第211話 巨大な爆裂砂蛇
蟻の反応から連携しているようには見えず個別に動いている。俺たちに気付き近付いて来る軍曹蟻に邪爪鉈を叩き込む。躯豪術を駆使して魔力を流し込んだ邪爪鉈の刃は軍曹蟻の頭をかち割る。
俺と伊丹は荒野を走り始めた。軍曹蟻を倒しても放置し剥ぎ取りはしない。伊丹も豪竜刀で豪快に軍曹蟻を真っ二つにしながら荒野を駆け抜ける。
俺たちは右に左に立ち位置を交代しながら赤光に輝く刃を振るい、巨大蟻を蹴散らしながら荒野の最奥に到着した。そこには下へ続く階段が有り、その前に一際大きな巨大蟻が居た。
「こいつは将校蟻か。初めてだ」
「拙者も初めてでござる。手強いのでござろうか?」
俺は判らないと首を振る。
戦ってみると将校蟻が単純に軍曹蟻を大きくしただけの蟻ではないと気付いた。動きが速く戦闘技術も巧みだった。但しバジリスクや灼炎竜を倒した二人を相手するには力不足だった。
邪爪鉈が前足の関節を刎ね飛ばし、豪竜刀が背中を切り裂くと動きが緩慢になり、将校蟻は止めを刺された。
「中々手強い敵でござった」
そう言いながらも、伊丹は息も切らしておらず、余裕が有りそうだ。
この将校蟻だけは解体し魔晶管と魔晶玉、それに外殻を剥ぎ取った。将校蟻の外殻は鎧や防具の素材として人気が有るのだ。
俺たちは階段を下り第十八階層に到着する。この階層は樹々に囲まれた森林エリアだった。
出て来た魔物は
しかも集団で狩りをするらしく、二匹、三匹で襲って来る。俺は五芒星躯豪術、伊丹は鎮星躯豪術を駆使し反応速度を高め迎撃する。
瞬きを忘れるほど集中し
剣山猫の牙が凄まじい速さで襲い掛かる。致命傷になる箇所は何とか避けたが、バジリスクの革鎧を切り裂かれた。とは言え、バジリスクの革鎧は頑丈なので、剣山猫の牙が貫通する事は無かった。
俺は更に集中力を増し頭にも魔力を送り込む。魔力により処理能力を増した脳は、視覚情報の解析速度を倍増させる。
途端に剣山猫が遅くなる……いや、剣山猫の動きが遅くなった訳ではなく、遅くなったように感じるだけだ。そして、自分の身体の反応速度も遅くなったように感じる。
こういう現象は何度も体験しているが、これほど際立った状態は初めてである。俺は邪爪鉈を剣山猫の頭に叩き込む。あれほど手古摺っていたのに、あっさりと決まり剣山猫の息の根が止まった。
伊丹の方も片付いたようだ。
大白猿や金剛蜘蛛にも遭遇したが問題なく倒した。剣山猫のスピードにも慣れた頃、下へ行く階段が見付かった。
第十九階層は砂漠エリアである。この階層には魔導バッグの素材となる爆裂砂蛇が住み着いていた。しかも第十一階層の爆裂砂蛇より二倍も大きいとギルドの資料に有った。
巨大な爆裂砂蛇は巨大な胃袋を持っていると思われる。伊丹と相談し狩る事にした。巨大蛇を探しながら砂漠を横断していると砂漠大鼠に出会すが、大鼠は逃げるので放置する。しばらく歩いて金剛蠍と遭遇する。
襲って来た金剛蠍は伊丹が抜刀術で頭を切り裂いて仕留めた。
中々巨大蛇が見付からない間に砂漠のど真ん中まで到達し、そこで爆裂砂蛇と遭遇した。体長十六メートルの巨大な蛇である。
「これは<
「<魔粒子凝集砲>を使うのでござるか。それだと爆裂砂蛇の胃袋を吹き飛ばす可能性が有るのでは……」
「そこは手加減しますよ」
俺はベルトポーチからマナ杖を取り出した。このベルトポーチは魔導バッグと同じ爆裂砂蛇の胃袋から出来ていて横十五センチ・縦二十センチのポーチなのに中型リュック並の収容量が有った。
俺はこの魔導ポーチに予備の武器と治癒系魔法薬を入れている。魔導ポーチに使われている爆裂砂蛇の胃袋は小さな爆裂砂蛇から剥ぎ取ったもので十数個も所有していたので魔導ポーチと魔導水筒、魔導巾着袋に加工し俺、伊丹、アカネ、薫に渡してある。
大きな収容量が有る魔導バッグを持つより、こういう魔導ポーチを数多く持つ方が旅には便利かもしれないと思った。
話を戻す。
爆裂砂蛇は砂の上にトグロを巻き鎌首を持ち上げ、真っ赤な舌をチロチロと出し入れしている。伊丹に襲い掛かられた時の対応をお願いしてから、マナ杖を握り呪文を唱え始める。
竜の洗礼を受けてから無詠唱で応用魔法が発動出来るようになったが、<魔粒子凝集砲>だけは威力を調節するのに詠唱が必要だった。
「ジレセリアス・ゴザラレム・イジェクテムジン───―」
大気がマナ杖の先端に向かって集まり始め、強い風が起こる。
「───―・マナ・キメクリジェス……<
俺は一回だけ『マナ』と唱えマナ杖のボタンを押し魔粒子を大気の塊の中に流し込む。バレーボール大の青く輝く球が爆裂砂蛇の頭を目掛けて飛んだ。
魔粒子凝集弾は、爆裂砂蛇の頭近くの地面に命中し凄い爆発を引き起こした。砂煙が高く舞い上がり爆裂砂蛇も爆風で吹き飛ばされる。
灼炎竜に使った魔粒子凝集弾に比べれば二割の威力もないものだったが、爆裂砂蛇には十分だったようで気を失ったようだ。
伊丹が近付き<
その後、腹を切り裂いて胃袋を取り出した後、息の根を止めた。胃袋を洗浄し綺麗にする作業は大変だったけれど六畳の部屋ほどのサイズが有る胃袋が回収出来たので満足した。
それからしばらく歩いた。喉が渇くと外側が歩兵蟻の外殻で出来ている魔導水筒から水を飲む。見掛けは小型の水筒なのだが七リットルも水が入る優れものである。
水の残量を気にせずに飲めるので、ありがたい。
その日の夕方、砂漠を横断し遂に第二〇階層へ下りる階段に辿り着いた。
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