第255話 ミコトたちの評価

 帰りの改造型飛行バギーの中で、アカネが心配そうな顔をする。

「どうかしたのでござるか。アカネ殿」

「今回の狩りで手の内をアメリカさんに幾つか見せたでしょ。あちらの反応が怖いのよ」


 絶牙槍や絶烈鉈は最初から見せるつもりだったので問題ないが、<魔粒子凝集砲マナコヒージュンキャノン>や<雷砲弾サンダーキャノン>を見せたのは失敗だったかもしれない。


「ミコト殿の<魔粒子凝集砲マナコヒージュンキャノン>は真似の出来ないものでござれば、見せても良いのではござらんか?」


「宝珠の間で手に入れた『時空結界術の神紋』を元にしているからね。真似は無理だけど、崩風竜の撃退に協力してくれと言われそうだ」


 アカネがそうだと頷く。

「JTGの理事なんかは、どれだけ危険か分かりもしないで協力しろとか言い出しそうで嫌なのよ」


 伊丹が不敵に笑う。

「協力すればいいのでござる。その代わりクラダダ要塞遺跡の調査に我々も参加させるのでござる」


 俺は伊丹の言いたい事が判った。危険に見合った報酬を自分たちで探して手に入れようと言うのだ。

「アメリカが承知するかしら?」

 アカネの言葉に首を捻った。


「元々、日本からもオブザーバー的な人が参加するって聞いたけど」

「協力している同盟国全ての人間を遺跡調査に参加させるとは思えない。たぶん遺跡から持ち帰ったものをちょっと見せて貰えるだけよ」


 遺跡内部も危険だと言っていたので、戦闘能力のない者は参加させないだろう。そうなるとログハウスに集まっていた荒武者たちと調査に必要な知識を詰め込んだ軍人が参加者となる。


「クラダダ要塞遺跡の場所さえ判れば、遺跡内部に入るのは何とでもなるのではござらんか」

「なるほど……でも、それほどの危険を犯すメリットが有るのか」

「それは迷宮探査も同じでござる」

 俺たちは迷宮都市に向かった。


 ミコトたちが去った駐屯地では、ベニングス少将とチャールズが話をしていた。

「チャールズ、彼らをどう思う?」


「ミコトの攻撃魔法は凄いです。あの威力なら崩風竜を撃退可能かも」

「そうか。崩風竜を倒せるとは言わないのだな」


「ミコトが一発だけ撃って、二発目を撃たずに魔導武器を取り出したのが気になります」

「ああ、続けて撃てない可能性が有ると考えているのか……なるほど」


「それに彼らが使っていた武器は魔導武器のようですね。魔力を注ぐと刀身から魔力の剣が伸びていました。抓裂竜を切り裂いた切れ味は尋常なものではなかった。あれほどの源紋を秘めている素材となると竜から剥ぎ取った素材を使ったものと思います」


 ベニングス少将もミコトたちが使った武器については興味を持った。あの魔導武器を買い取りたいと言い出しそうになったが止めた。ミコトたちがあれほどの武器を手放すとは思えなかったからだ。


「彼らを遺跡調査の一員として参加させてはどうです?」

 チャールズが提案した。

「だが、ミコトは二十歳にも達していない少年だ。それに遺跡調査に参加する国を増やせば、それだけ成果の分配が厄介になる」


「ですが、ミコトの魔法が有れば、崩風竜を倒せなくとも撃退は可能だと思います。たぶん、私の魔法では崩風竜にダメージを与えられない」


「ビョンイクや他の者たちの攻撃魔法ならどうだ?」

「韓国人の神紋は『崩岩神威ほうがんしんいの神紋』……応用魔法の<天崩爆クラプスメテオ>が命中すれば崩風竜でも撃退出来るだろうが、崩風竜は空を飛べる飛竜タイプですよ。あんな大技が命中する訳がない」


「スペインの兄弟はどうだ?」

「あいつらの『天雷嵐渦てんらいらんかの神紋』は強力ですが、崩風竜に通じるかどうか微妙な所です」


 マナ研開発の一件で、日本が世界に先駆けた魔導技術を所有しているのが判り、アメリカは日本に対して警戒心を持ったようだ。アメリカの首脳陣は、クラダダ要塞遺跡から得られた情報を日本へ渡したくないと考えていた。


 少将は真剣な顔で考え込む。

「崩風竜の撃退だけをミコトたちに頼めないだろうか?」

「そんな虫の良い話を日本政府が飲むと思いますか?」


「日本政府には秘密にして、彼らだけに話を持ち掛けてみるのはどうだ?」

 他の同盟国の荒武者たちが遺跡調査で発見された情報の開示を求めたのは、同盟国の政府から要請されたからである。そこを考え、日本政府に秘密にする事を提案した。


「試してみる価値はある」

「提案だけはしてみよう。金だけなら面倒が増えなくて済む」



   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 数日後、日本においてベニングス少将とミコトは再会する。場所は沖縄の米軍基地である。応接室のような部屋に案内された俺は、ベニングス少将とグレイム中佐に迎えられた。


「基地へようこそ」

「飲み物は何がいいかね?」

 グレイム中佐が聞き、俺はホットコーヒーを頼んだ。


 ベニングス少将が抓裂竜狩りの件で礼を言い、その報酬について説明した。その報酬額は俺が予想していたより高く驚いた。


 抓裂竜狩りの報酬額については、伊丹とアカネから希望額は聞いていた。その額より少将が提示した金額が大きかったので、承諾し書類にサインした。


 これで三等分した金額が俺たちの口座に振り込まれるはずだ。因みに魔導飛行バギーと簡易魔導核に関する金は、既に口座に振り込まれていた。


 その後、ちょっとした雑談を交わしてから、グレイム中佐が本題を切り出す。

「ミコト君たちに崩風竜を撃退する手伝いをして欲しい」

 俺は少将の顔を見てから答える。


「条件次第ですね」

 ベニングス少将が難しい顔になった。

「何かな。その条件というのは?」


「遺跡調査に参加させる事とメンバーの人選をこちらに任せて欲しいのです」

 俺と少将、中佐の間で交渉が行われ、結局、遺跡調査には参加させられないが多額の報酬が支払われる事になった。


 マナ研開発の研究資金が多いほど研究開発が進むので、こちらとしては嬉しいのだが、日本だけ仲間はずれにされたようで気分が良くない。


「メンバーの件だが、抓裂竜狩りに参加された三人ではないのかね?」

 グレイム中佐の質問に、

「アカネの代わりに優秀な魔導師を参加させます」


「何者かね?」

「迷宮都市で活動する協力者です」

 ベニングス少将が難しい顔になった。協力者という言葉で、現地人だと少将は思ったようだ。


「その魔導師の実力は確かなのか?」

「その点は心配いりません。彼女は竜を倒せるほどの魔導師です」

 ベニングス少将は少し考えてから承知した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る