第205話 国王の竜炎撃
俺と伊丹が迷宮都市に戻った頃、王都のエクサバル城では国王ウラガル二世と軍部が会議をしていた。出席者は国王と宰相クロムウィード、それにカウレウス将軍と副官である。
「将軍、準備は出来ておるのであろうな?」
「もちろんでございます、陛下」
カウレウス将軍は弓隊の中から精鋭二〇〇人を選び、シュマルディン王子が持参した竜炎撃一本をサンプルとして新しい魔導武器の性能を教え込み、厳しい訓練を課し鍛えていた。
「その者たちが竜炎撃を手にし公国軍に立ち向かえば、勝てるのか?」
カウレウス将軍は厳しい表情を作り、正直に答える。
「判りませぬ。実戦において新しい魔導武器がどれほどの威力を発揮するか判断できぬのです」
国王が沈痛な表情を作り拳を握り締める。
沈黙した国王に申し訳なさそうな顔でクロムウィード宰相が報告をする。
「領主軍から、竜炎撃が完成したならば自分たちにも配備を願う声が上がっております」
「何ッ……竜炎撃については軍事機密とするよう申し付けたはずではないか」
シュマルディンが竜炎撃を持ってきた時、その威力に国王や将軍は驚いた。けれども、一本だけでは戦局を変えられはしない。
だが、竜炎撃が一〇〇本ほど生産可能だと知った時、将軍は衝撃を受けた。それなら戦局を変えられる可能性が有る。
それを国王に告げた。その時、
「それは本当か……ならば、迷宮都市の職人に生産を急がせよ。そして、この武器の事は口外を禁ずる」
と国王が命じたはずなのに、領主たちが知っているのは軍や閣僚の中に思慮の浅い者が居たという事だ。
国王は溜息を吐き、将軍に尋ねる。
「どう思う?」
「領主軍が威力の有る武器を欲しがるのは理解出来ます。ですが、敵軍を打ち破るには集中運用する必要が有ると考えます」
「領主軍には悪いが、今のままで時間を稼いで貰うしかないのか」
その後、フロリス砦の状況を確認した後、国王が王都の様子を宰相に尋ねた。
「貴族に続いて裕福な商人たちが家族を西方の地方都市へ避難させ始めており、高級商店街などは人通りが少なくなっています。更に街では喧嘩や暴力沙汰が増えており治安が悪化する懸念が出ております」
国王が眉をひそめる。
「何か対策を打っているのか?」
「警邏兵の巡回を増したくらいでございます」
「他には何かあるか?」
「物流が停滞しており、食料品や生活雑貨の値上がりが始まっています」
クロムウィード宰相が渋い顔で答えると国王は深刻な顔になる。食料が値上がりすると低所得層であるスラムなどの住民が暴動を起こす危険が出て来る。
「戦争の影響が少ない西方地方から食料や生活雑貨を王都へ運ぶよう命じよ」
国王がそう指示を出した時、城門の当番兵からシュマルディン王子とダルバルが城に到着したと知らせて来た。
国王は練兵場に向かわせるように命じた。
ディンとダルバルの一行は魔導飛行バギーに乗ったまま城門を潜りエクサバル城に入った。当番兵が国王へ知らせに走り、練兵場に向かうよう命じられたと聞くと、城の中庭を飛び練兵場へ向かった。
城の人間も漸く空を飛ぶ小型の乗り物の存在に慣れてきたようで注目される事が少なくなった。それでもすれ違う兵士や官吏たちの多くは立ち止まって魔導飛行バギーを見詰める。
練兵場で訓練している兵士たちが不意の侵入者に気付いて声を上げる。
「おい、シュマルディン殿下とダルバル殿だ」
「もしかして新しい武器を運んで来られたのか?」
「灼炎竜の竜炎棘を元に作られたという魔導武器が間に合ったのか」
「そ、それなら公国軍を撃退出来るかもしれんぞ」
竜炎撃はもはや軍事機密ではなくなっていたようだ。
ダルバルは不機嫌な顔で兵士を一人捕まえ、カウレウス将軍を呼んで来るように頼んだ。間も無くカウレウス将軍が新しく編成された弓部隊の精鋭二〇〇人を引き連れ練兵場に現れた。
「シュマルディン殿下、竜炎撃が揃ったのですか?」
ディンが頷き魔導飛行バギーの屋根に載せられている魔導武器を指差した。
「ああ、フロリス砦は大丈夫なの?」
「落ちたという知らせがないので、おそらくは各領主軍と我軍が奮戦していると思われます」
「魔導飛行船の用意は終っているのだろうな」
ダルバルが確かめるとカウレウス将軍が肯定した。
予定では竜炎撃一〇〇本が揃った時点で魔導飛行船に乗って訓練場所まで行き、竜炎撃の射撃訓練を行った後フロリス砦へ飛ぶ事になっていた。
国王が竜炎撃一〇〇本を確かめる為に練兵場までやって来た。それだけ新しい魔導武器を重要視しているのだろう。
ダルバルが指示を出し魔導飛行バギーに積まれている竜炎撃を下ろした。本来なら槍を立て掛ける場所に竜炎撃が並べられていくのを見て、国王が満足そうに頷き、ディンとダルバルの所まで歩み寄る。
国王はディンをハグし褒めた。
「シュマルディン、よくやった」
ディンは照れたように笑ってから、
「当然の事をしただけです、陛下。それより竜炎撃は全部をフロリス砦に持っていかずに少しだけ王都に残した方が良いかもしれません」
国王は意味が分からず首を傾げる。そこにカウレウス将軍が口を挟んだ。
「まさか、公国軍が魔導飛行船で王都を強襲するかもしれないと考えておられるのですか?」
「ミコトに相談していた時に、その可能性もあると言っていたのです」
国王とカウレウス将軍が苦虫を噛み潰したような顔をして顔を見合わせた。
「陛下、魔導兵のほとんどがフロリス砦へ行っております。四本ほど王都に残しましょう」
「判った」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます