第181話 竜との戦い

 爆発のショックから立ち直ったダルバル爺さんたちから無言の非難を浴びた。俺だって威力を知らなかったんだから罪はない。

 こうなると知っていたら防御用の土嚢とかを積んだ場所から試し撃ちしていた。


 <魔粒子凝集砲マナコヒージュンキャノン>の威力は判った。上手く使えば灼炎竜を仕留められる程の威力が有りそうだ。

 但し、薫の<崩岩弾クランブルロックブリット>のように無詠唱では使えないので使い所が難しい。


 太守館で用意してくれた衣服に着替え、灼炎竜対策をもう一度話し合った。ダルバル爺さんの要望として、出来るなら灼炎竜を仕留めて欲しいらしい。


「灼炎竜の腹側はどうなんだ。鱗がなければ、ミコトの魔法で仕留められるんじゃないのか?」

 ダルバル爺さんが尋ねるとアルフォス支部長が、

「いや、よく観察したのだが腹側にも小さな鱗が有った。背中ほど防御力は高く無さそうだが、魔導飛行バギーからだと命中させるのが難しいだろう」


 俺が魔導飛行バギーに乗って特攻する前提で話が進んでいる。迷宮都市の危機なので拒否しようと思っている訳ではない。ただ俺の意志を確認しないのが納得出来ない。

 そんな所はダルバル爺さんもやっぱり貴族なんだなと思う。


 会議室に衛兵が来てダルバル爺さんに報告する。

「何故、オークが灼炎竜を迷宮都市に誘導したのか判りました」


 いかつい顔の衛兵は魔導師オークを尋問(拷問?)して得た情報を報告する。この太守館にはオークの言葉が分かる人材が居るようである。


「オークの王である青鱗帝は、人間が許可もなくオークの町に侵入した事に激怒しているらしい。その報復として幾つかの人間の町を攻撃するよう命じたそうです」


 その報告を聞いて会議室が沈黙に支配された。

 俺は予想もしていなかった事実に驚いていた。今回の騒動の原因が自衛隊の偵察任務にあると判ったからだ。


 もちろん、韓国やアメリカも偵察をしているので自衛隊だけが原因ではないのだが、同じ日本人の所為で、灼炎竜の騒動が起きたのなら他人事では済まされないと思う。


「私は聞いておらんぞ。だいたい瘴霧の森に入る事は国が禁じておる」

 ダルバル爺さんの言葉にアルフォス支部長が頷く。

「誰が……いや、何処の国がそんな真似をしたのでしょう?」


 俺は何だか居たたまれない気持ちになる。この情報は東條管理官に報告した方がいいだろう。もし青鱗帝が侵入したのが、この世界の人間ではなくリアルワールドの者達だと知れば、リアルワールドに報復する可能性が高い。


 話し合いの結果、オークたちが使った方法で灼炎竜の進路を変える事になった。作戦の参加者は、俺と伊丹、アルフォス支部長とポッブスである。


 二人組みにしたのは少しでも魔導飛行バギーを軽くし退避行動を素早く行えるようにしたかったのだ。


 カリス親方の所から新しい魔導飛行バギーが運ばれて来た。伊丹も太守館に到着する。

「今度は竜か……中々強敵でござるな」

「伊丹さんは魔導飛行バギーの操縦を頼むよ」


 迷宮都市に居る人間の中で魔導飛行バギーの操縦が可能なのは趙悠館の者とダルバル爺さん、支部長、ディンになる。ダルバル爺さんやディンに任せる訳にはいかないので、伊丹にお願いするしか無かった。


 完全武装した俺たちは自分の魔導飛行バギーに乗って太守館を飛び立った。前方にはアルフォス支部長が操縦する貴族仕様の魔導飛行バギーが飛んでいる。


「このような事態になると知っておれば、第三階梯の神紋を授かっておくのであった」

 伊丹は第三階梯神紋である『天雷嵐渦てんらいらんかの神紋』や『崩岩神威ほうがんしんいの神紋』を授かるか、第四階梯神紋である『神威光翼かむいこうよくの神紋』の適性を得るまで待つか迷っていたのだ。


