第218話 迷宮都市の戦い(3)
人工池に浮かんでいるのは全長四〇メートルほどの魔導飛行船だった。あの灼炎竜より大きいが、迫力は灼炎竜の方が断然上である。
この船だったら<
「魔法で攻撃します」
俺がアルフォス支部長に告げると伊丹と支部長が少し距離を取る。
魔導飛行船との間に少し距離が有ったので命中するか不安がある。もう少し近付けたら良かったのだけれど、これ以上近付くと敵の攻撃魔法が襲い掛かる。
マナ杖を取り出し精神を集中させると呪文を唱え始めた。
「ジレセリアス・ゴザラレム・イジェクテムジン───―」
マナ杖の先端に向かって風の流れが起こり強い風を感じた後、
「───―・マナ・マナ・マナ・キメクリジェス……<
マナ杖のボタンを三回押し魔粒子を注入後、攻撃魔法を発動した。
バレーボール大の青く輝く球が人工池へ向かって飛び、魔導飛行船の手前に落ちた。水面で爆発し雷が落ちたような爆鳴が響き渡る。
爆発で人工池の水と一緒に魔導飛行船が上空に持ち上げられ、水量の減った人工池の底に叩き付けられた。相当な衝撃が有ったに違いない。甲板に居た人間は人工池に投げ出され、内部に居た者は壁などに身体をぶつけ怪我をした者が多い。
アルフォス支部長が大声を上げる。
「今がチャンスだ。敵船を制圧するぞ!」
衛兵とハンターが人工池へ走り出す。その後を伊丹と一緒に追う。
魔導飛行船の周囲では、船員や陸戦隊が船に向かって必死で泳いでいた。彼らは船まで泳ぐと垂れ下がっている縄梯子を使って甲板までよじ登った。
十六夜一等陸佐はなんとか甲板に踏み留まり人工池に落ちずに済んだ。
「いったい何が起きたんだ?」
呟くように言うと魔導兵が返答する。
「敵の攻撃魔法が人工池に落ちたのです」
「船に命中したのではなく、池に落ちた魔法の余波でこの惨状だというのか?」
船体の応急修理した箇所が衝撃で元に戻り穴が空いていた。中の人間は呻き声を上げ苦痛に喘いでいる。軽くて打ち身、酷い者は骨折しているようだ。
十六夜一等陸佐は船長を探し視線を彷徨わせる。船長は甲板で指揮を取っていたはず、そうなると船員たちと同じように池に投げ出されて……。
船長の姿を探し船の周囲を見て回る。左舷を確認していた時、変なものを見付けた。左舷の下の方に開いた穴から人の下半身が突き出ていたのだ。
沼から突き出ていれば○つ墓村なのだが……馬鹿げた考えを頭に浮かべながら見ていると突き出ているデカイ尻に見覚えがある。
「おい、あれは船長じゃないのか?」
一等陸佐の声で数人の船員が甲板から下を見下ろす。
「間違いねえ、船長だ。しかし……何をされているんだ?」
船長の下半身が足を伸ばしたり縮めたりしている。───意味不明の動きだ。
「ありゃあ、あの穴から中に入ろうとしてデカイ尻が引っかかったんじゃねえのか?」
船員の一人が声を上げた。
「あの動きは何だ?」
「ジタバタ藻掻いてんだろ。反動を利用して穴から抜けようとしているに違いねえ」
一等陸佐が日本語で呟く。
『船長ともあろう者が……アホだ』
「あそこは第三貨物室だ。船長を助けに行くぞ」
船員の一人が叫んで駆け出すと他の船員も続く。
一等陸佐は一人残り、迷宮都市の奴らが近付いて来るのが目に入った。そして、船長が足を伸ばしたり縮めたりしているのも見えた。
無性に腹立たしくなり、甲板に落ちていた二〇センチほどの木材破片を船長の尻目掛けて投げた。バシッと木材が当たる音がし船長の足がワシャワシャと動く。痛かったに違いない。
船長の事は放っておく事にして、魔導兵が無事かを確認する。無傷の魔導兵はおらず肩や足に怪我を負った者が三名ほど見付かった。彼らに迷宮都市の奴らを攻撃するように指示を出す。
「何でもいい、奴らを近付けさせるな」
魔導兵が敵集団に向かって攻撃魔法を放った。
その集団の中に俺たちが居た。
敵の魔法攻撃に気付くと大声を上げる。
「皆、俺の後ろへ!」
俺は前に飛び出し大きな<遮蔽結界>を発動する。攻撃魔法は結界に弾かれ四散した。
「さすが、ミコト殿」「助かりました」
「支部長、もう一発魔法を叩き込もうか」
俺の提案を支部長は断った。
「敵船は当分飛べないほどダメージを受けた。迷宮都市を破壊する新兵器は使えない。そこで停戦交渉の材料にしたいので捕虜が欲しい」
正直欲張りだと思ったが、戦いを終わらせる為に必要なら仕方ない。魔導飛行船は船着き場から少し離れた位置に着底していた。
ハンターの一人が池に向かって<
船と船着き場の間にあった水面が凍り分厚い氷で覆われる。
俺と伊丹が<
甲板で強烈な光が発生し敵の目を痛めつける。俺たちは敵の視力が回復しない内に魔導飛行船に取り付き、舷側に開いた穴から中に侵入した。
穴は三つほど開いており、俺と伊丹は一番左の穴を選んで入った。
そこは水樽が並んでいる倉庫のような部屋だった。散乱している水樽を避けながらドアに向かい通路へ出た。
船員らしい男と遭遇する。船員はナイフを抜いて切り掛って来た。ナイフを持つ手に手刀を打ち込むとナイフが飛んだ。一歩踏み込んで船員の懐に入り右肘を脇腹に打ち込む。
骨の折れた感触が有り、船員が吹き飛んで壁にぶつかり倒れた。
「上に行きましょう」
「
最近の伊丹の口癖は『御意』である。この前日本に戻り再放送のドラマを見ていて嵌ったらしい。最近は時代劇の番組が少なく、『御意』とか言っている番組は無かったはずのなのだが……。
伊丹が先に走り出し階段を見付けると駆け上がる。そこに二人の兵士が居た。狭い場所なので豪竜刀は使いづらい。疾翔剣を抜き魔力を流し込んで飛翔刃を飛ばす。見えない刃が二人の兵士を斬り裂いた。
甲板へ出る階段を探して走り回り、途中四人の敵兵を倒した。やっと甲板へ登る階段を見付け、敵の気配を探りながら上がった。
甲板ではハンターたちと陸戦隊の戦いが始まっていた。そこで日本人らしい男を見付けた。陸戦隊の指揮を執っている。
「伊丹さん、奴を捕まえよう」
「もしかして、奴が十六夜とか言う自衛官でござろうか?」
「捕まえれば判りますよ」
二人は日本人らしい男目掛けて駆け出す。
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