第199話 陰謀の自衛官
加藤大蔵は鳥型の魔物が人を襲ったと聞いてニヤリと笑った。
魔物による被害者が増えれば、転移門を管理する為に自衛隊を異世界に派遣させようと主張している自分たちに賛同する政治家が増えるからだ。
都内に有る総合病院の一室で加藤代議士と十六夜一等陸佐は密会した。この病院は加藤代議士の親戚が経営する病院で、彼の為に色々と便宜を図ってくれる。
「異世界での戦況はどうなっている?」
VIPルームで加藤が尋ねると十六夜一等陸佐は無表情のまま応える。
「第一段階は予定通りです」
その答えを聞いた加藤代議士が鼻をフンと鳴らす。
「……予定通りではない。JTGの東條とか言う奴が銃の事を知って訴えおった」
そう聞いても十六夜一等陸佐は顔色を変えず。
「想定内では有りませんか。最初に異世界転移に巻き込まれた民間人が火薬と銃について異世界人に伝えたと言い張ればいいのです」
「自衛隊らしい人物が銃を持つ異世界人の部隊を引き連れていたと証言している。……しかも君の名前まで知られているのだぞ」
初めて十六夜一等陸佐の表情が動いた。
「自分の名前がですか……それはまずいですね。部下に始末させましょうか?」
「今は駄目だ。余計に疑われる。私がJTGに圧力を掛け、これ以上騒がないようにする。君は『虫の迷宮』を一刻も早く制圧し、魔光石を手に入れろ」
「国友会長から急かされているのですか?」
平成の怪物と呼ばれる国友信行は、財界と政界に影響力を持つフィクサーで、加藤代議士の盟友でも有る。
「うむ……国友の所有する研究所が転移門の機能を拡張する方法を探し当てた。それには魔光石が必要らしい」
「オークの奴らが異世界から剣を送り込んだと言う情報を聞いてますが、奴らと同じ方法を発見したのですか?」
「それは判らん。だが、魔光石を使った魔道具が有れば、銃でも何でも異世界に送り込めるようになる可能性があると科学者は言っているらしい」
「それなら何としても魔光石を手に入れる必要が有りますね」
国友の所有する研究所が研究しているのは、転移門が形成する転移フィールドに干渉する魔道具だった。奇しくもオークたちが開発している魔導技術と同系統の技術である。
それも当然で、研究の元になったものは、薫が東埜たちと一緒に異世界に転移した時、火山の近くに在る遺跡の転移門で拾ったオークの魔道具である。
薫が迷宮都市に持ち込み、ミコトがJTGに報告したものだ。その後、研究者が来て、その魔道具を分解し調査した。分解された魔道具は趙悠館に保管されているが、研究者の手により箱に封印されている。
その研究者は国友の手飼いの者で、調査した情報を国に報告した後、密かに自分たちだけで研究を続けていたのだ。
研究者は知らなかったが、彼らが研究する方法では生き物以外の物を転移させる事は叶わない。爆裂砂蛇のような特別な能力を持つ魔物を使うか、転移門の金属盤に刻まれている難解な神意文字を刻み直すしか方法はないのだ。但し、転移門の金属盤は非常に硬く、刻み直す方法は解明されていない。
神意文字に詳しい薫でさえ、転移門を形成する箇所の補助神紋術式を解読出来なかった。補助神紋術式の中で動詞の代わりに使われている神印紋の知識が不足しているのだ。
日本やアメリカなどの研究者の間でも神意文字の研究は進んでいるが、神印紋についてはあまり判っていなかった。
今回の魔物の騒動で、オークたちが剣を持ち込んだのを知った国友の研究者は、件の魔道具を発展させたものを使い剣をリアルワールドに転移させたと勘違いしたようだ。
加藤代議士は十六夜一等陸佐に視線を向け。
「自衛隊は鳥型魔物の騒ぎには出動しないのか?」
「警察側が自衛隊の協力を拒否したようです」
「ふん、縄張り争いか。低劣な奴らが」
「警察の奴らは腕の良い狙撃手を集めています」
「まあいい、警察のお手並みを拝見しようではないか」
加藤代議士が警察を馬鹿にするように告げた。
同時刻、県警の大村管理官は大学近くの路上に停めた指揮車に陣取り、日が落ちるのを待っていた。
「もうすぐ日が落ちる。奴らが動かなくなるのを待つんだ」
丸顔のメガネを掛けた大村管理官が配置した狙撃手に指示を出す。
ビルの屋上に集まった鳥型魔物『サイスバード』は空調の室外機が並ぶ場所をうろちょろしていた。その場所は障害物が多く、狙撃するには不向きな場所だった。
その時、部下から連絡が入る。
「民間人が一人、近くのビルから外に出て来ました」
「何を……クソッ、奴らが気付いた」
出て来たのは近くの飲み屋で飲んでいた男だった。酔っぱらいは警察の指示を忘れ外に出たらしい。サイスバードたちが騒ぎ始め、羽をバタつかせている。酔っぱらいを攻撃するつもりだ。
「仕方ない。被害者が出る前に攻撃する」
配置している狙撃手に指示を出し、狙撃を命じた。
一斉射撃により五羽のサイスバードの中の四羽がダメージを受けた。しかし、それで飛べなくなったのは二羽だけ。その他は狙っていた獲物に攻撃されたと勘違いし、酔っぱらい目掛けて飛翔する。
無傷の一羽が酔っぱらいの首を凶悪な爪で切り裂いた。酔っぱらいは首から血を吹き出し倒れる。
「狙いを付け次第放て!」
次々に酔っぱらいの身体目掛けて飛んで来るサイスバードに銃弾が撃ち込まれた。こうして鳥型魔物は仕留められたが、新たな犠牲者を出した警察は非難された。
喫茶店に避難していた真希と美鈴は無事に帰宅した。その連絡を受け、薫は安堵する。手強い魔物である軍曹蟻とサイスバードが自衛隊と警察により退治されたので、人々の不安は沈静化した。
だが、ゴブリンを捕らえた者に二〇〇万円を出すとネット上に流された事が引き金となって、再び不安が広がった。逃げたゴブリンの正確な数が判らなかったからだ。
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