 俺が第四階梯神紋の『時空結界術の神紋』を持ち、薫が『神威光翼かむいこうよくの神紋』を狙っているので、自分もと思ったらしい。


「まあ、しょうがないよ。灼炎竜が現れるなんて予想もしなかったんだから」

「いや、剣技では太刀打ち出来ない強敵が現れる事を考えるべきだったのでござる」


 鍛え上げた剣技が灼炎竜には通用しそうにないので、悔しいようだ。

「適性はどうなの?」

 神紋は神紋の扉を反応させる事が出来なければ授かれない。


「『天雷嵐渦てんらいらんかの神紋』と『崩岩神威ほうがんしんいの神紋』の両方共大丈夫でござる」

 さすが伊丹である。


 バジリスクを倒した後、俺も魔導寺院で試し両方の神紋に適性が有るのを確認している。

 何故、新しい神紋を授からないのかと言うと、『時空結界術の神紋』を取得した直後、頭の中にある神紋記憶域が七割ほど埋まり、後一つか二つしか神紋を受け入れられないと感じたからだ。

 俺も伊丹と同じく第三階梯神紋を取るか第四階梯神紋を取るかで迷っているのだ。


 ココス街道の上空を飛行する俺たちの前方に巨大な竜が姿を現した。周りの木を押し倒しながら灼炎竜が巨体を進ませている。歩く度に盛大な土埃が舞い上がり、地響きを伴う足音が聞こえて来る。


 その姿を遠くから見るだけで威圧感を感じる。

「これはバジリスクより強い覇気を感じる。そう思わぬか、ミコト殿」

 伊丹が魔導飛行バギーを操縦しながら、後ろに座っている俺に確認する。


「ああ、俺もそう思う。……倒せると思う?」

 俺が伊丹の背中を見ながら尋ねると少し沈黙してから、

「難しいな。可能性が有るとすればミコト殿の新しい攻撃魔法だが……あの鱗、ただの鱗ではないのでござろう」

 鱗にどれほどの魔法防御力が有るかにより、倒せるかどうかが決まるだろう。


 二台の魔導飛行バギーは灼炎竜を真ん中に周囲を旋回する。

 前を飛ぶアルフォス支部長が『魔法準備』の合図として赤い手旗を上げる。俺はマナ杖を手に持ち詠唱を開始した。


 その赤い手旗が振り下ろされる。『攻撃』の合図である。

 まず、ポッブスが<雷槍サンダースピア>を灼炎竜目掛けて放つ。雷撃の槍は灼炎竜の首筋に命中するが、青白い火花を放ち砕けるようにして霧散した。


 次に魔粒子凝集弾が放たれる。青く輝く球が灼炎竜の頭に向かって飛翔し命中する。その瞬間、竜の頭上で大爆発が発生する。


 魔粒子凝集弾が魔粒子だけの塊だったら、竜の鱗の効果により衝撃波は跳ね返され竜は無傷だったかもしれない。だが、魔粒子凝集弾は圧縮した大気と魔粒子の混合物であり、その破壊力には純粋な物理的破壊力が含まれていた。


 爆風が収まり竜を観察すると、爆発点に近い頭部の鱗が割れ血が流れ出していた。

 竜が脳震盪でも起こしたようにグラリと揺れた。俺は倒れるのかと期待して見守っていたが、少しヨタっとしただけで立ち直る。

 灼炎竜は血走った眼を二台の魔導飛行バギーに向け、強烈な咆哮を上げた。


「ギュグォオオオオオオーーーーーー!」


 その咆哮を浴びた俺たちは脳味噌を掻き回されたかのような衝撃を受けた。

 魔導飛行バギーが不安定に揺れ高度を落とす。


「伊丹さん!」

 俺は伊丹の肩を揺さぶり正気に戻す。俺たちの魔導飛行バギーの方が灼炎竜に近かったのでダメージが大きかったようだ。


 支部長の魔導飛行バギーは決められていた方向に移動を開始している。俺たちも支部長たちを追った。


 後ろを見ると灼炎竜が追い掛けて来る。計画通りであるが、その時は『追って来るな』と叫びたかった。


 灼炎竜の背中に並ぶスパイク状の突起が俺たちを狙って動き始める。灼炎竜から感じる魔力が膨れ上がる。


「あの攻撃が来る……急上昇の用意を」

「了解でござる」

 伊丹が魔導飛行バギーの高度を操作するレバーに手を置く。


 灼炎竜の身体の周りに炎の塊が一〇〇近く生まれ、それらが一斉に弾け飛んだ。飛んだ先には二台の魔導飛行バギーが有る。


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