第252話 遺跡調査隊の装備

 ベニングス少将が詳しい情報を、俺達に与える事に疑問を持った。

 クラダダ要塞遺跡は兵器が絡んでいるとすれば軍事機密だろう。なのに、平気な顔で俺達に話している。どうやら何か理由が有りそうだ。


「我々が自国や同盟国の荒武者を集めているのは知っているね」

 俺達は頷いた。

「ええ、崩風竜を倒すか撃退するつもりだと聞いています」


「その通り……だが、問題が起きている。各国から集めた荒武者の装備を用意出来ないでいるのだ」

 各国から集めた荒武者たちは、自分たちで集めた武器や防具を装備して戦ってきた。


 アメリカは凄腕を駐屯地に集めたまでは良かったが、その者たちが満足する装備を用意出来ず頭を抱えていた。竜を倒すほどの強者が装備していたものである。同等のものを揃えるのは難しいのは頷ける。


「そりゃそうか。人間だけならリアルワールドに戻って飛行機で沖縄へ行き転移門を潜らせれば連れて来れるけど、装備は転移門で転移させられないから」


 俺が言うとベニングス少将が苦笑いする。

「因みに、韓国のミスター・ビョンイクが装備していたのは、ワイバーン革製鎧とコカトリスの爪で作ったグレイブだ」


 伊丹が、その装備を不審に思った。

「ミスター・ビョンイクと申せば、黒鎧竜を倒したと有名だが、鎧は黒鎧竜の革ではなかったのでござるか?」


「ああ、黒鎧竜の皮を鎧に仕立てるには時間が掛かるそうだ」

 俺たちは灼炎竜の皮を鎧にするのに手間が掛かったのを知っているので納得した。


「他にも将軍蟻の外殻で作られた鎧や迷宮から産出した魔導武器を装備していた者も居る」

 アメリカが簡易魔導核を求めた理由が判った。荒武者たちが装備していた魔導武器の代わりとなる物を簡易魔導核を使って作ろうと考えているのだ。


 でも、一つ不審な点が頭に浮かぶ。

「だが、崩風竜に接近戦は無理でござろう。攻撃魔法か何かで撃退するのならば、神紋杖を用意すれば良いのでは?」


 伊丹も同じ点に疑問を持ったようだ。

「遺跡の内部にも魔物が住み着いている可能性がある。それに防具は竜相手の戦いで必要だ」

 人の居なくなった遺跡に魔物が住み着いている可能性は高い。魔物でも雨風が凌げる場所は巣として最適なのだ。


 そこまで話して、ベニングス少将が俺たちを値踏みにするように見る。

「君たちは案内人として有能だと聞いている。特にミスター・伊丹やミコト君は、日本でトップクラスの強者だそうだね」


 少将は俺たちに遺跡調査隊が装備する武器や防具を用意出来ないかと相談した。俺たちに崩風竜を何とかしてくれと言われるよりマシだったが、装備など自分で用意するものだ。


「ビョンイクさんたちが自分で用意すればいいじゃないですか。使っていた装備も自分で手に入れたものなんでしょ」


 少将が首を振る。

「そうは言っても時間が限られている。いつまでもここに彼らを引き止められる訳じゃないからね。それに彼らとの契約で武器は我々が用意するとなっているのだ」


 荒武者の中にも自分たちで装備の素材となる魔物を仕留め用意した者もいるようだ。ただ本来の装備よりランクが一段下になるものらしい。


 例を挙げるとアメリカの荒武者チャールズ・アシュビーはワイバーンを仕留めて革と爪で装備を用意した。だが本来の装備はバジリスクの革と爪を使ったものらしい。

 以前の俺と同じ装備である。但し、向こうはグレイブだったようだ。


「ところで、君らの鎧だが、どんな魔物の革かね?」

 アメリカは俺たちが灼炎竜を倒した事を知らないらしい。いや、もしかすると竜を倒したという情報は入っているが、未成年の俺が竜を倒したなどとは信じられず信憑性に欠けると弾かれたのかもしれない。


