第251話 ミズール大真国の西端
翌朝、朝早く出発した。途中、樹海の中で山王鹿の群れを見付ける。
金色に輝く王冠のような豪華な角を持つ鹿である。体格は馬と同等で、険しい崖も駆け上がれる馬力と跳躍力を持っている。
攻撃能力は角による攻撃と力強い脚による蹴りだけなので近寄らなければ問題ない魔物である。ただ山王鹿の角は酒に漬け込むと滋養強壮の薬酒となる。その所為で山王鹿は乱獲され数が減り、ハンターギルドから討伐禁止の布告がされていた。
「カリス工房の皆の為に、二、三本手に入れましょうよ」
アカネが、頑張っているカリス工房の皆に薬酒を提供しようと言い出した。
「えっ、山王鹿は討伐禁止でござろう」
「死んだ山王鹿から角だけ頂けばいいのよ」
「なるほど」
アカネの提案に、俺と伊丹は頷いた。
改造型飛行バギーで山王鹿の群れを追い駆け始めた。危険を察知した山王鹿の群れは逃走を開始する。山王鹿は自分より大きな敵を発見すると逃げる習性がある。
逃げる山王鹿は放置して、今までに山王鹿の群れが居た場所を探した。山王鹿はメスを巡ってオス同士が戦い死ぬ事がある。その死骸を探したのだ。
立派な角を持つ二匹の山王鹿が地面に倒れる。改造型飛行バギーを着地させた俺たちは、鹿たちが死んでいる事を確認して黄金色の角を切り取った。
切り取った山王鹿の角を確認してから再出発する。二日目の夜は野営して一夜を過ごし、翌朝早く出発した。
太陽が真上に昇った頃、鉱山都市ガジェスに到着。俺たちは街に入らず、近くの草原で魔導飛行バギーを元の大きさに戻した。それぞれに伊丹とアカネが乗り、アメリカ軍の駐屯地を目差す。
駐屯地はガジェスから北東の方角に在る大きな岩山の近くだと聞いたので、まずは岩山を目差して飛んだ。
すぐに岩山を発見、その頂上に着陸する。岩山から下を見渡すと一箇所だけ違和感のある場所があった。
その一箇所だけ木々が密集しているのだ。
「何かを隠しているんじゃないの」
俺が違和感のある場所を指差すと伊丹とアカネが確認した。アメリカ軍との約束では、この岩山に着陸すれば迎えに来ると言っていたので待つ事にした。
一〇分後、木々が密集している場所から、二人の男たちが現れ、岩山を登り始めた。待っているとハンターらしい装備をした者が姿を見せる。
「ご苦労様、日本の案内人の方ですね」
背の高い東洋人らしい顔つきの男が挨拶をした。ミトア語である。
「はい、案内人のミコトです。魔導飛行バギーを届けに来ました」
それから自己紹介をした。アメリカ軍の二人は東洋系がアルバート少尉で、金髪の軍人がトーマス軍曹だと知った。
アルバート少尉が
「マウセリア王国からだと大変だったんじゃないですか」
「街道沿いに飛んで来たので、魔物とも遭遇せず楽な旅でしたよ」
アメリカ軍の二人はなるほどと頷く。
「やっぱり、樹海の上を飛ぶのは危険ですか?」
「ええ、空飛ぶ魔物と空中戦をするのは不利ですから、魔物の少ない街道沿いを飛ぶのが賢明です」
「ところで、駐屯地は何処でござろうか?」
伊丹が尋ねると案内すると言う。二人に伊丹とアカネの後ろに乗って貰った。魔導飛行バギーがふわりと浮かび、岩山を滑るように降下すると、慣れない二人が声を上げる。
「おっ!」「うわーっ!」
最初こそびっくりしたものの。アメリカ軍の精鋭らしく、すぐに冷静になり方向を指示する。
岩山の裏側に高さ十五メートルほどの台地があり、その上を飛んで奥に向かう。台地には直径五〇メートルほどの窪地となっている場所が有り、そこがアメリカ軍の駐屯地になっていた。
岩山から見た時は木々が邪魔になり、窪地の存在には気付かなかった。
