第224話 竜を倒した人々
加藤代議士の一派が検察や政治家から追求されている頃、一つのニュースが世界を駆け巡った。韓国に住む一人の青年が、リアルワールドで魔法が使えるようになったとマスコミに発表したのだ。
それだけではない。魔法が使えるようになったのは異世界でドラゴンを倒したからだと告げた。倒したドラゴンは黒鎧竜だそうだ。灼炎竜よりワンランク下のビショップ級中位の魔物である。
青年の名前はハン・ビョンイク、ある財閥の子息であり一年間のほとんどを異世界で生活している青年だった。
異世界に何度も行き、魔物を倒して強くなろうとする者は世界中に大勢居た。案内人たちは、そんな者たちを『
その後、ドラゴンを倒した経験のある人物が次々と名乗りを上げた。日本からもドラゴンを倒したという荒武者が現れた。
ミコトの事ではない。ミコトが灼炎竜を倒した事はJTG内部だけの秘密となっており、一般には知られていない。
ドラゴンを倒したと名乗り出た荒武者は、四国でホテルチェーンを展開している金城グループ会長の孫である
俺は東條管理官から解放されるとアパートで一眠りしてから、薫に会いに出掛けた。薫は美味しいホットサンドを出すと評判の喫茶店で待っていた。
「戦争はどうなったの?」
「王国の勝利で終わったよ。それより浮かない顔してどうしたんだ?」
「これよ」
薫がスマホに表示されている情報を見せてくれた。
それを見て驚いた。
「何だって、ドラゴンを倒すとリアルワールドでも魔法が使えるようになるのか」
「これって本当なの。ミコトも灼炎竜を倒しているでしょ」
「えっ……それは判らないな。俺は灼炎竜を倒す前から魔法が使えたから」
「そうか、そうだった」
俺が魔法が使えるようになったのは、活性化した魔粒子を吸収した時からである。それが契機となって薫たちがリアルワールドに存在する魔粒子の研究を始めたのだ。
竜殺しによりリアルワールドで魔法が使えるようになると言う情報は、薫に余程大きな衝撃を与えたようだ。
「この話が本当なら、活性化魔粒子の存在を早めに発表する必要があるかな?」
魔法が使える人間が存在するなら、魔粒子の存在を感知し研究を始めるかもしれない。別の誰かに発表されるより先に、自分たちが発表する事を考えたのだろう。
資金問題は解決しているので、発表しても問題ないほど経営的には健全になっている。
「研究していた医療関係の魔道具は完成したのか?」
俺の質問に薫はニコッと笑い、親指をグッと立てる。
「私を誰だと思っているの。メディカル・マナパッドは完成した。今は効果の検証をしている処よ」
「そうなると政府の協力が必要な段階だな」
「ええ、マスコミに発表するタイミングを考えているの」
「東條管理官にも活性化魔粒子の事を打ち明けて相談してみるよ」
「絶対、何で黙っていたんだって叱られるわよ」
俺は東條管理官の怒鳴り声を思い出し渋い顔になる。
一方、話に出た東條管理官はJTG本部の理事長室に呼ばれ神代理事長と話をしていた。
「加藤代議士の件は調べが進んでおる。自衛隊は造反していた隊員を秘密裏に捕縛し、検察に渡したそうだ。昔なら軍法会議だったろうが、今の自衛隊には無いからのう」
加藤代議士は検察に連行され取り調べを受けている。加藤の息子たちも加藤大輝以外は身柄を確保され取り調べを受けているらしい。
加藤大輝だけは行方を晦まし、現在、警察が探している。
東條管理官は頷き、気になっている点を尋ねた。
「他国に気付かれましたか?」
神代理事長がコメカミをピクリと痙攣させ。
「アメリカと中国が気付いて、外務省に事実確認をしてきおった」
大国の情報収集能力を見せ付けられた気がした。
「まずいですね。二つの大国に弱みを握られた形ですか。政府はどういう対応を取る気です?」
「二国には表沙汰にしないよう頼んで、極秘に終わらせたいようだ」
「それだと追求が甘くなり、加藤代議士の仲間を取り逃す恐れが有ります」
「判っている。だが、政府は自衛隊の汚点を歴史に残したくないそうだ」
東條管理官は溜息を吐き肩を落とした。このままだと陰謀の解明は不完全な形で終結するかもしれない。東條管理官としては不満だが、これ以上、JTGの職員として出来る事はない。
「ところで、君の所の案内人だが、評判になっておるそうではないか」
「ミコトですか。優秀な案内人です。魔導飛行バギーも彼が開発したものです」
「ほう、多才な若者らしいな。もう一度会ってみたいものだ」
「今度連れて来ます」
「さて、本題に移るとするか。ドラゴンを倒したという荒武者の話は聞いておるな」
「はい、ホテルチェーンの御曹司らしいですね」
「そうなのだが、本物かどうか見極めて欲しい」
意外な話に東條管理官は驚いた。
「見極める必要が有るのですか?」
「アメリカがドラゴンを倒した者に頼みたい事が有るそうだ」
ドラゴンを倒したと自慢する者が次々に出て来たが、本物は少数だと東條は思っている。
「アメリカは何を頼むつもりなのです?」
「まだ、知らされておらん。だが、アメリカに紹介してから偽物だったと言うのは避けたい」
「そうですな……ですが、何故私に頼むのです。ドラゴンを倒した者はリアルワールドでも魔法が使えると言う話ですから、誰にでも確認出来るのでは」
神代理事長が首を振る。
「魔法を使えると言っても、指先に火を灯すとか、ちょっと物を動かすとか、マジックでも出来そうな魔法だけらしい」
「私はマジックには詳しくないので、見破れないかも……」
「誰がマジックを見破れと言った。魔法以外の事で本当にドラゴンを倒したか調べるんだ」
要するにドラゴンを倒したかどうか調べる方法も考えだせと言う事のようだ。
東條管理官はミコトが灼炎竜を倒した事を思い出した。ミコトに見極めさせればいいかと思い付く。
「分かりました。お引き受けします」
「良かった。君で四人目だったんだ。先の三人は自信がないとか言って断りおってな」
東條管理官は断っても良かったのかと一瞬後悔した。
翌日、JTG支部で東條管理官から呼び出しを受けた俺は、管理官の部屋に向かった。中に入ると後頭部を中心に後光が差している東條管理官が窓際に立っていた。
俺は『ありがたや』と拝んでからソファーに座った。
「ミコト、今のはどういう意味だ」
「何でも有りませんから、気にしないで下さい」
東條管理官がジト目で睨んでいる。
「そ、それより用件をお願いします」
「まあいい、お前は灼炎竜を倒したんだったな?」
「そうですが、何か」
「そうするとリアルワールドでも魔法が使えるようになったんだな?」
あまり聞いて欲しくない話題だったが仕方ない。
「魔法は使えます」
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