第249話 自衛隊駐屯地(2)
金光一等陸佐たちがアンデッドばかりが出る迷宮を嫌っているのに気付いた俺は、一つ提案をした。
「だったら、迷宮都市に来ますか。歓迎しますよ」
「……その方がいいかもしれん。魔導飛行バギーなら何日ほどで行けるのかね」
「オリブル街道とココス街道に沿って飛べば、三日で辿り着きますよ」
「三日か。馬車だと二〇日だと聞いているから、随分と速い」
金光一等陸佐は迷宮都市を訪問する方向で考え始めたようだ。
「そう言えば、アメリカの連中が迷宮都市の簡易魔導核に興味を持ったそうだね」
俺はアカネに視線を向けた。アカネが、
「ええ、在日米軍のグレイム中佐から簡易魔導核を手に入れてくれという打診が有りました。日本政府もアメリカに協力するよう指示しています」
「簡易魔導核と言うのは、魔物の素材と組み合わせて魔導武器を製作するものだと聞いている。本当なのか?」
元々の開発者である薫が答えたそうにしていたが、駐屯地では目立たないようにと言ってあるので、後ろで我慢している。代わりに俺が答えた。
「そうです。炎角獣の角と組み合わせ、炎を噴き出す炎角槍を製作したりします」
「なるほど、魔物の素材次第で強力な魔導武器を製作出来るのか。アメリカの奴等は調査して、自分たちで簡易魔導核を作ろうと考えているのか。それとも次の大掛かりな作戦で使うつもりか」
アメリカが簡易魔導核をコピーしようとしているんじゃないか、と聞いた俺はニヤリと笑う。
「簡易魔導核を調べただけじゃ、複製は無理ですよ。元になる補助神紋図がないと複製できない構造ですから」
「そうなのか。その補助神紋図が迷宮都市にあるのなら、盗み出そうと考える奴が出て来そうだな」
既に盗み出そうとした奴が居たが、教えなかった。
「それより、アメリカが行おうとしている次の作戦と言うのはどういう作戦か、何か聞いていますか?」
金光一等陸佐は躊躇ったが、正直に答えた。
「アメリカ軍の友人から『クラダダ要塞遺跡』と言う名と属竜種が巣食っていると聞いた」
要塞遺跡、エリュシス人の軍事施設だろうか。アメリカ人が目の色を変えるはずだ。
「自衛隊は、その作戦に参加するのですか」
金光一等陸佐は肩を竦める。
「オブザーバー的な人材を二、三人参加させるらしい」
日本政府に協力させる代わりに、少しだけ情報を与えてやろうと言うつもりなのだろうか。協力は求めるくせにケツの穴が小さいぞ、アメリカ。
とは言っても、軍事機密となりそうな情報を簡単に他国へ漏らすような国は存在しない。
アカネが真剣な顔をする。
「要塞遺跡と言うと軍事施設じゃないですか。アメリカは古代魔導帝国の兵器か何かが遺跡の中に眠っていると考えているのですか?」
「その可能性が有ると考えている。だから、日本は少しでも情報を得ようと協力している」
アカネが俺の方へ目を向ける。
「残りの二台はアメリカ軍の駐屯地に届けるのでしょ。アメリカは何に使おうと考えているのかしら?」
「普通に考えると物資や人員の輸送だけど、今の魔導飛行バギーのスピードじゃ。遠くへは移動出来ない」
クラダダ要塞遺跡の作戦で使うのかもしれない。何もかもがあやふやだ。情報が足りていないのだ。
駐屯地で昼食を頂き、帰途に着いた。
帰りもクレボ峡谷を抜けたが、ワイバーンとは遭遇しなかった。オリブル街道沿いに東へと向かい、港湾都市モントハルまで一気に飛んだ。
モントハルの近くで休憩した後、ココス街道を北東に向かい、夕方近くに迷宮都市へ到着した。
趙悠館へ着いた薫は、荷物を伊丹へ預け、ルキたちや王妃と王女にお別れを言ってからエヴァソン遺跡へ向かった。
時間がないので改造型飛行バギーで飛ぶ。
「今回の旅では、バジリスク相当の魔粒子を吸収したから、次に灼炎竜相当の魔粒子を吸収すれば、今のミコト並みの力が得られるのね」
応用魔法を詠唱なしで発動出来るようになったのを羨ましがっていたのを思い出した。
「灼炎竜並みの魔物と遭遇する機会は、そうそうないと思うけど」
「クラダダ要塞遺跡には、属竜種が居るのよね」
そう薫が言った時、眼が不敵に笑っていた。
「まさか、その属竜種を狙っているのか。相当危険な相手なんだぞ」
その属竜種が何という竜なのかは判らないが、灼炎竜クラスの魔物なら命懸けの戦いとなる。
「考えがあるのよ」
エヴァソン遺跡に到着すると犬人族の皆に迎えられた。
「ムジェック、神紋区画に行きます」
「分かりました」
神紋区画とは魔導寺院と同じような神紋付与陣が有る部屋が並んだ一画の事である。通路を通って神紋区画に入った薫は、目当ての第四階梯神紋『
扉には太陽の上級神ギリウリオの名前が刻まれていた。薫が扉に触れるとプレートが光った。
「ヤッター、ワイバーンの魔粒子を吸収した後だから、もしかしてと思ったのよね」
試しに、俺も扉に触れてみたが、プレートは光らなかった。適性がないか、神紋記憶域の空きが足らないのだろう。
薫は部屋の中に入った。部屋の壁には薫自身が補修した神紋付与陣が描かれている。それを眼にした時、薫の頭の中に神意文字と神印紋が飛び込んで来た。
数分だけ頭が爆発するような苦しい時間を過ごした。そして、薫の神紋記憶域に『
よろよろしながら部屋から薫が出て来た。
「大丈夫か?」
「頭が熱くてムカムカする」
俺が知識の宝珠を使って『時空結界術の神紋』を得た時には、それほど負担がなかったのだが、神紋付与陣に依って神紋を得た場合は脳や身体に負担が掛かるようだ。
ミッシングタイムまでゆっくり休養した薫は、その夜日本に戻った。
エヴァソン遺跡に残った俺は、アメリカ軍が発見したクラダダ要塞遺跡と属竜種について考えた。
「駄目だ、考えが纏まらない。情報不足だ」
魔導飛行バギーをアメリカ軍へ届ける時に、直接アメリカ軍から情報が得られるだろうか。俺と伊丹を指名しているからには、何か話が有るのだろう。
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