第268話 元同級生は半グレ


 迷宮都市に戻る途中、港湾都市モントハルに寄って一隻の船をチャーターした。中型船だが、崩風竜の死骸を運べるだけの大きさがある。


 俺たちは崩風竜を船に載せ迷宮都市へ向った。崩風竜を解体するにはハンターギルドの力を借りるしかないが、そのまま持っていくと、どうやって持って来たのか疑われそうなので船で運ぶ事にしたのだ。

 迷宮都市に到着し、ハンターギルドのアルフォス支部長に事情を話して解体をお願いする。


 アルフォス支部長は呆れたような顔をして、

「灼炎竜を倒したばかりなのに、今度は崩風竜か。何処で狩りをしたんだ?」

「ミズール大真国に行っていたんだ。そこでね」


「ほう、ミズール大真国でね。崩風竜が出たという情報は初耳なんだが……まあいい」

「解体の方をよろしく頼みます」

「判った。それで肉はどうする。またハムにするか?」


「ええ、趙悠館では人気が有りますから、それでお願いします」

 アルフォス支部長は少し躊躇ってから口を開く。

「王都から竜肉ハムを送れと五月蝿いんだ。趙悠館で竜肉ハムを食べた王様が貴族たちに自慢した所為だ。ハンターギルドに卸す量を増やしてくれないか」


 竜肉ハムは少量だが世話になったハンターギルドにも卸している。滅多に作れないものだから少量ずつ街の料理屋に販売しているはずだ。

 俺は王都に送る分の竜肉ハムを約束する。


 崩風竜の解体を手配した俺たちは趙悠館に戻り通常通りの生活を過ごし始めた。

 その数日後、俺とアカネはリアルワールドに戻った。


 俺はクラダダ要塞遺跡での顛末を報告書に纏め提出する必要があり、アカネは働き詰めだったので、休暇を取る為である。エステに行きたいと言っていたのでのんびりするのだろう。


 日本に戻った俺は、JTG支部の自分のデスクで報告書を書いていた。その姿を見付けた東條管理官が近寄って来る。


「遺跡調査の件はご苦労だったな」

「大変な目に遭いましたよ。珍しく伊丹さんも怒ってました」

 東條管理官が渋い顔をする。

「そうか、でも無事で帰れたのは何よりだ」


 俺は東條管理官に視線を向けた。

「アメリカは遺跡調査の結果を知らせて来たんですか?」

「いや、まだだ。アメリカから魔導技術の権威が沖縄基地に呼ばれたようだから、何か成果は有ったようだ」


 何処から仕入れてきた情報だか分からないが教えてくれた。俺はアメリカから詳しい報告書を出すように言われたと伝える。


「どうせJTGにも報告書は必要だ。手間は同じだろう。それより遺跡調査プロジェクトを嗅ぎ回っている連中がいるらしい」


「えっ、何処の連中です?」

「判らん。だが、動いているのは東洋系の顔立ちをした連中らしい」

 沖縄のグレイム中佐から、ミコトたちも注意するようにという連絡が有ったそうだ。


 報告書を書き上げ仕事を終わらせた俺は、久しぶりに映画でも見ようと街に出た。リアルワールドに居る時間が少ないので、こういう時は積極的に話題の映画などを見るようにしているのだ。


 面白そうな宇宙戦争ものの映画を上映していたので映画館に入った。映画を楽しんでから外に出ると星が瞬く時間になっていた。夜の街の雰囲気を楽しみながらぶらぶらしていると前から見覚えのある三人の高校生が歩いて来る。


「鬼島じゃないか。久しぶり」

 鬼島と名字を呼ばれたのは久しぶりだ。この三人は中学時代の同級生であるのだが、あまり親しかったとは言えない。評判のいい連中ではなかったからだ。


「ああ、近藤と杉田に古畑か」

 三人の中で一番体格のいい近藤が近寄って来て酒臭い息を吹き掛けながら、俺の肩に手を回す。


「ああじゃねえよ。いきなり行方不明になりやがって、何処に行ってたんだ?」

 ちょっと説明に困った。異世界に行っていたと正直に話すと騒がれそうだ。


「仕事探してたんだ。今は働きながら通信教育で勉強している」

 軽薄な感じの杉田が大げさに驚く。

「ひょえー、それって勤労学生とか言うんだろ。鬼島は偉いね」


 言っている言葉は褒めているのだが、その軽い口調は馬鹿にされているように感じる。

「おい、お前ら酒を飲んでるのか」

 俺が咎めるように言った。


「何だ、酒くらいいいだろ。これから楽しい所へ行くんだ。お前も来い」

 俺は強引に近くにあるビルの地下に連れて行かれた。振り払って帰る事も出来たが、こいつらがどんな日常を送っているのか興味が湧いたので付いて行く。


 連れて行かれたのは近くのビルの地下だった。木製の洒落たドアを開け中に入る。元飲食店だったらしい場所だった。潰れたらしくガランとしている。照明は天井付近に裸電球が三個ぶら下がっているだけで薄暗かった。


 中には七、八人の暑苦しい男が居た。男たちはまだ若く年長でも二〇代前半だろう。どうやら半グレと呼ばれる集団らしい。


「ここは、俺たちの道場みたいな場所だ。リーダーの三島さんは凄えんだぜ。ヤー公二人をボコボコにした事も有るんだ」


「遅いぞ、お前ら」

 背が高く何か格闘技をしているらしいリーダー格の三島という男が近藤たちを叱る。

「すいません、途中で昔の同級生に会ったんで遅れました」


「馬鹿野郎、何で連れて来てるんだ。今日は荒らしに行くと言ってあっただろ」

「あっ!」

 近藤たちは忘れていたらしい。『荒らし』って何だろう。


 その時、入口の方でドアが乱暴に開けられる音がした。ドカドカと六人の男たちが入って来る。その面構えと服装から判斷すると『ヤ』の付く職業の男たちである。


「てめらだな、うちのシマで悪さしてるのは」

 ドスの効いた声で狗頭の大男が近藤たちを脅した。この半グレ集団は近隣の飲食店で暴れ、店を脅して金を巻き上げていたらしい。


 近藤・杉田・古畑の三人はビビっていたが、半グレのリーダー三島が大声を上げる。

「お前ら誰だ?」


 狗頭男が苦笑いして、

「俺たちを知らねえで悪さをしてたのかよ。ふざけやがって。大轍興業の者だ」

 昔は何とか組とか呼ばれていた組織である。


 危ない雰囲気になってきたので、俺はこっそりとドアの方へと移動し外に出ようとした。見付かった。

「おい、兄ちゃん。何、逃げ出そうとしとるんや」

 俺の忍び足もまだまだのようだ。


「俺は関係者じゃないんで失礼します」

 それを聞いた近藤が、

「ダチを見捨てて逃げるのかよ」

 『お前らなんか友達じゃねえ』と反射的に言いそうになった。


 大轍興業の下っ端がドアの前に移動し逃げ道を塞いだ。

「あいつら、お前の事をダチだと言ってるぞ。それに無関係だったとしても、外に出してサツに通報されたらまずい」


 俺は部屋の隅に引っ込む事にした。

「チッ、意気地のない野郎だぜ」

 近藤たちも軽蔑するような視線を俺に向けて来た。……頭に来る。あいつらが俺を巻き込んだのに。

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