第291話 古代魔導帝国時代の古書

 一時間ほどで迷宮都市に戻った。俺たちは趙悠館には直帰せずに、ハンターギルドに寄って依頼達成の報告を済ませ、剥ぎ取った毛皮などを換金する


「やっと一個目の依頼達成か。なるべく早く迷宮に挑戦したいんだが、時間が掛かりそうだ」

 疲れた顔をした仙崎はブツブツ言いながら依頼票ボードの方へ歩いて行った。次の依頼を探すのだろう。仙崎は苦労しながら依頼を一つずつ確実に達成し、八日目で一〇個の依頼を終わらせた。


 ハンターランクを三段目に上げる条件をクリアした仙崎は、早速ランクアップし迷宮に入る資格を手に入れた。


 その翌日、仙崎からの要請で魔導寺院へと向かった。今更魔導寺院に何の用が有るのかと思ったが、尋ねてみると仙崎が修行していたクノーバル王国には存在しない神紋がマウセリア王国に在るらしいと言う。


「へえ、何の神紋です?」

「神威光翼と呼ばれる神紋だ。知っているか」

 顔に驚きが出るのを何とか抑え、俺は尋ね返した。

「聞き覚えがないな。どこから得た情報なんです?」


「山崎師匠がクノーバル王国の本屋で見付けた古代魔導帝国時代の古書を解読したんだ。詳しくは言えないが、凄い神紋らしい」


「でも、ここの魔導寺院には『神威光翼の神紋』なんて無いですよ」

「だが、魔導師ギルドの連中なら知っているかもしれんだろ」

 魔導師ギルドの職員に確認するつもりのようだ。


 魔導寺院に到着すると、仙崎は神紋の間がある通路に行き扉を一つずつ反応するか確かめた。因みに、俺は授かった神紋以外の全ての扉が反応するようになっていた。


 戻って来た仙崎が残念そうに。

「本当に『神威光翼の神紋』は無いようだな」

 古代魔導帝国時代の古書に書いて有った『神威光翼の神紋』がある場所というのは、エヴァソン遺跡の事なのかもしれない。


 俺は山崎が所有している古書を読んでみたいと思った。そこには『神威光翼の神紋』以外の第四階梯神紋が眠っている場所も記載されているかもと期待したのだ。クノーバル王国へ仙崎の装備を届けに行く時に頼んでみよう。


 神紋を一つでも授かった者なら誰も思う愚痴を仙崎が零す。

「神紋記憶域なんて制限が無けりゃ、片っ端から神紋を手に入れるんだがな」


 その言葉を聞いて、俺は神紋記憶域の変化について思い出した。二度目の『竜の洗礼』を受けた時、神紋記憶域が拡大したらしいのだ。


 崩風竜を倒した直後には気付かなかったのだが、しばらくした後にエヴァソン遺跡で『神威光翼の神紋』の扉を試すと反応するようになっていた。


 もしかしてと思い、神紋記憶域に魔力を流し込み反応を確かめてみた。魔力に反応し加護神紋が浮かび上がり、神紋記憶域の構造も感じられた。


 明らかに神紋記憶域が拡大していた。以前の二倍ほどになっているようなのだ。嬉しくなった俺は薫に報告した。

「へえ、やっと私と同じくらいになったのね」

 と言われ何だか凹んだのを思い出す。


「おい、魔導師ギルドの職員を紹介してくれ」

 色々思い出していた俺は仙崎に声を掛けられ、意識を現実に戻した。気を取り直しカウンターへ行き顔見知りの職員を紹介した。


 仙崎は『神威光翼の神紋』について訊いたが、職員も知らなかった。

「山崎師匠も幻の神紋だと言っていたからな。簡単に見付けられるはずはないか」

 仙崎が少し落ち込んだ顔で言った。


 仙崎が街で買い物をしてから帰ると言うので、俺は工場へ向かった。親方たちに高速空巡艇の開発について相談しようと思ったのだ。


 工場ではカリス親方とドルジ親方が忙しそうに働いていた。

「あっ、ミコト。何処へ行っていたんだ。こっちは死ぬほど忙しかったんだぞ」

 ドルジ親方が大きな声を上げた。


「済みません。本業が忙しかったんだ」

「何が本業だ。今日から、お前の本業は工場の職人だ」


 無茶苦茶を言っている。それだけ忙しかったのだろう。工場の中を見ていると造り掛けの空巡艇が一隻しかない。


「もう一隻の空巡艇はどうしたんです?」

 二人の親方が苦虫を噛み潰したような顔をする。

「オラツェル王子が、飛行訓練に使うと言って強引に持って行った」


 カリス親方が吐き捨てるように言った。その言葉に付け足すようにドルジ親方が、

「モルガート王子もレースに参加すると聞いて、焦っとるんだろう」


「はあ、そうだったんですか。でも、最終テストは終わっていたんですよね」

「ほとんどは終わっている。だが、レース本番を仮定したテストが済んでおらん」


 ドルジ親方が言ったレース本番を仮定したテストとは、水や食料などを満載して飛んだ場合のテストである。


「二号艇を完成させ、確かめるしかないですね」

 モルガート王子が乗る予定になっている二号艇は、順調に製造が進んでいるようだった。


 俺は二号艇の状態を確かめた。

「二号艇も山場を超えているようじゃないか」

 一号艇を開発した時に、予備の部品なども作っておいたので、それを流用し二号艇は短期間で完成に近付いているようだ。


「まあな……それでなきゃ趙悠館に乗り込んで、お前を工場まで引き摺って来ている」

 ドルジ親方が過激な発言をした。カリス親方は苦笑しながら告げる。

「予備の部品を使ったから、ミコトには一号艇と二号艇の予備部品を作って貰うぞ」


「ええっ、そんな」

 仙崎は伊丹に任せる事になりそうだった。伊丹の指導方針は少しくらい怪我をしても、治癒魔法で治せるから大丈夫というものだが、意外に根性の有りそうな仙崎なら大丈夫だろう。


 俺は明日から工場を手伝うと約束させられて工場を出る。当初の目的だった高速空巡艇の件は、話すべきタイミングじゃないとだけ判った。


 趙悠館に戻り、伊丹に事情を話すと、問題ないと言ってくれた。

「それで仙崎殿の持つ神紋については何か分かったのでござるか?」

「『紅炎爆火の神紋』を授かっているのだけは分かりました」


「ふむ、第六階層までなら大丈夫そうでござるな」

 第七階層からアンデッドの魔物が出て来るので、『光明術の神紋』や『聖光滅邪の神紋』を持っていない者は苦労する。伊丹が『聖光滅邪の神紋』を持っているので任せれば大丈夫なのだが、赤目熊の時のように自分だけで戦うと言い張れば進めなくなるだろう。


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