 俺はどう答えるか迷い、伊丹とアカネを見た。伊丹が何か考えが有るのか誤魔化した。

「首長黒竜の亜種でござる」

「首長黒竜にオレンジ色の亜種がいるのか。知らなかったよ。だが、凄いな。君らが狩った竜なのだろ」


「そうでござるが……ここに集められた荒武者の方々は、それ以上の竜を倒した者たちなのではござらんか」

 ベニングス少将は何故か溜息を吐いた。


「そうなのだが、癖の強い者が多くてな。苦労させられている。───そうだ。彼らを紹介して上げよう」

 余計なお世話だと思ったが、少将が厚意? で紹介してやると言うのだ。断れなかった。


 荒武者たちが宿泊しているログハウスに行くと入口近くにあるダイニングルームに九人の男たちが寛いでいた。


 中の一人はビョンイクである。彼はミスリル合金製ロングソードを手に持ち眺めていた。

「少将、何とかならないのか。こんな武器じゃ私の実力を発揮出来ない」


「判っている。もう少し待ってくれ」

 そう言ってから、ベニングス少将が俺たちを紹介した。


「オヤッ、日本で会ったお嬢さんじゃないですか」

 ビョンイクがアカネを見ると声を上げた。すると少し後ろに座っていた同じ韓国人らしい男がニヤッと笑って近付いて来た。大男で無精髭を生やしている。


「何だ。ビョンイクの知り合いか。俺にも紹介しろよ」

 ビョンイクが嫌そうな顔をしてから。

「こいつは、韓国から招かれたもう一人のハンター、チェ・バンヒョンです。粗野な男なんで勘弁して下さい」


 バンヒョンが舌打ちをする。

「チッ、そんな紹介があるか。この駐屯地、食事は兎も角、女が少ねえんだから独り占めは許さねえぞ」

 俺はムッとして、バンヒョンを睨んだ。


「なんだ小僧。お前の女じゃないんだろ」

 チェ・バンヒョンは韓国で竜を倒したと名乗り出た二人目で、アメリカは多額の報酬を約束し、ここに招いていた。


 ベニングス少将がバンヒョンを止めた。

「ミスター・バンヒョン、こちらはお客様なんだ。口の利き方には注意してくれ」


「ふん。まさか、遺跡調査に参加させるつもりじゃないだろうな。女と小僧は足手纏あしでまといになるだけだぞ」

 そこに大柄な白人の男が割り込んだ。


「止めろ。弱い犬ほどよく吠えると言うことわざが日本にあるそうだが本当だな」

「なんだと!」


 ベニングス少将が大声を出す。

「止めないか! ……ミスター・バンヒョンは自分の部屋に戻っていてくれ」

 少将に睨まれたバンヒョンはダイニングルームから出て行った。


 残った白人男性が自己紹介を始めた。

「俺はチャールズ・アシュビー、アメリカ人だ。……君は正式な案内人なのかい?」

 俺が若い為なのか疑問に思ったようだ。


「ええ、案内人です。チャールズさんはワイバーンを仕留めたそうですね?」

「ああ、<水散弾アクアショット>で撃ち落として<鉄水槍アクアスピア>で串刺しにしてやった」


 <水散弾アクアショット>と<鉄水槍アクアスピア>は『水神武帝の神紋』の応用魔法である。<水散弾アクアショット>は水に魔力を充填した胡桃ほどの水の玉を数個飛ばす攻撃魔法で、<鉄水槍アクアスピア>は魔力を充填した水槍を飛ばす攻撃魔法である。


 どちらの魔法も魔粒子を魔系元素の水に変化させ望みの形にした後、魔力を充填する事で鉄ほどに強度と硬さを持たせ敵にダメージを与える。

 マウセリア王国には存在しない神紋なので詳しくは判らないが、第三階梯の神紋らしい。


 竜を倒すほどの強者だと、やはり第三階梯の神紋を授かっているようだ。

「ところで、ヒクリス高原に行く方法は見付かったのですか?」

 チャールズが少将に尋ねると。


「彼らの御蔭で輸送手段を手に入れたよ」

「良かった。これで抓裂竜を仕留めれば、欲しかった装備が手に入る」

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