第207話 竜炎部隊の前線到着

 オーガの群れが近付いているのを見て、情けない顔をする兵士たちをファルト百騎長が怒鳴る。

「馬鹿者! オーガなどに怯えてどうする」


 兵士の一人が声を上げる。

「ですが……オーガの皮膚は矢を通さないと聞いています」

 オーガと言う魔物が頑強な身体を持つ存在だと言いたいようだ。


 ロルフ竜騎長はオーガの群れを見詰め周りに告げる。

「よし、オーガを殲滅するぞ」

 第四小隊にオーガを狙うよう命じる。


「各自オーガを狙って……放て!」

 オーガに向かって炎の塊が飛翔しオーガの周りで爆発する。直撃されたオーガは手足を吹き飛ばされて即死したが、近くに着弾したオーガは皮膚が焼け爛れ吹き飛ばされる。それだけだったらオーガの再生力で死ななかっただろう。


 だが、オーガの周りの空気が高温となり、それを吸ったオーガは気管と肺が焼かれた。呼吸が出来なくなったオーガは苦しみ暴れ、最後には力尽きて死んだ。

 竜炎撃はロルフ竜騎長たちが考えていた以上に凶悪な武器……いや、兵器だったらしい。


 竜炎部隊の兵士は倒したオーガの群れを見て、自分たちの手に持つ魔導武器の威力を理解した。訓練では地面や標的を狙って撃つだけだったので具体的な威力を理解していなかったのだ。

 この武器を敵兵士に向けた時、何が起きるか想像し顔を青褪めさせる兵士も居た。


 訓練を終了した竜炎部隊はモルガート王子から魔光石を受け取る為に交易都市に立ち寄った。


 受取に立ち会うのはロルフ竜騎長とファルト百騎長、それにモルガート王子、護衛のヤロシュとニムリスである。場所は太守館の前にある魔導飛行船用の人工池。


 そこにオラツェル王子と一部の領主軍を率いる武将が集まって来た。

「新しい魔導武器を装備する部隊というのは貴様たちか」


 オラツェル王子が声を上げた。ロルフ竜騎長は何事かと思いながらも返事をする。

「そうでございます。殿下」


 ロルフ竜騎長はオラツェル王子が連れている領主軍の武将を見て心の中で舌打ちする。領主軍にも竜炎撃を寄越せと主張した者たちだったからだ。


「何をしに来たのだ、オラツェル」

 モルガート王子が不快な気分を表すかのような声を出す。

「これは兄上、公国軍が近くまで攻めて来ておるというのに、まだ街にいらしたのですか」


 暗に戦場に出ようとしないモルガート王子を臆病者と揶揄しているようだ。

 その言葉を聞いてモルガート王子が射殺すような視線をオラツェル王子に向けた。


 モルガート王子の傍らに付き従うヤロシュが口を開く。

「今のフロリス砦を支えているのはモルガート殿下なのですぞ。砦で必要な糧秣や薬などの兵站の全てを仕切っているのです」


 兵站と聞いて、オラツェル王子が鼻で笑う。

「ふん……それは大変ですね。兄上が後方で頑張っていらっしゃる間に、我々が敵を追い払って御覧に入れますよ」


 それを聞いたモルガート王子が。

「六〇〇名程度の兵力で大きな事を言う。魔導武器を数多く揃えているとは言え、大言が過ぎるのではないか」

 オラツェル王子がニヤリと笑った。


「確かに普通の魔導武器では公国軍のような大軍を相手には出来ない。ですが、樹海で灼炎竜が倒され、その素材を使った凄い魔導武器が大量に完成したと言うでは有りませんか。その武器を我々にも装備させてくれれば……」


 今度はモルガート王子が鼻で笑う。

「これだから軍事の素人は困るんだ。折角の武器をバラバラに配ってどうする」

 二人の王子が口喧嘩を始めた。


 ロルフ竜騎長とファルト百騎長は魔光石の入った箱を抱えて気付かれないように撤退した。魔導飛行船に戻ると急いでフロリス砦へ向けて出発する。


 船のデッキから下を見るとオラツェル王子が何か叫んでいる。

「よろしかったのですか?」

 ファルト百騎長がロルフ竜騎長に尋ねる。


「兄弟喧嘩なんかに関わっていられるか。俺たちは国を救うという使命が有るのだ」

 このままだと処罰されそうだが、この戦で手柄を立てれば英雄扱いされるだろう。そうなれば王子であっても手出し出来なくなるはずだ。


 横風を受けながらの飛行となったのでフロリス砦に到着するまで半日が掛かった。

 竜炎部隊が船を降りると、魔導飛行船は王都へと戻って行った。

 フロリス砦で防衛の指揮を執るタカトル将軍へ到着の報告をする。


「ロルフ竜騎長、実物を見ていないので判断が付かないのだが、新しい魔導武器は噂通りの威力が有るのかね」


「どんな噂が広まっているのかは知りませんが、使い方次第では戦局を変えられると思われます」

「それが本当なら嬉しいのだが……」


 タカトル将軍は半信半疑のようだ。将軍の顔には疲労と苦悩が刻まれていた。歳は四十五歳と聞いていたが、十歳以上老けているように見える。

 砦では苦しい戦いが続いているようだ。


 ロルフ竜騎長は戦いの状況と敵の配置を教えて貰い作戦を練る。

 敵の主力はフロリス砦の北東に位置する場所に陣を張っていた。兵数は五〇〇〇ほど、その半数が弓兵で戦闘時には矢の雨を砦に降らせる。


 主力の前方には梯子や破城槌などを装備している攻城兵が居る。そして、敵陣の広い範囲に魔導兵が護衛兵に守られ散らばっていた。


 この世界において攻城の主力は魔導兵である。攻城戦で一番多いパターンは、弓矢の攻撃から始まり、魔導兵が城壁に近寄り、攻撃魔法でダメージを与え、攻城兵が城門や城壁から侵入出来れば攻撃側の勝ちとなる。


 竜炎部隊がフロリス砦に到着した日、公国軍の側でも動きがあった。ヴァスケス砦で使用した新兵器の『天激爆雷』が三つ完成し攻撃軍の下に届けられたのだ。


 期せずして敵味方の切り札が揃った事になる。この事により切り札を如何に有効に使うかにより戦いの趨勢が決まる。


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