第222話 戦争終結
ヴァスケス砦まで退却したミスカル公国軍だったが、そこにも竜炎部隊が襲い掛かり公国軍を叩き出した。公国軍は国境線まで戻るしか無くなり撤退する。
ミスカル公国が仕掛けた戦争が頓挫した瞬間だった。その後、カザイル王国の仲介で停戦交渉が始まり、交渉の末に停戦が決まった。ミスカル公国は莫大な賠償金を支払う事になり国としては衰退する。
その結果、カザイル王国が力を増し周囲の国家にとって脅威となる。但し、マウセリア王国には竜炎部隊がいるのを知っているので同盟国としての関係を続けるつもりのようだ。
停戦が決まった月に王都で戦勝パレードと戦勝会を行う事になった。もちろん、俺や伊丹、戦いに参加したハンターたちやミリアたちも呼ばれた。
俺と伊丹はルキを魔導飛行バギーに乗せて王都へ向かった。ミリアたちは馬車で行くらしい。
王妃と王女はしばらく迷宮都市に留まるそうだ。戦争で一時中断していたモルガート王子とオラツェル王子の争いが王都で再燃しているらしい。
戦争でどちらが功績を上げたか言い争い、両方の母親も何かと揉めているらしい。そんな中に帰りたくないのは当たり前だった。
パレードへの参加は断ったが、王城で開かれた戦勝会には出席し、たらふくご馳走を食べる。ここにはルキとミリアたちも来ており、会場の末席で食事を楽しんでいた。
その後、クロムウィード宰相から呼び出しを受け登城する。王城の一室で待たされた俺は何の用だろと考えていた。石壁に囲まれた部屋にはひんやりとした風が吹き込み、秋を感じさせる。
窓から見える山並みも紅葉で色付いており、秋なんだと思わせた。
「待たせて済まなかったな」
クロムウィード宰相が秘書官らしい男と一緒に入って来た。
「いえ、宰相が忙しいのは承知してますので」
「理解して貰えるか。戦争は終わったが、公国の連中が残した戦争の爪痕は大きい。これを復興させるのにどれほどの費用と時間が必要か……」
宰相が遠い目をして窓から見える空の彼方を見詰める。
「宰相、戻ってきて下さい」
秘書官の男が声を掛ける。
「おっ、済まん」
俺は何事もなかったように落ち着いた視線を宰相に向ける。宰相の目の下には隈が出来ており疲れた顔をしている。物凄く大変なんだろう。
「それで話というのは?」
宰相が言い難そうに躊躇い切り出した。
「お主は、今回の戦いで大きな功績を上げた。それに相応しい褒美を渡すようにと陛下から命じられた。また、竜炎撃一〇〇本の代金も払わねばならん」
竜炎撃の代金は支払われておらず、未だ所有権は俺に有る。ダルバル爺さんは王家なら言い値で買うと言っていた。竜炎撃の価値を知っている王家なら無理をしてでも買い取るだろう。
宰相が渋い顔をしている。そこで思い当たった。今回の戦争で使われた費用をどうやって捻出したかという事だ。戦費は王家の蓄えを食い潰すほど莫大な金額だったはずである。
「もしかして金が無い?」
「公国から賠償金が入る予定にはなっている。だが、それがいつになるか」
先進国のミスカル公国であっても莫大な賠償金をすぐには用意出来ない。公国が約束を守るのを待つしか無いようだ。
「兎に角、金が無いので、代わりに何か欲しいものはないか聞きたい。取り敢えず、ミコトは男爵に
宰相からぶっちゃけられた俺は迷宮都市に不時着した魔導飛行船と旧エヴァソン遺跡周辺と常世の森の所有権を要求した。
旧エヴァソン遺跡周辺や常世の森は王国のものと言う訳では無いが、王国に認めさせる事で所有権を確立させようと考えたのだ。
俺が要求した土地は広さで言うと東京都と同じくらいの面積がある。自分でも凄いなと思う反面、ほとんどが未開拓地なので資産価値として大きくない。
因みに伊丹は騎士爵を
俺の要求は認められエヴァソン遺跡周辺の土地はすべて俺個人の所有物となる。魔導飛行船の残骸を要求したのは構造を研究し大型の飛行船を開発しようと考えたからだ。
今回の戦争で活躍した者は、国王陛下から言葉を頂き褒美として幾ばくかの金銭が下賜された。ミリアたちも褒美を頂き感激していた。
俺はモルガート王子とオラツェル王子の噂を聞いたので、巻き込まれない内にさっさと迷宮都市に戻った。
迷宮都市に戻った俺は、アカネが連れて来るはずの警察関係者を待つ。
十六夜一等陸佐を日本に連れ帰る手筈になっているのだ。彼らが禁止されている銃器を製造した証拠として魔導飛行船の中にあった単発銃を押収している。その銃をやって来る警察関係者に見せる予定になっている。
現在、十六夜はハンターギルドの地下牢に留置しており、用意ができ次第、身柄を趙悠館の方へ引き取る約束をアルフォス支部長と交わしている。
アルフォス支部長が十六夜と俺たちの関係を知りたがったので、遠縁の鼻つまみ者だと嘘を吐いた。アルフォス支部長には色々貸しが有るので、それで納得して貰う。
俺たちが迷宮都市に戻った二日後、アカネが警察庁異世界犯罪取締部の刑事二人と一人の検事を連れて戻って来た。
二人の刑事は新しく警察庁内部に創設された部署である異世界犯罪取締部、通称『異犯』の刑事で公安出身の者らしい。
検察庁から検事も来ているのは、異世界で起きた犯罪は証拠品を持ち帰る事が出来ず、異世界で検分する必要がある為、来る決まりになっているそうだ。
三人共が厳しい顔をした男性で、連れて来られた十六夜一等陸佐を取り調べ、証拠品である単発銃を丹念に検証した。
単発銃を確認した検事が十六夜を睨む。
「本物の銃だ。こいつ……なんて事を」
雷管まで開発していたとなると連発銃が創り出されるのも時間の問題である。この異世界でリアルワールドで起きたような戦争が再現されるのかと思うと憂鬱になる。
十六夜は趙悠館で五日間取り調べを受けた後、日本へ護送される。俺と伊丹が転移門へ案内した。十六夜はかなりの腕利きなので、刑事だけでは不安があったのだ。
日本に向かう日の昼、十六夜と一緒に趙悠館を出た。十六夜は鋭い目でこちらを睨む。
「チッ、お前らも付いて来るのか」
刑事たちだけなら逃げ出せるとでも思っていたようだ。
無事に転移門の有る旧エヴァソン遺跡まで到着し、ミッシングタイムまで待ち日本へ転移した。
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