第243話 魔導迷宮二十一階(2)
ゴーレムがお返しとばかりにごつい拳を薫に向けた。
俺は<
薫が<崩岩弾>を放った。ゴルフボール大の溶岩弾がゴーレムの胸に命中し風穴を開けた。ゴーレムはよろけたが立ち直り向かって来る。
「今度は私が」
アカネが覚えたばかりの攻撃魔法を準備する。薫が開発した『
精神を集中したアカネの掌に雷球が生まれ、それが勢い良く飛び出した。雷球はゴーレムに命中しバチバチッと火花を飛ばす。
ゴーレムの全身が強烈な雷撃で焼け、ゆらゆらと陽炎が立ち昇る。地響きを立てゴーレムが倒れた。倒れたゴーレムから大鬼蜘蛛に匹敵する濃密な魔粒子が放たれる。
魔粒子の吸収が終わると伊丹が豪竜刀の刃を確かめた。刃こぼれがある。
「クッ、まだまだ未熟なようでござる」
カリス親方に研いで貰わねばならないだろう。アカネの剛雷槌槍も切っ先が欠け使い物にならなくなっている。
薫がガックリしている伊丹とアカネを見ながら。
「ゴーレム系の魔物には刃物を使わない方がいいみたいね」
「そのようでござる」
ゴーレムを解体する道具がないので放置して先に進む。この階に居る魔物はゴーレムの他はサラマンダーだった。サラマンダーなら刃物も通用する。
オレンジ色の大きなイグアナを邪爪鉈の一撃で仕留めた。
マッピングしながら探索し二十一階の半分ほどを調べた。<罠感知>で見付けた部屋は多いが、ドアを開け入れた部屋は五部屋しかなかった。しかも入れた部屋の中に有ったのは正体不明の残骸だけ。
そして、六部屋目を調べようとドアをこじ開けた時、中から不気味な鳴き声が聞こえた。
警戒しながらドアを開け中を覗くと巨大な黒い虫が多数居た。
薫は思わず<
「ドアから離れて!」
数秒後、中で大きな爆発音が響いた。部屋全体が振動しドアを覆っていた汚れも剥がれ落ちる。
「カオル、いきなりそれはないでしょ」
アカネが薫に抗議した。
「でも、巨大ゴキの群れですよ」
俺たちは一斉に顔を顰めた。中に居た黒い虫が何かに似ているとは思ったが、やはりゴキブリだったらしい。知らなかったけど、ゴキブリって鳴くんだ。
俺はドアの方を見て。
「あっ、ここが探していた部屋だ」
ドアの上部にメダル型魔道具と同じ番号が刻まれていた。
「どうする。中を調べるんだろ?」
薫が不機嫌な顔をして首を振る。
「私、無理だからミコトと伊丹さんに任せる」
俺と伊丹は溜息を吐いて中に入った。中は爆発で悲惨な状況になっていた。ただ巨大ゴキは全滅したようだった。
ここも正体不明の残骸ばかりである。何らかの実験器具みたいなものも有ったが、何に使っていたのか分からない。
<魔力感知>で探してみると魔力を持つものが二つ見付かった。一つはメダル型魔道具だった。同じ番号が刻まれていた。やはりカードキーと同じようなものだと判断し『メダルキー』と名付けた。
もう一つは巨大な魔物の頭部だった。巨大な水槽のようなものに入っており、死んでから何百年経っているのかも分からないのに生きているかのように見えた。
水槽は正体不明の透明な液体で満たされており、魔物の頭部が液体の中に浮かんでいた。
巨大な頭部は長さが五メートルほどもあり、竜もしくは龍の頭部らしかった。
ミコトたちは知らなかったが、これは真龍種クラムナーガの頭部で、大昔に歴帝龍と争い負けて樹海の縁まで逃げた所で力尽きたものをエリュシス人が見付け保存していたものだった。
俺は薫とアカネを呼び、水槽を見せた。
「これって竜なの……でも、頭だけでこの大きさだから元は」
薫は元の大きさを想像し身震いした。
「水槽に何か書いてある」
アカネが水槽の側面に何かが書かれているのを見付けた。読んでみると『XX7年クラムナーガの死骸を#&%$』と書かれていた。読めない字も有ったが魔物の正体が判った。
「こいつはクラムナーガらしい」
「なんと……これが龍でござるか」
俺たちはクラムナーガの頭部を持って帰る事にした。<圧縮結界>でクラムナーガの頭部を包み圧縮する。サッカーボールほどの大きさになったものを魔導バッグの中に入れてあった革袋を取り出し入れた。
「さて、一階に戻るぞ」
短距離転移門の有る部屋まで戻った俺たちは、転移門を使って一階に戻った。短距離転移門は一階に在るもの以外デフォルトで一階へ行くようなっているらしい。
戻った一階の部屋は、別の隠し部屋だった。一階には短距離転移門が設置された部屋が幾つかあるらしい。
通路に出ると二階に上がる階段の近くだった。
一旦休憩してからアタックしようと意見が纏まった。階段近くで休んでいると別のパーティがやって来た。
男だけ五人のパーティで、装備は黒い竜革を金属で補強した鎧である。全員が重そうな盾を持っているのが特徴だ。どうやら高ランクのパーティらしい。
「お前ら見ない顔だな。魔導迷宮に潜るようになったのは最近か?」
俺は相手のパーティを値踏みしながら。
「そうだけど」
「そうだけどじゃねえよ。俺らは先輩だぞ。言葉に気を付けろ」
蟷螂のような顔の男が偉そうに先輩風を吹かす。
俺と伊丹はハンターギルドでは割りと顔を知られている存在である。但し、テレビも写真もない世界なので名前だけしか俺たちを知らないというハンターも居る。
「済みません、あなた方は?」
今度はゴリラ顔の男が舌打ちする。
「チッ、俺らを知らねえのか。首長黒竜を倒した『千の蒼鬼』だ」
俺は大きく頷いた。
「ああ、あなた方が『千の蒼鬼』ですか。名前は聞いてます」
ゴリラ顔がドヤ顔で『そうだろう』と頷く。
「先輩たちは何階まで攻略しているんですか?」
「十五階だ。貴様らは知らんだろうが、十五階からロックゴーレムが出て来るんだ。奴らは厄介だぞ」
ゴリラ顔は自慢しながら後ろにいる薫とアカネへ嫌な視線を向けていた。
「まあいい、一階辺りでへたばっているお前らには無用な情報だった」
それから自分たちの自慢話をして二階へと消えた。
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