その窪地に着陸した。窪地にはログハウスのような建物が十数棟建っていた。ここに駐屯している軍人の数は一〇〇人以上だろう。
廃鉱になった鉱山跡を駐屯地としていると聞いていたのだが、違ったのだろうか。
その事をアルバート少尉に尋ねると、
「ここの窪地が廃鉱と繋がっていて、そこに入った同僚が窪地を発見したのです」
どうやら情報が間違いという訳ではなかったようだ。
ログハウスの一つから中年の逞しい軍人が出て来た。アルバート少尉が姿勢を正し、その軍人を紹介する。
「こちら、当駐屯地の司令官であるベニングス少将です」
俺たちが自己紹介するとベニングス少将が握手を求めて来た。
「噂は聞いている。中々便利な乗り物だと言うじゃないか」
「ありがとうございます。試し乗りして貰えれば、本当だと分かるはずです」
少将を含めた数人の軍人に魔導飛行バギーに乗って貰った。その中にはヘリコプターの操縦免許を持っているような者もいて、すぐに乗りこなせるようになった。
「少将、こいつは即戦力になると思います」
ヘリコプターの操縦免許を持っている者が駐屯地の上空を飛び回りながら、少将に報告する。
「一台だけ形が違うようだが、あれは何だね」
ベニングス少将が改造型飛行バギーに視線を向けて尋ねた。
「あれは試作品です。どうしても風の所為で乗り心地が悪くなるので、改造したんです」
「なるほど、一般人の送り迎えにはいいかもしれんが、戦闘には向かんな」
防風板を付けた事で乗っている者が攻撃魔法を放ち難くなった点が、マイナス評価されたようだ。
一通り操縦法を伝授した俺たちは、ベニングス少将に誘われログハウスの中に入った。椅子やテーブルが置いてあり、そこに座ると少将が話を始めた。
「日本政府から聞いているかもしれんが、この駐屯地では大きな作戦を予定している」
俺が頷くと説明を始めた。
その遺跡の情報は地元のハンターから仕入れたらしい。最初、アメリカは陸軍の精鋭を集め、遺跡の調査を行った。
地元のハンターからは、遺跡へ向かうルートに危険な魔物が住み着いており、誰も近寄らない場所だと聞いていたが、編成した精鋭部隊なら魔物を蹴散らし遺跡まで調査に行けると信じていたそうだ。
だが、精鋭部隊が遭遇したのは最悪の魔物『竜』だった。十五名の精鋭部隊は竜と戦い、半分以上が死亡した。生き残った精鋭部隊数名は、駐屯地に逃げ戻り、その特徴から竜が『崩風竜』だと判明する。
属竜種の中の一種で強烈な風の刃を撒き散らし敵を殲滅する恐ろしい竜である。しかも猛スピードで空を飛ぶので、攻撃を当てるのも難しかった。
「崩風竜か、厄介だな。……まさか、魔導飛行バギーに乗って戦いを挑むというのじゃないですよね」
ベニングス少将が苦笑いした。
「我々は、それほど愚かではない」
伊丹が疑問に思った点を尋ねた。
「崩風竜と遭遇しないルートはないのでござるか?」
「残念ながら存在しない。丁度遺跡の入口付近を崩風竜が縄張りとしているようなのだ」
「でも、獲物を狩りに行くとかするのじゃないのですか?」
アカネの指摘に、少将が苦い顔をする。
「確かに狩りに行くのだが、我々が遺跡に近付くと何故か気付いて戻って来るのだ」
どうしても崩風竜と戦い、遺跡の中に入るしかないようだ。
「いっそ諦めて、その遺跡には手を出さないという選択も……」
ベニングス少将がきっぱり否定する。
「その選択はない。その遺跡はクラダダ要塞遺跡と呼ばれ、エリュシス人が古代オーク帝国と戦った時に使った兵器が保存されていると地元の伝説にあるのだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます