第242話 魔導迷宮二十一階


 迷宮都市に戻り趙悠館へ戻る途中に、カリス工房へ行き完成した灼炎竜革製の装備品などを受け取った。完成した灼炎竜革鎧は重量が有るのに、それを感じさせないほど素晴らしい着心地だった。


「素晴らしいよ。メルスさん」

「竜殺しの英雄にそう言って貰うと嬉しいね」

 革細工職人のメルスが笑顔で答えた。


 俺と伊丹は『竜殺しの英雄』と呼ばれているらしい。

「よしてよ。今まで通りミコトと呼んで」

「拙者もご同様に願う」


「ハハハ……凄い魔物を倒した後、傲慢になる奴もいるんだが、二人共今まで通りなんで安心したよ」

 そんな奴らが居るんだと考えていると、薫が興味を持ち。

「傲慢になった奴って、誰なの?」


 メルスはちょっと躊躇ってから教えてくれた。

「ナイト級上位の首長黒竜を倒した『千の蒼鬼』の奴らだ。中でもリーダーのボルゲルは新人ハンターをしつけだと言って殴ったらしい」


「へえ、最低ね」

「気を付けてくれよ。『千の蒼鬼』も魔導迷宮に潜っているらしいから鉢合わせするかもしれんぞ」

 メルスが何やらフラグめいた事を言う。


 趙悠館に戻り食堂で遅い夕食を食べてから、俺と薫はメダル型魔道具を調べた。

「メダルに刻まれている数字は何だろう?」

「これだけじゃ分からない。何か別にヒントみたいなものがないと」


「そうだな。明日持って行って調べてみよう」

「そうね」

 その夜は疲れたので詳しくは調べず、早目に諦めて寝てしまった。


 翌日も魔導迷宮へ行った。

 昨日、発見した隠し部屋に行ってみると開いていたドアは元通りに閉まり、そこがドアだと分かる痕跡も何もかもが無くなっていた。


 今更ながら迷宮とは不思議なものだと感じさせられた。

 ドアを開き四人一緒に中に入った。昨日と同じように短距離転移門が稼働し床から輝きが溢れ出す。


 その時、ポケットに入れていたメダル型魔道具がピッと音を出した。

 次に気付いた時、別の部屋に居た。

「どういう事、昨日の部屋と違う」

 アカネが驚き声を上げた。


 転移した先の部屋は隠し部屋と同じくらいの広さの部屋で、壁にエトワ語の数字が書かれていた。

「この数字は『21』ね……もしかして21階を指しているんじゃない」

 数字を読み上げた薫が首を傾げている。


 俺は急いでポケットからメダル型魔道具を取り出した。

 刻まれた数字を確かめる。『21003』となっていた。

「転移する直前、こいつがピッと音を出したんだ」


「もしかして転移する階を指定する魔道具なのではござらんか」

 アカネがポンと手を叩き合わせ。

「それってカードキーみたいなものじゃないの」

「そうか、階層番号の後ろは部屋番号か。あり得るな」


「あっ、転移門」

 薫が部屋の奥を指差した。

 部屋の奥を見ると埃が積もって分かり辛いが、転移門らしい円盤が目に入った。調べると一階に戻る為の短距離転移門らしい。

 戻り方が判明したので、俺たちはホッとした。


 そこで薫が一つの提案をした。

「ねえ、そのメダル型魔道具の示す部屋を探してみない」

「待て待て、二十一階の情報はギルドには無かったんだ。どんな魔物が出るか分かんないんだぞ」


 俺が慎重な態度を示すと、薫が不満そうな顔をする。

「でも、ちょっと気にならない。警備室みたいな部屋に有ったものなのよ」

「警備員が住んでた部屋の物なんじゃないの」


「もしかしたら警備対象となっている部屋かもしれない」

 それを聞いてアカネが笑う。

「そこには財宝がザックザクって言うの……ないわよ。私たちの目的は七階の鬼王樹なのよ」


「分かってる。でも、ちょっとだけ」

 薫の強い押しに負け、この階を少し調べる事になった。


 小部屋を出ると通路があった。地図もないので勘で左に向かう。

 罠を警戒しながら迷路のような通路を左に左にと進むと通路の奥から、ガツッガツッという音が聞こた。音は近付き、俺たちは警戒しながら待った。


 通路の奥から現れたのは身長三メートルほどのロックゴーレムだった。ゴリラのような逞しい体型が岩で作られているかのような外観は剣や槍が通用しないと思わせる。


「ついに遭遇したか」

「あれっ、ミコトはゴーレムと遭いたかったの?」

「遭いたいと思っていた訳じゃないけど……虫や獣型の魔物、頑張ってトレントみたいな樹の魔物までなら理解出来るんだ。だけど、なんで岩が動くんだよ。どう見ても不自然だろ」


「拙者も同意見でござる」

 薫とアカネが顔を見合わせ溜息を吐く。

「ここは魔法が存在する世界なのよ。それに珪素生物の可能性だって有るじゃない」


「珪素生物とは何でござる?」

 アカネはネットで仕入れた知識だと言って。

「珪素生物というのは、炭素ではなく珪素を基礎として構成されている生物の事です。ゴーレムの中身は岩じゃなくシリコンゴムのような柔軟性の有る物質で出来ているんじゃないのかな」


 ロックゴーレムの強さは将校蟻に匹敵すると聞いた記憶がある。

 軍曹蟻の上位種である将校蟻は無類のタフネスを誇るオーガをも獲物として倒すほどの魔物である。ロックゴーレムの全身を覆う岩のような皮膚は剣や槍を撥ね返し、その拳の一撃は岩を砕く。


 ロックゴーレムがアカネに襲い掛かった。アカネは襲って来る拳を避けると剛雷槌槍を振り上げ『雷発の鎚』を胸に叩き込んだ。


 僅かにゴーレムの動きが遅くなったように感じ、魔力を流し込んだ穂先をゴーレムに突き出した。

 ゴーレムの岩のような肌に剛雷槌槍の穂先が突き立ち力を込めた時、切っ先が欠けた。


「あっ!」

「アカネ、下がって!」

 俺の声でアカネが飛び下がる。

 伊丹が豪竜刀の斬撃を放つ。ゴーレムの強靭な身体が刃を撥ね返した。


 そこに薫の<豪風刃ゲールブレード>が命中した。強大な空気の刃はゴーレムの胸に薄い傷跡を残すが致命傷には程遠い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る