第253話 遺跡調査隊の装備(2)
ベニングス少将たちは魔導飛行バギーに乗ってヒクリス高原へ行き抓裂竜を狩るつもりのようだ。抓裂竜の素材で装備を作りたいのだろう。
「待て、チャールズ。お前はワイバーンの装備を手に入れただろ。今度は俺たちの分なんだろうな」
スペインから来ているカルデロン兄弟が横槍を入れた。三人兄弟でセシリオ・ヘルマン・リベルトである。
チャールズが溜息を吐き出す。
「だったら、お前らが抓裂竜を仕留めろよ」
「馬鹿言うな。装備を用意するのはアメリカ軍だろ。碌な装備もない状態で竜を相手するほど馬鹿じゃねえぞ」
世間では荒武者が無鉄砲な戦闘バカだと思われがちだが、本当の荒武者は臆病なほど慎重な面がある。装備は欲しいが、リスクの高い狩りはしたくないようだ。
俺も彼らの考えは理解出来る。竜という魔物の攻撃を一回でも受ければ、自分が死ぬのだ。失敗が許されない戦いなら、装備一つでも疎かに出来ない。
「抓裂竜を狩りに行く者は決まったのですか?」
チャールズが心配そうに訊いた。自国の軍隊なので気に掛けているようだ。
「そこで、ミスター・伊丹に相談なのだが、手伝ってくれないか?」
突然の申し出に伊丹は驚いたようだ。
「拙者がでござるか」
「ミスター・チャールズも手伝うと申し出てくれたのだが、彼と初めて竜と戦う部下たちだけだと不安なのだ」
少将が俺たちに事情を詳しく話していたのは、伊丹に手伝わせたかったからのようだ。
伊丹だけに依頼したのは、俺が未成年であり、アカネが女性であるという点を考慮したそうだ。
ハンターギルドのランク付けで抓裂竜とワイバーンが同じになっているのを、伊丹は知っていた。
だが、ワイバーンのランク付けには、単なる強さだけではなく、空を飛ぶ事も考慮されランクが上げられているのも承知している。地上で抓裂竜とワイバーンが戦えば、圧倒的な強さで抓裂竜が勝利するだろう。
チャールズやアメリカ兵の強さが分からないので、単独で抓裂竜を倒せるか考えてみた。絶牙槍を使ったとしても不安が残る。
「そうでござるな。拙者としてはお引き受けしても良いのだが、万全の戦力を整えようと考えるのなら、ミコト殿やアカネ殿にも参加して貰うのが一番でござる」
少将は驚いた顔をする。
「どうしてミコト君たちも参加させた方が良いのか、理由を教えてくれるかな?」
「我らの中で最大の攻撃力を持つのがミコト殿で、アカネ殿が持つ神紋は竜との戦いで有用だと判断したからでござる」
少将は二人に視線を向け。
「失礼だが、二人の実力が判らんので迷っている。判断基準となる情報を教えて欲しい」
俺は少し考えてから、
「先日、俺とアカネ、それにもう一人がクレボ峡谷でワイバーンの群れに襲われ撃退しました。仕留めたワイバーンは十数匹になります」
少将とチャールズが驚きで声を失った。
「……少将、それだけの実力が有るのなら、連れて行った方がいい」
「ワイバーンの件が本当なら当然だ。高額の報酬を出そう」
ベニングス少将と正式な契約を結んだ。狩りに参加するだけで五万ドル、成功報酬がそれ以上となった。
成功報酬が具体的な金額でないのは、貢献度を少将が判断して査定すると決めたからだ。最後に止めを刺したなら、数十万ドルの報酬が手に入りそうだった。
その日は駐屯地に宿泊し、翌朝ヒクリス高原へ向かう事に決まった。
翌朝、三台の魔導飛行バギーに乗った俺たちは、ヒクリス高原へ飛んだ。狩りの人員は、俺たち三人とベニングス少将、チャールズ、それに少将の部下四人である。
ヒクリス高原は北へ一時間ほど飛んだ位置に在った。標高八〇〇メートルほどの高原で周りが崖となっているので徒歩で行くのは困難なようだ。
俺は<魔力感知>で抓裂竜を探した。高原の広さは四国の半分ほどで広大である。その中から一匹の魔物を探すのは困難だと最初は思っていた。
ところが、探査範囲が半径八キロほどの<魔力感知>に次々に大型魔物の魔力が引っ掛かった。
この高原は魔物の宝庫らしい。
俺は炎角獣を発見し進路を変えた。ベニングス少将から簡易魔導核と組み合わせて魔導武器が出来る素材が欲しいと言われていたからだ。
炎角獣は十数匹の群れだった。それらの頭上を飛んで、伊丹とアカネが<
伊丹とアカネの<
倒れている炎角獣の近くに着陸する。少将が近付き、呆れたような声で言う。
「君たちの狩りはああいうものなのか。まるで爆撃機を使って狩りをしているみたいじゃないか」
「時間が勿体無いので、一番簡単な方法を取りました」
少将の部下たちが倒れている炎角獣に止めを刺し、その角を剥ぎ取った。
チャールズが歩み寄り、炎角獣の死体を検分する。
「骨が折れ、内臓が潰れている。かなりの威力だな……とは言え、抓裂竜に通用するとは思えん」
伊丹が肩を竦める。
「あれは第一階梯『魔力変現の神紋』の応用魔法でござる」
チャールズと少将が目を見張る。
「馬鹿な、第一階梯……それでルーク級が……」
二人はどういう魔法なのか詳しく知りたがり、仕方なく説明する。
そうしている間に、何度か<魔力感知>を行い、大きな魔力の塊が近付いて来るのに気付いた。炎角獣が流した血の臭いに誘われたようだ。
だが、この<魔力感知>により気付いた魔力の塊が予想以上に大きく、時々ブレるように感じる事に違和感を覚えた。
「大型の魔物が近付いている」
俺が呟くように言うとチャールズが口を閉じ気配を探る。
遠くで重々しい足音が聞こえ始めた。
「この足音、大物に間違いない」
チャールズが警告の声を上げた。兵士たちが武器を取り周囲を見回す。俺は北西の方角を指差した。
「向こうから大きな魔物が近付いている。魔導飛行バギーは後ろの林の中に退避させて」
魔導飛行バギーで戦う事も考えたが、竜だった場合、強烈な咆哮を放つ奴が居るので危険だった。俺たちやチャールズなら、咆哮の衝撃に耐え戦闘を続けられそうだが、兵士たちには難しいかもしれない。
灼炎竜と戦った時、竜の咆哮を浴びて気を失いそうになったのを思い出していた。
アカネと兵士二人が魔導飛行バギーに乗って林に向かった。足音は次第に大きくなり、木が折れるバキッという音が響いた。ベニングス少将とチャールズが寄って来る。
「最初の攻撃は、俺に任せてくれ」
チャールズが言う。少将が承認した。
俺はマナ杖を出し<
高原に生えている背の高い木々を押し退けながら、二匹の竜が姿を現した。ベニングス少将が顔を青褪めさせ声を上げる。
「そんな……二匹の抓裂竜と遭遇するとは」
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