第315話 オーガハウス2
アカネとアマンダが体捌きの練習を始めると、スヴェンたちも加わり練習を始める。俺は昨日手に入れた双剣鹿の剣角を加工し始めた。二本のホーンスピアを作る為である。
剣角の加工が終わると近くの灌木を切り倒し柄を作った。加工した剣角と柄を丈夫な紐で固定しホーンスピアが完成した。ドルジ親方たちには遠く及ばないが、即席の槍としては立派なものである。
「器用なものですね」
ハンター見習いの一人が声を掛けて来た。
「ハンターを始めた頃は、こうやって自分で作ったものさ」
「でも、ちゃんとした武器を持っているのに何で?」
「あの三人に槍の扱い方を教える為だ」
二本作ったホーンスピアの一本をアマンダに渡し、一本は自分が見本を見せる為に使うつもりである。
アマンダたちの体捌きの練習が終わった後、アマンダたち三人に槍の基本を教え始めた。槍の握り方から教え、基本の構え、歩法、突き、払いなどを見本を見せながら伝授する。
他のハンター見習いたちが聞き耳を立てていたが構わず教えた。これは槍術の基本であり、珍しいものではなかったからだ。
三人にはクタクタになるまで基本を繰り返し練習させた。
「もう駄目」
イルゼが最初にギブアップし、続いてスヴェン、アマンダの順でギブアップする。
一時間ほど休憩させた後、実戦の為に森へ向かう。<魔力感知>で跳兎を探し、三人に狩りをさせた。
普通のウサギならハンターが近づけば逃げるのだが、魔物である跳兎は逃げずに向かって来る。隙を見せたスヴェンが跳兎の体当たりを受け地面に転がされた。
三人掛かりで追い回し槍を突き出すが、中々仕留められず最後にアマンダがホーンスピアで首を突き刺し仕留めた。
跳兎の死骸から放たれる僅かな魔粒子を吸収させた後、アカネと俺でミスを指摘し反省させる。
「まずは敵の動きを注意して見なさい。魔物にも予備動作が有ります。それを見逃さないで」
三時間ほど実戦と指摘を繰り返すと、三人は短時間でポーン級下位の魔物なら倒せるようになった。
次はゴブリンを探し、三人に戦わせた。得物を持って攻撃して来る魔物の対処法を覚えさせる為にゴブリンを選んだのだが、スヴェンとイルゼが苦戦していた。
棍棒で殴り掛かられると怯んでしまい段々と腰が引けて来る。
「穂先を躱され間合いに入り込まれたら、柄の部分で払うんだ」
苦戦しながらもゴブリンを倒した三人には魔粒子を吸収させた。魔粒子を吸収させる事により、少しでも多くの魔導細胞を得てパワーアップさせようとしているのだ。
基礎練習と実戦を三日続けるとポーン級中位の魔物なら問題なく倒せるようになった。
短期間に三人が成長したのは、俺とアカネがサポートしていたからだ。普通のハンター見習いなら獲物を探すのにも時間が掛かるが、俺が効率的に魔物を探し出し戦わせたので、普通より多くの魔物を倒し、多くの魔粒子を吸収していた。
その日の実戦練習が終わりオーガハウスに戻ると、ハンター見習いたちがオーガハウスの中で料理をしていた。オーガハウスはハンター見習いの合宿所みたいなものになっていた。
その後、オーガハウスはハンター見習いたちに使われ続け、未熟な者が悪意の迷宮で怪我をすると『オーガハウスに戻って腕を磨いてから出直せ』と言われるようになった。
トラウガス市に戻った俺たちは、ハンターギルドへ行って猪豚の森で剥ぎ取った素材を換金した。大した金額にはならなかったが、スヴェンとイルゼにとっては初めて自分で倒した魔物から得られた金なので嬉しかったようだ。
換金が終わった後、受付カウンターでスヴェンとイルゼの登録を済ませた。条件をクリアーしているので正式なハンターとしての登録である。
スヴェンとイルゼが登録証を見ながらニヤついている。嬉しいのは判るが、明日から迷宮に潜るつもりなので気を引き締めて準備をして欲しい。
「迷宮はどの辺まで潜るつもり?」
「ハンターとして生活出来るようになるには、第五階層くらいは攻略出来るようになる必要が有ると思うんだ」
実際は第三階層に生息している鎧豚を専門に狩って生活しているハンターも居るくらいなので、第三階層を攻略可能なら十分なのだが、魔晶玉が取れるホブゴブリンメイジを倒せるくらいには鍛えたかった。
「それだと今の装備じゃ心許無いわね」
アカネの言う通りだと思った。安物の槍だと鎧豚を倒すのも無理だろう。
突然、声を掛けられた。
「貴様ら魔導練館の奴らだな」
その顔には見覚えが有った。山崎と
「魔導練館の者という訳じゃない。仕事で魔導練館へ来て、少し厄介になっているだけだ」
「ふん、まあいい。お前はそいつらを鍛えているのか」
そう言ってアマンダたちを値踏みするように見る。
「才能が有りそうな奴には見えねえな」
アマンダたちの体格を見て言っているのだろう。三人共体格は普通か少し小さいくらいだった。
「止せ、バルド。これから第十九階層に出たハグレを倒しに行くんだ。無駄な体力は使うな」
ハンターギルドの中が静まり返った。
声の主は身長二メートルほどで、筋肉の塊のような大男だった。手には柄まで金属製の槍を持っている。
「槍のライマルだ」
後ろの方で声がした。
大男は俺の目を見てニヤリと笑った。
「ボラン家のライマルと言う者だ」
「マウセリア王国から来たミコトだ」
ライマルが右手を差し出した。握手をしようという事だろうか。マウセリア王国では握手の習慣はなかったが、この国には有るようだ。
右手を差し出しライマルの手を握る。突然、強力な力で手が締め付けられた。反射的に力を込め握り返す。数秒力比べが続いた。
「お前、只者じゃないな」
ライマルの言葉で手を離した。どうやら実力を試されたらしい。ボラン家の連中がハンターギルドを去るのを見送ってから、受付嬢にハグレについて尋ねた。
「第十九階層に抓裂竜が現れたらしいの。討伐はボラン家のライマルさんに依頼しました」
ハグレは危険な存在である。発見される度に討伐隊が組まれるようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます