第275話 変質する魔力2

 まずは依頼人に混じっている敵を排除しなければならない。でないと安心して藤村と村田を制圧出来ない。


 土蔵に行き周囲を見て回ると高い位置に小さな窓が有った。何か台になる物がないか探すがなかった。


 その時、後ろをぷかぷかと浮かんで付いて来る魔力の塊が目に入った。無意識に付いて来るように命令していたらしい。もしかしてと思い魔力の塊を板のように伸ばし、その上に乗ってみた。


 驚いた事に、俺が乗っても大丈夫だった。魔力の板は俺の体重を支えたまま宙に浮かび続いけている。


 窓から中を覗くと依頼人たちがぐったりした感じで座り込んでいた。灯りは照明魔道具が一つ置かれている。


 藤村たちと同じく訓練された動きをしていた人物を探す。入口近くの角に座り込んでいる男を見付ける。その男を直視すると気付かれる恐れが有るので、眼の端で観察した。


 その男は時々周囲に視線を巡らし依頼人たちを観察していた。やはり敵の一味らしい。男が座っている位置を記憶に刻んでから、ドアのある方に回った。途中で魔力の塊を腕輪のようにして左手の腕に嵌めた。


 ドアには大きな南京錠のようなものが掛けられている。<水刃アクアブレード>を使って鍵を切断し手早くドアを開けると中に飛び込んだ。


 犯人の一味の男が素早く立ち上がり隠し持っていたナイフを抜いた。俺は男の懐に飛び込み腹に掌底を当て一時的に戦闘力を奪い、首に腕を回し頸動脈を締め上げ気絶させた。


「何で、その人を?」

 依頼人の一人が声を上げた。

「こいつは俺たちを襲った犯人の一味です」


「なんだって!」

 依頼人の一人が少し大きな声を上げたので、俺は唇の前に指を立てる。

「静かに……犯人に気付かれる」


 そう注意すると気絶した男を土蔵の中にあったロープで縛り上げた。これで依頼人の安全は確保した事になる。


 俺は集まって来た依頼人たちに事情を説明し、しばらく待ってくれるよう頼んだ。

「でも、大丈夫なの。また、閉じ込められたりしない?」

 女性の依頼人が心配そうに声を上げた。


「安心して下さい。俺が犯人を制圧しますから」

 俺は土蔵を出てキャステルハウスの食堂に向かう。足音を忍ばせ食堂の近くまで来た時、中から声が聞こえた。


 それは藤村と村田の声のようだった。

「今頃、小畑たちは鉱山都市ガジェスに到着したな」

「明日にはアメリカ軍の駐屯地に到着するだろう」


 柱に縛られた照井が猿轡をはめられたまま騒いだ。

「五月蝿えな。あの案内人が心配か」

 村田が縛られている照井を袋叩きにした。村田はイケメンの照井が嫌いなようだ。案内人の助手である照井は通常の人間よりも頑丈だったが、一方的に殴られ蹴られ気を失ってしまう。


「おい、止めろ。まだ人質は必要だ」

 藤村と村田は依頼人と案内人を完全に制圧したと思い油断しているようだった。


 俺は<閃光弾フラッシュボム>を食堂に投げ込んだ。強烈な光が食堂を真っ白な光で満たし藤村と村田の眼にダメージを与えた。


「眼が……」「クソッ、誰だ」

 眼が見えなくなっている二人に近付いた俺は素早く拳を叩き込んだ。手加減していても打撃は強力で、数発のパンチで二人とも床に倒れた。


 助手の照井と坂上を開放すると犯人たちをロープで縛り上げ床に転がす。

「ありがとう。助かったよ」

 坂上はげっそりした顔で礼を言った。照井はまだ気を失っている。


「怪我はない?」

 俺が尋ねると坂上が大丈夫だと返事を返した。

「依頼人たちが土蔵に居るので呼んで来て」


 坂上に頼み、俺は捕縛した犯人たちに尋問を始めた。だが、犯人たちの口は固く、全く証言を得られなかった。


 他に誰も居ないなら拷問という手も有るんだが、他の依頼人が居るので拷問とかは出来ない。照井が気が付き身体を起こした。痛むらしい身体のあちこちを確認しながら俺に視線を向けた。


「君が助けてくれたのか?」

「ええ、こいつらから何か聞いていないか?」

 照井がハッとした顔をする。


「大変です。城島さんが殺されます」

 詳しい話を聞くと駐屯地に案内した城島を殺す予定だと藤村と村田が話していたらしい。


「まずいな。城島さんを助けに行かないと」

 犯人たちを土蔵に運び放り込んだ。鍵を壊したので代わりになるものはないか探すと小さな錠前が有ったので鍵を掛ける。


 依頼人たちと照井と坂上が落ち着くのを待ってから。

「俺は城島さんを助ける為に駐屯地に行きます」

「えっ、駐屯地の場所は知ってるの?」

 照井が訊いてきたので頷いた。


「……お願いします。城島さんを助けて下さい」

 照井と坂上が深々と頭を下げた。城島は助手からも慕われているらしい。どっかの上司も見習って欲しいものだ。


 俺は食料と水を背負い袋に詰め、装備を付けてから夜の異世界へと飛び出した。

 町から出ると鉱山都市ガジェスへ続く道を走る。この時は周りが暗かったのでスピードを落とし慎重に道を確かめながら進んだ。少しすると東の空が明るくなり始めたので本気で走り始める。


 本気で走るとサラブレッド並みのスピードが出ていたと思う。完全に人間の限界を超えていた。更に瞬間的ならスピードを上げられるが、長時間走るなら今のスピードが限界だろう。


 夜が明けてから一時間ほどでガジェスへ到着。まだガジェスの街に城島たちが居る可能性が有るが、宿屋を一軒ずつ確認する時間はない。駐屯地に行って探すしかないようだ。


 鉱山都市ガジェスから北東の方角に広がる樹海に入り、その先に在るはずの駐屯地を目指した。樹海を五キロほど進んで地点で軍曹蟻に遭遇した。


 <炎杖フレームワンド>で仕留めようと思ったが、魔力の塊を思い出した。腕輪にしていたものを元の球形に戻し軍曹蟻に投げつけた。


 魔力の塊は軍曹蟻の硬い外殻に当たり、あっさりと跳ね返された。こういう攻撃には使えないらしい。

「駄目だな。何か工夫が必要か」

 軍曹蟻が襲って来たので<風の盾ゲールシールド>で弾き返すと同時に後ろに飛び距離を取る。


 いつの間にか魔力の塊が肩の上に戻って来ていた。どうやら自動的に戻って来るらしい。

 時間がないので、やはり<炎杖フレームワンド>を発動する。青い炎の帯が軍曹蟻に向って伸び、その頭を焼き焦がす。軍曹蟻は逃げようとした。だが、高熱の炎は巨大蟻の脳を焼き息の根を止めた。


 剥ぎ取りをする時間も惜しかったので、そのまま進み駐屯地の近くに在る岩山に到着した。周りを魔力感知で探ってみたが、まだ城島たちは来ていないようだった。


 近くの木に登り待ち伏せする事にする。そして、二時間ほど待った時、城島たち三人が現れた。


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