第273話 キャステルハウスの敵2
その日、城島とミコトがコボルトを狩りに行っている間にキャステルハウスで動きがあった。依頼人の小畑と金村が、城島の助手である照井の部屋を訪ねた。
「照井さん、ちょっといいですか」
「何かあったんですか?」
ドアが開き照井が廊下に出て来た。小畑が照井の正面で注意を惹いている間に、金村が照井の背後から襲った。後頭部を隠し持っていた石で殴られた照井は呆気ないほど簡単にダウンした。
小畑と金村は照井をロープで身動き出来ないように縛り上げると照井の部屋の中に放り投げた。その時、照井の部屋にあった武器を奪った。
同じようにして、もう一人の助手坂上を縛り上げた二人は、キャステルハウスに残っている依頼人たちを呼び集めた。
「照井さんからの伝言で、外にある土蔵の方へ来て欲しいそうです」
小畑はそう言って依頼人たちを土蔵に案内した。その土蔵は倉庫として使っているもので、古い家具や食器などが仕舞われていた。
土蔵の中に依頼人全員が入ったのを確認した小畑は、土蔵の扉を締め鍵を掛けた。依頼人たちは何が起こっているのか分からず、小畑たちに抗議する。
「何をするんだ?」
「おい、扉を開けてくれ」
「開けろ。イタズラにもほどが過ぎるぞ」
閉じ込められた依頼人たちは騒ぎ始めた。土蔵の扉を叩く音が聞こえるが、その扉は頑丈で素手では壊せないものだった。
「静かにしろ。騒ぐと土蔵に火をつけるぞ」
小畑が怒鳴ると土蔵の中が静かになった。その言葉で小畑たちが単なるイタズラではなく、目的が有って自分たちを閉じ込めたのだと気付いたのだ。
「なあ、教えてくれ。あんたたちは何が目的で我々を閉じ込めたんだ。ここじゃあ身代金なんて取れないんだぞ」
中から聞こえた声に、小畑が薄ら笑いを浮かべる。
「ふん、貴様らは案内人にやって貰いたい事をやらせる為の人質だ。大人しくしていれば危害を加えない」
土蔵の中がシーンと静まり返った。
小畑たちは狩りに出掛けている城島の帰りを待った。昼頃になり、コボルト狩りに出ていた俺たちが帰って来た。
「あれっ、依頼人たちの姿が見えないようだが、食事かな」
城島が呟いた。俺たちはキャステルハウスに入り、食堂へ向った。そこで予想しないものを見て驚いた。
助手の照井と坂上がロープで縛り上げられ、床に横たわっていたのだ。口には
「何で……何があったんだ?」
城島が照井たちを助けようとした時、武装した小畑と金村が現れ、照井の首の前にナイフをかざした。
「どういう事だ。小畑さん」
城島が吠えるように大声を上げた。
「動くな。動けばこいつを殺す」
小畑の殺気を感じ冗談ではないと俺たちは悟った。俺が飛び込んで小畑たちを制圧しようと考えた時、その気配を感じた城島が制止した。
「動かないでくれ。ここは僕に従ってくれないか」
照井が殺される事を恐れた城島は、取り敢えず小畑たちに従う事を選択したようだ。
俺は素早く飛び掛かれば制圧出来そうな感じがするのだが、身体の中に有る高馬力エンジンがそう思わせるのかもしれない。ここは慎重に動こうとしている城島に従った方がいいと思った。
「賢い選択だ。藤村、村田そいつらを縛り上げろ」
一緒にコボルト狩りに行った二人が、冷たい目をして俺と城島を縛り上げた。
「貴様らも仲間だったのか」
藤村がニヤリと笑い。
「個人的には感謝しているんだが、任務なんで勘弁してくれ」
縛られた俺と城島は床に転がされた。声も出せず唖然としている本当の依頼人三人は、不安そうにしていた。
「そこの三人には、ちょっとした仕事をして貰う。村田、三人を連れて行って庭に穴を掘らせろ」
「了解」
村田は三人を連れて出て行った。
残った小畑たちに、城島が、
「要求を教えてくれ。僕たちに何をさせるつもりなんだ?」
小畑が俺を指差す。
「こいつは関係ない。あんたにやって貰いたい事があるんだ」
「それは何だ?」
「俺たちをアメリカ軍の駐屯地に案内してくれ」
城島が黙った。
「知っているんだ。あんたは駐屯地が建設中の頃、アメリカ軍に協力していたそうだな」
小畑たちのバックにはちゃんとした組織が有るようだ。
城島が悩んでいると。
「協力しないなら、人質を殺す」
照井に突き付けられたナイフが少し動き、首から血が流れる。刑事ドラマとかで、よく見るシーンだが現実だと痛そうである。照井の顔に苦痛と恐怖が浮かんでいる。
「ま、待て、要求通り案内する」
俺は小畑たちが狙っているものに気付いた。こいつらはアメリカ軍の駐屯地を見張り、クラダダ要塞遺跡の位置を探りだそうとしているのだ。
「よし、その若造は外に運べ」
俺は猿轡をされ藤村に担がれた。そのまま外に運び出され、庭に放り投げられた。
「グッ」
地面に投げ出された衝撃で声が出た。
庭では依頼人三人が穴を掘っていた。結構深い穴である。身動きが出来ないので仕方なく穴が段々と深くなっていくのを見ていると、城島と小畑が出て来た。
「穴なんか掘って何をするつもりだ?」
小畑が肩を竦める。
「この若い案内人に入って貰うのさ」
「な、何だと。仲間と依頼人に危害を加えるなら協力はしないからな」
城島が鋭い口調で言った。
「心配するな。頭だけ出して生き埋めにする。そうでもしないと魔法を使える奴らは安心出来ないからな」
俺は抗議のつもりで身体をくねらせる。
「暴れるな。殺されるよりはマシだろう」
小畑は藤村に命じて掘られた穴に足から俺を入れた。そして、依頼人三人に埋めるように命じる。
城島は済まないというように俺に頭を下げ。
「何で、ミコト君だけ」
「こいつは何となく油断出来ないと感じるんだ。失敗する訳にはいかないんでね」
俺は頭だけ地面の上に出した状態で生き埋めにされた。俺だけ扱いが違うと納得出来ずにいる間に、小畑と金村が城島を連れてキャステルハウスを出て行った。アメリカ軍の駐屯地へ案内させるのだろう。
俺を生き埋めにした依頼人の三人は土蔵の方へ連れて行かれ、そこに閉じ込められたようだ。助手の二人は食堂の柱に括り付けられた。
俺と助手たちで扱いが違うのは、小畑が二人のハンターギルド登録証を見て、何の神紋を持っているか分かっており、地面に埋めるまでもないと判断したようだ。
一人庭に生き埋めにされた俺は藻掻いてみたが抜け出せない。ロープできつく縛られた上に地面に埋められているのだ。どちらか一方だけなら抜け出せたのだが、両方だと物理的な力だけで抜け出すのは難しいようだ。
しかも猿轡までされたので、不明瞭な声で愚痴る事になった。
「クソッ、ハゲボスめ。こんな厄介な仕事ばっかり押し付けやがって」
地面の中でブツブツ文句を言っている俺に、見回りをしていた村田が気付き馬鹿にするように鼻で笑い去って行った。
「クッ、腹の底から湧き上がる悔しさ……この屈辱感は久しぶりだ」
普段抑えている覇気が零れ出そうになる。危うく抑え込むとどうやって地面から抜け出すかを考え始めた。
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