第267話 遺跡脱出

 俺たちはその装置を持ち帰ろうと考えた。方法は二つ、<圧縮結界>で小さくして運ぶか、魔導バッグに入れて運ぶかである。


 <圧縮結界>は使用中常時魔力を消費するので、魔導バッグに入れたいのだが、問題が発生した。魔導バッグの出し入れ口が装置が通れるほど大きくないのだ。


「何悩んでいるの。装置を縮小してから魔導バッグに入れたらいいじゃない」

「なるほど」


 <圧縮結界>で縮小したものを魔導バッグの中に入れると元の大きさに戻るのは判っている。それは最初心配していた空間を扱う魔法同士が干渉するという訳ではなく、単に<圧縮結界>を維持する魔力を送れなくなるので元に戻るようなのだ。


 手で握っている限りは<圧縮結界>は健在で、魔導バッグに入れ手を離した瞬間、元に戻る。


 だから、魔導バッグの能力以上の容量があるものは入れられず、崩風竜も縮小して改造型飛行バギーの荷台に括り付けてある。

 俺は飛翔液精製装置を魔導バッグに入れた。


「地獄トカゲが戻って来ないうちに帰ろう。もう一度<臭気爆弾>を使うなんていうのは絶対嫌だからね」

 薫の言葉で撤収となった。格納庫に戻り、改造型飛行バギーに乗って遺跡を離れる。


 駐屯地の近くまで飛び、着陸出来る場所を探して下りた。

 ここでアメリカ軍人の死体を魔導バッグから取り出し、最後部座席に積み重ねるようにしてロープで固定した。

 三人の死体を一つの座席に積むのは大変だった。


 俺と薫が真ん中の座席を半分ずつ分けて座る。いわゆる半ケツ状態である。その状態で伊丹が操縦し駐屯地に着陸した。


 俺たちが着陸すると駐屯地の兵士たちが集まって来た。そして、後部座席に積まれている死体を見ると顔を顰めて、死体を運び始めた。


「二人はここに残っていてくれ。俺がベニングス少将に報告してくる」

「分かった。気を付けてね」

 薫の返答を聞いてから、兵士の一人を捕まえてベニングス少将の所へ案内して貰う。


 ベニングス少将の部屋に入ると少将とグレイム中佐が居た。

「無事だったんだな。良かった」

 グレイム中佐が五体満足な俺を見て喜んでくれた。一方、ベニングス少将は調査チームの方が心配らしい。


「オーウェン中佐たちはどうなった。チームは遺跡に入れたのかね?」

 俺はオーウェン中佐の名前を聞き不機嫌な顔になって返答する。

「オーウェン中佐たちは遺跡に入りましたよ」

「そうか、良かった」


 少将と中佐はホッとしたようだった。だが、俺が仏頂面をしているのに気付いたグレイム中佐が、

「何か有ったのか?」


 俺は崩風竜と遭遇した直後からの状況を語り始め、荒武者たちやオーウェン中佐たちが俺たちを残して逃げたと伝えると二人が複雑な表情をした。


「そ、それは済まなかった。彼らは遺跡調査が第一だと命令されているのだ。だから、そんな行動に出たのだろう」


 グレイム中佐が同僚たちを庇うが、納得出来るものではなかった。

「初めに逃げたのはバンヒョンとビョンイクなのだな。奴らがそんな真似をしなければ、中佐たちも君らを置いて遺跡に向かう事はしなかっただろう」

 少将は苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨てるように言った。


 俺は崩風竜との戦いを報告した。但し、伊丹の竜閃砲と薫の<光翼衛星フレアサテライト>については秘匿し、退治したとは言わず撃退したと報告する。


 僅か三人で崩風竜を撃退した実力を、少将と中佐も高く評価し絶賛した。だが、倒したのではなく撃退しただけというのを残念がり、不安に思ったようだ。


「それでは崩風竜が戻って来る可能性も有るのだね?」

 グレイム中佐に俺は頷いた。

「ですが、かなりのダメージを与えたので、それが回復するまでは戻らないと思います」


「そうか、ご苦労だった」

 俺が帰ろうとするとグレイム中佐が、

「済まないが、リアルワールドへ戻ったら、ちゃんとした報告書を提出してくれないか」

「分かりました」

 最後に少将から、崩風竜に殺された部下を持ち帰ってくれた事に対して感謝された。


 俺が去った後、ベニングス少将とグレイム中佐が話を続けていた。

「韓国人の二人は、竜を殺した猛者では無かったのか」

 少将は韓国人二人を疑っているようだ。


「それなのですが、竜の一部らしい素材を剥ぎ取って持ち帰ったのが確認されていますから、間違いないと思われます。ですが、ランクの低い竜だった可能性が有ります」


「スペイン人たちはどうなのだ?」

「奴らが竜種を倒したのは事実です。ですが、大勢の現地人と協力してと報告に有りますので、あの三人の実力は今ひとつ把握出来ていませんでした」


「崩風竜に匹敵する竜を倒す実力が有るのは、ミコトたちだけだった可能性が有るのか」

「ええ、我が国で一番の猛者が問題を起こさなければ協力させたのですが……」


 ベニングス少将はグレイム中佐が誰の事を言っているのか判った。属竜種を倒した猛者がアメリカには居る。但し、その人物は刑務所の中である。

 ハリウッドの近くで街のチンピラと諍いを起こし一〇人以上を殺したのだ。


 翌日、遺跡調査チームが四人だけになって帰って来た。オーウェン中佐から報告を聞いたベニングス少将は目眩を起こしそうになる。


「何故……最後の最後に油断したんだ?」

「崩風竜の所為です。<魔力感知>が出来る者が奴に殺され、地獄トカゲに気付けなかった」


「クソッ、また一からメンバーを揃えなきゃならん」

 少将が激怒するのも理解するが、オーウェン中佐としては今回の調査では成果も上がっているので、そこを評価して欲しかった。そうでなければ、死んだ仲間たちが浮かばれない。


「持ち帰ったものを調査すれば、必ず本国もクラダダ要塞遺跡の重要性を認識し協力が下りると思います」

 オーウェン中佐はそう言うと装甲車から取り外して持って来た搭載武器が置いてある机の方を見た。


「判っている。その点については評価しよう。だが、遺跡調査は今回の一回だけではなく、今後も続くという事を理解しておいて欲しかった」


「申し訳ありません」

 少将は溜息を漏らした。

「魔導技術の権威を招き、その武器を研究させよう。そうすれば、軍上層部もクラダダ要塞遺跡に資金と人材をつぎ込む価値が有ると判ってくれるだろう」


 ベニングス少将の予想は当たり、装甲車の搭載武器を研究した結果、クラダダ要塞遺跡の調査プロジェクトの優先順位が上がり、何としてもクラダダ要塞遺跡の全てを調査しろと命令が下った。


 ただアメリカは、ミコトたちが重要な情報や遺物を回収し迷宮都市に持ち帰ったとは全く気付いていなかった。


 一方、ミコトたちは置き去りにされ、自分たちだけで崩風竜を倒したのだから、これくらい持ち帰ってもいいだろうと考えていた。樹海の中に有るクラダダ要塞遺跡は、アメリカの所有物ではないのだから。


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