第227話 加藤一族の終焉
俺は躯豪術で魔力を動かしながら眼に魔力を集める。こうする事で魔力がはっきりと見えるようになるのだ。
金城の動き、特に手の動きを見詰める。
「よく見ろ、<
金城は呪文を唱え指先から水を放出した。指先から流れ出た水は地面に落ち溜まっていく。
はっきり言ってがっかりである。金城って奴はインチキ野郎なのだ。金城から魔力が感じられず、これが魔法ではなく手品だと判った。
「よし、次は<
金城は何もない空間に向け左手を伸ばし呪文を唱える。左手から炎の帯が噴き出し地面に落ち煙を上げ始めた。
しょぼい<
得意げな様子で下手な手品を披露する金城を見ていて腹が立ち始めた。俺には手品の種を見抜けるだけの知識がなかったが、これが魔法でないのは判る。
ゆったりした服の中に何か仕掛けが有るのだろう。それを凄い魔法を見せてやろうみたいな感じで披露しているのがムカッと来る。
「もういい。東條管理官、帰りましょ」
東條管理官が俺の顔を見て金城が偽物だと悟ったようだ。顔を顰め、溜息を吐く。
「やっぱり偽物だったか」
金城が驚いた顔をしている。何故バレたのか解らないのだろう。
「何を言っている。本当の魔法だ」
東條管理官が厳しい目を金城に向け。
「君は本当に竜を倒したのか?」
金城はドキリとした。実際は竜に遭遇し仲間を二人失いながら逃げ帰ったと言うのが真実なのだ。
「な、何の証拠が有って疑う。俺は本当に竜を倒したんだ」
金城を含む三人が脅すようにこちらを睨む。特にプロレスラー並の体格を持つ筋肉男が凄む。
「おめえら、金城さんが折角魔法を見せてくれているのに、その態度は何だ」
東條管理官は冷静な態度を崩さず。
「私は魔法を見せて欲しかったのだ。手品が見たかった訳じゃない」
管理官の冷静な声は時々他人をムッとさせる響きが含まれる時が有る。この時も金城が顔を歪めエキサイトし始めた。
「貴様ら……俺をインチキ呼ばわりしやがって」
金城がチンピラめいた言葉を口にし始めた。それが地なのだろう。筋肉男が前に出て威嚇する。
俺は東條管理官の前に進み、筋肉男の前進を止める。
「何だ、小僧。ガキのくせに出しゃばるんじゃねえ」
筋肉男は身長一九〇センチほどの大男である。そんな男が俺を押し退けようと手を伸ばして来た。その手を掴み、力比べが始まった。
ガッシリと握りあった手と手、相手を組み伏せようと両者の力が入る。
これだけ体格が違うと筋肉男が圧勝しそうなものだが、逆に筋肉男の手が絞り上げられていく。
「そ、そんな馬鹿な。このガキ、化け物か」
金城が大声を上げる。
「彼は優秀な案内人だ。それこそ竜を倒せるほどのな」
東條管理官が冷静な声で言った。
「クソッ、お前も手伝え」
筋肉男はサングラス男に命じる。
サングラス男が襲って来た。掴んでいた手を無理やり振り払い、筋肉男の心臓に軽く掌打を叩き込む。一瞬心臓が止まり、筋肉男は青褪めた顔になり膝を突く。
俺は力加減を間違えたかとヒヤリとした。その後、筋肉男が呻き声を出し、ホッとする。
人間相手に手加減して戦うのは難しい。伊丹とは頻繁に組手を行っているのだが、俺も伊丹も躯豪術を使いオーガ並に頑丈になっているので、普通の人と格闘する時の参考にはならない。
その時、俺には隙が出来ていたんだと思う。サングラス男はタックルを敢行し俺を地面に押し倒した。
これが魔物なら力任せに邪爪鉈を叩き込むのだが、人間相手だと手刀でも死んでしまいそうで躊躇ってしまった。
倒れた勢いを使いサングラス男の頭を掴んで引き寄せ、膝を腹に当てる。
「ぐえっ」
サングラス男は腹を押さえて倒れた。
その時、サングラスが外れ、髭と髪の間から眼が覗いた。
「あっ、お前は加藤じゃないか」
東條管理官が驚きの声を上げた。
何となく気になっていたが、サングラスの男は逃げていた加藤大輝だった。加藤代議士の息子でJTGの調査部で集めた情報を加藤代議士のグループに流していたのが判明している。
「うわっ」
正体を知られた加藤は逃げ出した。
「待たんか、こいつ」
東條管理官が追い駆け加藤の肩を掴んだ。
「離せ、ハゲ親父!」
「何だと!」
加藤は管理官の手を振り払い逃げる。
東條管理官が追い駆ける。年齢から言えば追い付けるはずはないのだが、東條管理官は異世界でパワーアップしていた。
駆け出した東條管理官は宙を飛び、頭から加藤の身体にぶつかった。見事なフライングヘッドバットである。加藤は衝撃で吹き飛び地面に転がった。東條管理官は加藤の背中に馬乗りになる。
「どけよ、ツルピカ」
東條管理官の鉄拳が加藤の脇腹に叩き込まれた。
「ぐふっ……何しやがる。ぴかりん」
東條管理官が跳び上がり尻から、加藤の背中に落下した。
「うげっ…………ご、ごめんなさい……暴力反対」
その頃、俺は金城と対峙していた。
「お前、本当に竜を倒すほどの腕が?」
俺は殺気にも似た覇気を放った。金城の眼に怯えが走る。魔導師である金城は、魔法を使えない状態ではほとんど無力だった。
金城の魔法が嘘だと判った今、奴には用がない。加藤大輝だけを捕縛し帰る事になった。警察に加藤を引き渡すと四国を去った。少しくらい観光が出来るかなと思っていたのに残念だ。
捕まった加藤大輝はきつい取り調べを受け、知っている事をすべて白状した。それにより検察の調査が進み、加藤代議士の企ての全貌が見え始めた。
四国から帰った翌々日、俺は東條管理官と一緒にJTG本部へ向かった。神代理事長と会う為である。理事長室に通された二人は、仙人のような風貌の神代理事長に視線を向けた。
神代理事長は大学を卒業後、厚生省の役人となり、途中大手製薬会社からヘッドハンティングされ、その製薬会社でトップまで上り詰めた経歴の持ち主である。
「金城の件は聞いた。残念だが偽物だったらしいね」
東條管理官が頷く。
「アメリカの依頼はどうしますか?」
神代理事長が目を細めて考え、カッと目を開いて俺の方を見た。
「いざとなれば、ミコト君に頼むしかないと考えておる」
「ええーーっ!」
俺は思わず声を上げてしまう。東條管理官から睨まれた。
「具体的な依頼内容を聞いておらんから、引き受けるかどうかも決まっておらん案件じゃ。それより厚生労働省に掛け合って欲しい事が有るそうじゃな」
俺は居住まいを正し、神代理事長の目を見て切り出した。
「はい、私の知っている企業が魔法を応用した治療器具を開発しました。理事長のコネを使って開発の協力を厚生労働省に取り付けて欲しいんです」
神代理事長が立ち上がり驚きの声を上げた。
「なんじゃと!」
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