第317話 修行とハグレ2

 翌日から、また迷宮に潜り実戦で三人を鍛えた。若い三人はどんどん技術を習得し、新しく手に入れた神紋も使い熟せるようになる。


 そういう日が三日ほど続いた頃、ハンターギルドに思い掛けない知らせが届いた。

 ハグレを討伐に向ったライマルたちパーティが、討伐に失敗したという知らせだ。ライマルは死に、生き残ったパーティの一人が逃げ帰ってハンターギルドに知らせたとギルドは発表した。


 迷宮に行く前にハンターギルドへ行くと、ハンターたちが騒いでいた。槍のライマルが死んだという衝撃的なニュースに驚いているようだ。


 カウンターへ行き、迷宮に潜る事を報告すると、受付嬢が待つように告げた。しばらく待っていると二階から山崎が下りて来た。


「ミコト君、済まないが、上に来てくれ」

 俺は山崎を見た。何やら嫌な予感を覚える。

「時間が掛かりそうなんですか?」

「そうだな」


 俺はアカネに顔を向ける。

「アマンダたちを連れて迷宮に行ってくれ」

「ミコト様は一緒に行かないの?」

 アマンダが心細そうに声を上げた。


「第五階層までなら、アカネ一人でも大丈夫だろう。よろしく」

 アカネは頷き胸を叩いた。

「任しといて、ミコトさんも気を付けてね」


 アカネたちがハンターギルドを出て行った後、俺は二階に上がった。案内されたのはギルドの支部長室だった。中に入ると髪が真っ白な爺さんと細マッチョのイケメン男がソファーに座っていた。


「その若いのが、頼りになるハンターかね?」

 爺さんが山崎に尋ねた。

「ああ、名前はミコト。マウセリア王国の一流ハンターだ」


 山崎が紹介してくれたが、爺さんとイケメンは疑わしそうに見ている。本当にこんな若造が役に立つのかと疑っている目だ。


「若いな……大丈夫なのか?」

 イケメンハンターが山崎の方を向いて尋ねた。

「私とミコト君で、ミノタウロスを倒した実績がある。彼が止めを刺したんだ。それで十分だろう」


 爺さんが値踏みするように俺を見て頷いた。

「いいじゃろう。その若いのを含めた三人に頼む」

「ちょっと待ってくれ。俺に依頼のようだが、内容を聞いていないぞ」


 爺さんが初めて気付いたというような顔をする。

「そうじゃった。この三人で第十九階層に現れたハグレを討伐して欲しいんじゃ」

「討伐相手は抓裂竜か?」

 俺が確認すると、イケメンハンターが冷たい視線を俺に向けた。


「抓裂竜が怖いのか。だったら、はっきりと断れ」

「おい、コンラート。ミコトに失礼だろ」

「相手はライマルが破れた相手なんだぞ。足手まといになるような奴は必要ない」


 何だか逃げ道を塞がれたような気がする。ここで依頼を受けないと言えば、自信がなくて逃げたと思われるだろう。それに加え、世話になっている山崎の頼みでもある。


 相手が抓裂竜なら、それほど警戒する必要もないだろう。それだけの自信が有るのだ。支部長らしい爺さんが、報酬は奮発すると約束した。


「その依頼、受けよう。抓裂竜を倒すだけでいいのか?」

「それでいい。報酬は出来る範囲で奮発する。何か必要なものが有れば言ってくれ」

 俺は抓裂竜を討伐に行く事をアカネに伝えてくれるよう頼んだ。


 食料などはギルドが用意したものをリュックに積め、迷宮に出発した。迷宮へ向って歩いている途中、思い出したように山崎が声を上げた。


「そうだ。正式に紹介していなかったな。彼はコンラート、『剣のコンラート』と呼ばれるほどの剣士だ。魔法の腕も確かなんで、こういう場合は心強い」


 山崎がコンラートを紹介してくれた。コンラートは身長一八〇センチほどの美男子で、背中に背負っている長い剣を操る剣士のようだ。動きに隙がないので、剣の技量は相当なものなのだろう。


 ただコンラートというハンターは、抜き身の刀のような雰囲気があり、ピリピリとした緊張感を周りに振り撒いている。少し伊丹に似ているが、伊丹の持つ懐の深さや余裕が感じられない。


 迷宮に入った俺たちは、浅い階層を駆け抜け第十五階層に到着した。この階層は山と谷が連なるエリアで、オーガやゴブリン、コボルトなどの人型魔物がうろついていた。


 遭遇したコボルトの群れに、コンラートが剣を振るう。一騎当千という言葉が思い浮かぶほどの無双ぶりである。御陰で俺たちの方へ来るコボルトは少なく、楽をさせて貰えた。


 コボルトが全滅すると山崎が提案した。

「この先に洞窟がある。そこで野営しよう」

「もう少し進んだ方がいいのではないか」

 コンラートが異を唱えたが、さすがに三人共疲労を覚えていた。


 結局、山崎の提案通りに洞窟で野営する事になる。

「ゴブリンの巣になっていないか心配だったが、大丈夫なようだ」

 洞窟は深さ一〇メートルほどの浅い洞窟で、中は乾燥しているので過ごしやすそうだった。


「ふう、凄い強行軍だったな」

 山崎が声を上げた。通常三日掛け到達する階層まで一日で来たのだ。疲れないはずがなかった。


 この迷宮は第一〇階層までは割りと短時間で横断出来る地形なのだが、第十一階層は沼地、第十二階層は砂漠となっており、横断するだけでも時間が掛かるのだ。


 保存食で食事を済ませた後、コンラートが山崎に尋ねた。

「ライマルの死をどう思う?」

「奴の実力とパーティの仲間を考慮すると……討伐に失敗するとは思えん」


「同意見だ。そうすると誰かがミスをしたか、抓裂竜が普通の奴ではなかったか」

「誰かがミスをしたという方が、可能性は高い」


 俺はパーティの生き残りがどう言っていたのか疑問に思った。二人に確かめると、ミスについても、抓裂竜についても何も言っていなかったらしい。

 結局、疑問だけが残った。抓裂竜と戦ってみなければ判らないようだ。


 翌日の昼頃、第十九階層に到着した。この階層はグランドキャニオンのような峡谷エリアだった。


 俺たちは一時間ほど抓裂竜を探して谷間を彷徨い、峡谷エリアの中央辺りへ来た時、抓裂竜と遭遇した。その姿を見たコンラートが驚きの声を上げる。


「どういう事だ。抓裂竜はこれほど大きくないはずだ」

 遭遇した抓裂竜は通常のものより二回りほど大きかった。

「まずいな。こいつは特異体かもしれない」

 山崎が推測を口にすると、コンラートが顔を青褪めさせた。


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