現の神紋』の応用魔法を全部習得しようとすると時間が掛かるんだ。俺たちは、そんなに長く、ここには居られないぞ」
「そんなー」
俺は少し考えてから。
「『魔力発移の神紋』を選ばないか。そうすれば基本魔法の使い方と役に立つ応用魔法を二つ教えてやるぞ」
スヴェンとイルゼは頷いた。
アマンダが『魔力変現の神紋』、スヴェンとイルゼが『魔力発移の神紋』を授かった後、休憩と昼食を挟んで、応用魔法の伝授を行った。
アマンダはアカネに任せ、俺はスヴェンとイルゼに『魔力発移の神紋』の基本魔法である<魔力導出>の説明をした後、この魔法が源紋を秘めている武器には役に立つと教えた。
次にパチンコを見せ、使い方を教えた。
「こいつを二人にあげよう。パチンコに使われている魔導ゴムは槍トカゲの舌の皮を鞣したものだから、自分たちで狩って作ったらいい」
二人には『魔力発移の神紋』の応用魔法である<
夕方近くになって、やっとスヴェンが<
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