第226話 魔物ランク
金城が倒した竜と言うのは、迷宮都市のハンターギルドが所蔵する資料で見た記憶がある。資料によると亜竜族の劣竜種に分類される『抓裂竜』と呼ばれる竜のようだった。
竜と名の付く魔物にも様々な種類がある。一番多いのは亜竜族と呼ばれる種族で、この中にはワイバーンなどの飛竜種やバジリスクなどの邪竜種も含まれる。
次に多いのが黒鎧竜などの闘竜種や
ここで重要なのが『竜の洗礼』と呼ばれる現象を引き起こす竜に、亜竜族が含まれないと言う事である。
俺は竜を倒しリアルワールドで魔法が使えるようになったと聞いて『竜の洗礼』が関係しているのではないかと考えた。
そう考えるとリアルワールドで魔法が使えるようになるには、亜竜族以外の竜を倒し『竜の洗礼』を受ける必要がある。但し、竜を倒すとリアルワールドで魔法が使えるようになると言うのが本当の話ならばである。
俺と東條管理官は、金城の話を聞いて色々考えた。
東條管理官は難しい顔をしながら質問した。
「その倒した竜は持ち帰ったのですか?」
金城は見下すような目付きで東條管理官を見て、
「街から遠い樹海の中ですよ。あんな大きな竜を丸ごと持ち帰るなんて出来ませんよ」
それならと俺が確認した。
「でも、一部は持って帰ったんですよね……例えば、魔晶玉や魔晶管、竜皮や牙なんか」
「もちろんだよ。持ち帰ってオークションで売ったよ」
「……もう、売ってしまったのか」
東條管理官が残念そうに言った。残っていれば見せて貰い、本当に竜だったか確認出来たのに。
俺は興味が有ったので聞いてみた。
「金城さん、リアルワールドで魔法が使えるようになると言うのは本当ですか?」
金城の顔が一瞬強張った。
「魔法ね……出来るようになりましたよ」
「見せて貰えませんか?」
またかと言う顔をされた。竜を倒すと魔法が使えるようになるという話が広まっており、金城も魔法を見せてくれと言われる機会が多いのだろう。
「こんな所じゃ見せられんな。後でホテルの裏にある空き地に来てくれ。そこで見せてやるよ」
一時間後にホテル裏の空き地で魔法を見せて貰う事になった。
金城が部屋に戻った後、ホテルのラウンジで東條管理官とコーヒーを飲みながら時間を潰す。
「ミコト、どう思う。奴は本物か?」
「金城さんが竜を倒したかどうかという事なら判らない。ただ話に出て来た竜の名前は判った」
東條管理官が感心したように声を上げた。
「ほう、何と言う竜だ」
「抓裂竜、ナイト級上位の魔物です」
「そいつは灼炎竜より強い竜のなのか?」
「そうですね。脅威度を表したランクで言えば灼炎竜より下です」
その言葉を聞いても、東條管理官は納得していないようだった。
「魔物のランク付けについては、不明な部分が多過ぎる」
異世界で決められた魔物のランクは実際に戦った事のあるハンターの感想を元に決められたものだが、上位の魔物や竜については違う。
戦った経験のあるハンターがほとんど居ない。そこで上位の魔物が引き起こした被害の度合いや伝承、目撃談から推測でランク付けされている。
俺はメモに魔物ランクについてさらさらと書いて東條管理官に渡した。
「ランク別に魔物を並べてみると分り易いかも。こんな感じです」
そのメモ書きには。
【魔物のランク】
ポーン級………下位:スライム、跳兎、突撃バッタ
中位:長爪狼、ゴブリン、槍トカゲ
上位:コボルト、ホブゴブリン、
ルーク級………下位:歩兵蟻、大剣甲虫、足軽蟷螂
中位:サラマンダー、軍曹蟻、
上位:将校蟻、グリフォン、金剛蜘蛛
ナイト級………下位:帝王猿、大鬼蜘蛛、雷黒猿
中位:翔岩竜(飛竜種)、クラーケン、独角竜(劣竜種)
上位:ワイバーン(飛竜種)、
ビショップ級…下位:コカトリス、バジリスク(邪竜種)
中位:雷鋼竜、黒鎧竜(闘竜種)
上位:
クイーン級……下位:ヒュドラ(多頭竜種)
中位:雷竜王(王竜種)
上位:クラムナーガ(真龍種)
キング級………下位:歴帝龍
中位:万功龍
上位:亜神龍
「竜についてなんですが、『竜の洗礼』と言う現象が起きるのはビショップ級中位の闘竜種以上を仕留めた時だと言われてるんですよ」
「……ん……そうするとナイト級上位の抓裂竜を倒したと言っている金城は『竜の洗礼』を経験していないのか。だとするとリアルワールドで魔法が使えるようになったと言うのは嘘か」
「いえ、こちらで魔法が使えるようになると言う現象の元が『竜の洗礼』に有るのかどうかは不明です」
「そうか。だったらミコトが見極めてくれ。奴が魔法が使えるのかどうか」
「えっ、俺も手品には詳しくないですよ」
「違う。魔法を使う時には、魔力に動きが有るはずだろ。それを見極めろと言っているんだ」
俺は『なるほど』と了解した。
一方、金城の部屋では三人の男たちが声を潜めて話をしていた。
「今度はJTGの職員かよ。勘弁して欲しいぜ」
金城が愚痴ると髭面のサングラス男が不機嫌な感じの声を上げた。
「仕方ないだろ。あんたが竜を殺したとか言うからだ」
「五月蝿えよ。ちょっと酔った勢いで言っちまったんだ」
金城は身体に手品の種を仕込み始めた。
時間が来て、俺と東條管理官がホテルの裏にある空き地に行くと先程の三人が待っていた。金城がゆったりとした服に着替えていた。
何で態々着替えたのだろうかと疑問に思う。
何か期待はずれの予感がして来た。
その日は空が曇っていた。髭面の男はサングラスなど必要ないのに掛けている。
「それで……どんな魔法を見せてくれるのかな」
東條管理官が魔法を見せてくれるように促した。
金城は顔を少し顰め、勿体ぶった感じで応える。
「JTGの人なら知ってるかもしれないが、異世界と違ってリアルワールドでは大きな魔法は使えないんだ。魔粒子が少ない所為だと言われている」
この説は半分正解だが、半分は間違いだった。リアルワールドに存在する魔粒子は少ないが、異世界で取り込んだ魔粒子がリアルワールドに転移すると無くなる訳ではない。
魔粒子が不活性化するだけなので、夕日に含まれる光のエネルギーを使って活性化させれば、異世界と同じレベルの魔法を使えるようになる。
一旦リアルワールドで活性化した魔粒子は転移を繰り返しても不活性化しないので、永続的に魔法が使えるようになる。但し魔法を使うと魔力と一緒に魔粒子の一部が体外に出るので活性化魔粒子は減る。
そこでパワースポットで魔粒子を補充する必要が出て来る。
オリガや薫は天気の良い日の夕方、パワースポットで魔粒子の補充を行っている。
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