第203話 灼炎竜の角
疑問点が浮かんだ。
「敵は何故魔導兵器を投石機のようなもので飛ばさなかったのでしょう?」
「投石機では、それほど高くは飛ばせんからだろう。魔導兵器が発動する最適の高さというものが有るのではないか」
「なるほど……でも、フロリス砦に魔導兵器を使わないのは何故でしょう?」
「軍の連中は新しい魔導兵器の数が揃っていないからだろうと推測しておる」
「と言う事は、戦争が長引くと再び、その魔導兵器が使用される可能性が有るのか。まずいですね」
ダルバル爺さんが重々しく頷き。
「だから、陛下は竜炎撃に期待されておるのだ」
黙って聞いていたディンが口を挟む。
「王都で陛下に竜炎撃の威力を披露した時は、凄く喜んでいたよ」
「まあ期待されているのは嬉しいが、兵器や武器というものは運用次第だから。そこをちゃんと検討するように言っておいて下さい」
「ちょっと待て。他人事のように言っているが、ミコトには戦術についても知恵を借りたいのだ」
「俺は軍人じゃないです。戦術なんか知りませんよ」
俺が拒否するとディンが、
「でも、竜炎撃を一番理解しているのはミコトでしょ」
仕方なく三人で竜炎撃の効果的な使い方について話し合った。
三日後、竜炎撃一〇〇本が完成した。ダルバルとディンは竜炎撃を運ぶのに二台の魔導飛行バギーを用意していた。一台は太守館で購入したもの、もう一台は新しく完成し王都へ搬送するものである。屋根部分の上に竜炎撃を五〇本ずつ積んで運ぶ予定になっている。
操縦者はダルバルとディンで、他に警護の衛兵四人が二台の魔導飛行バギーに分かれて同行する。
武器を用意しただけでは戦力にならない。少なくとも本物の武器を使って射撃訓練をしなければ実戦には耐えられない。
王都では精鋭の弓兵二〇〇人が竜炎撃を待っており、ディンたちの到着後、すぐに訓練を開始する手筈が整っている。
ディンたちが迷宮都市を出発してから、俺はカリス親方の工房へ向かった。親方たち職人は昨日までの不眠不休の作業で疲れ果て休養を取っている。
俺は誰もいない工房に入り、道具を借りて作業を始めた。製作するのは灼炎竜の角を模倣したランス型の槍である。材料は一等級のミスリル合金を使う。
ミスリル合金の延べ棒を<
竜炎撃の予備の部品である発射ボタンを組み込んだ柄と魔力供給筒を繋げて新しい武器を作る。但し、魔力供給筒に組み込む魔導核は、薫に頼んで作って貰った補助神紋図を元に作成した魔導核に変える。
その魔導核は簡易魔導核に使うような安物の魔晶玉ではなく、雷黒猿から剥ぎ取った魔晶玉を使った。新しい武器で扱う魔力量は膨大で、安物の魔晶玉では耐えられないと判っていたからだ。
最後に灼炎竜の角に秘められている源紋をミスリル合金製のランスに<
オリジナルの源紋『竜閃砲』では魔力の消費量が大き過ぎ実用的では無いからだ。威力を十分の一にする事により、必要とする魔力量を削減し小型の魔力供給筒一本で青白いビーム『竜閃激光』を五秒間連続発射出来るようにした。
完成した武器は源紋の名と同じ『竜閃砲』とした。
竜炎撃の射程は五〇〇メートルほどだが、竜閃砲は倍以上長い。この竜閃砲は竜炎撃を迷宮都市の敵が手にした時の対抗手段として用意したものだった。
ミスカル公国がマウセリア王国に攻め込んでいる今、何もせずにいれば『虫の迷宮』をミスカル公国は手に入れるだろう。そうなれば大量の魔光石を公国軍が手にする事になる。
公国軍は強力な魔導兵器をさらに開発し、王国の奥へと進軍を開始するに違いない。マウセリア王国が存在する限り、奪われた領土を取り返そうとするからだ。
交易都市ミュムルが陥落し、王都で戦いが起これば何万人という数の人命が失われるだろう。異世界の歴史を調べれば、何度も繰り返されてきた事だと判る。
日本の戦国時代と違うのは、負けた国の民は勝った国の劣等階級民として組み込まれ虐げられるという点だ。
それにミスカル公国は猫人族などを人間として認めていない点も心配だ。ミスカル公国が戦争に勝つような事が有ればルキたちが安全に暮らせる場所を考えねばならない。
趙悠館に戻ると伊丹を伴ってエヴァソン遺跡に向かった。遺跡に行く前に寄り道をする。常世の森にはもう一箇所、手に入れたいと思う場所が有った。ガルガスの樹が林となっている場所である。
ここは大鬼蜘蛛の巣にもなっているので、防壁で囲んでから大鬼蜘蛛を駆逐すれば犬人族の食料庫になる。だが、大鬼蜘蛛を駆逐するのは止めた。大鬼蜘蛛が居なくなると虫型の魔物が寄って来るからだ。
ガルガスの林の前まで来て伊丹と相談する。
「どうしたら良いと思います?」
「剛雷槌槍で武装した者とガルガスの実や樹液を採取する者をチームとして編成し、ガルガスの林に派遣するのが得策ではござらんか?」
「そうか、俺としてはガルガスの林もエヴァソン遺跡の一部なんだぞと示す為に囲んで置きたかったのだけど」
「囲むだけなら木製の柵で囲んで、エヴァソン遺跡の一部である事と大鬼蜘蛛の巣が有る事を知らせる警告板を立てれば良いのでは」
「なるほど、それで行きますか」
近くに大鬼蜘蛛が居るのを感じていたが、奴らは近付いて来なかった。灼炎竜を倒し『竜の洗礼』を受けた後、魔物が何かを感じるのか近付かなくなった。
それは伊丹も同じらしく、監査チームと樹海を旅した時も魔物が寄り付かず楽なものだったらしい。但し、自分から気配を消している時は別である。
ガルガスの林からエヴァソン遺跡に移動した。エヴァソン遺跡は犬人族の手で整備され要塞都市のような姿に変わっていた。
遺跡は高さ八メートルの防壁により囲まれ、常世の森とは切り離されていた。防壁から三〇メートルの範囲は樹木が切り倒され、見通しの良い草原となっている。
将来的には常世の森と草原になっている境に高さ四メートルほどの石垣を築き二重の防壁でエヴァソン遺跡を守りたいと考えていた。
エヴァソン遺跡に到着した俺たちは門番をしている犬人族に挨拶をして入り、遺跡から海の方へと向かった。ここに来たのはエヴァソン遺跡の整備がどこまで進んだのか確かめる為と竜閃砲の試射をする為だった。
俺は肩から斜め掛けしている魔導バッグから竜閃砲を取り出した。
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