第150話 シュマルディンの魔法と魔導飛行バギー
人差し指から見えない弾丸が飛び出す。シュマルディンの魔力弾は威力こそ小さいがスピードが有った。瞬時に八メートルの距離を飛翔し丸太に命中すると、『バン』という音を発し爆ぜる。
丸太に拳ほどの陥没が出来た。
「ええーっ!」「おっ!」「凄い」
見ていた生徒たちの中から声が上がる。ジェスバル先生は丸太の所まで駆け寄り、シュマルディンが放った魔法の威力を調べた。
この威力からすると
サラティアが駆け寄って来てシュマルディンに抱き付いた。
「凄いです。ディン兄様、サラにも教えて下さい」
ジェスバル先生が近付いて来て質問を始めた。
「シュマルディン殿下、今の魔法はどんな神紋を元にしているのですか?」
聞いてから失敗したと言う顔をする。ハンターは自分の神紋を秘密にすると言う言葉を思い出したのだろう。
「習った師から秘密にするように言われているので済みません」
「新しい応用魔法かどうかだけでも教えてくれ」
その質問に関しては答えても問題ないと思えたので正直に答える。
「ええ、新しく開発されたものです」
生徒たちもシュマルディンの周りに集まって来て色々質問を始めた。迷宮都市の様子やクラウザ研究学院についてが多かった。
「先生、来月の野外演習に従兄弟殿も参加して貰ってはどうですか。ハンターの実力を見せて貰いたいです」
唐突にポルメオスが提案した。その提案に逸早く賛成したのはシュマルディンの母親であった。
「ディンは来月まで王都に居なさい。いいわね」
シュマルディンが王都を去るきっかけになった事件は、祖父のダルバルがデヨン同盟諸国との外交権を手に入れようとした事が発端だった。外務府の役人に賄賂を贈り、外務卿トルマヤ侯爵に高価な贈り物をした。
ダルバルとしては外交代表となり交渉を成功させ、王家での発言権を高める予定であった。だが、ダルバルの動きはクモリス財務卿に知られており、調べ上げられ全てを王に報告された。
そんな時、トルマヤ外務卿が何者かに襲われた。曲者は撃退されたが、外務卿が重症を負った。
疑いはダルバルにも掛かった。しかも何も知らなかったシュマルディンも関係していたと疑われ、ダルバルとシュマルディンは王都から遠ざけられる事になった。
正式には迷宮都市の太守に任命されたのだが、学院の卒業前に辞めさせられ辺境の地に追いやられたのは、シュマルディンやダルバルを疑う貴族たちの圧力があったからだ。
ダルバルは一連の事件にクモリス財務卿が関わっているのではと考えたが、何も証拠は上がらなかった。
シュマルディンにとって王都は居心地の良い場所ではない。用が済んだら迷宮都市へ帰るつもりだったのだが、久し振りに会った息子がすぐに迷宮都市へ行ってしまうのを嫌った第二王妃は、ポルメオスの提案に飛び付きシュマルディンに来月まで居るように言い付けた。
◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆
迷宮都市ではカリス工房で魔導飛行バギーの製作が進んでいた。三つの車輪はバイク並みの太さで岩甲蛙の皮を使ってタイヤの替わりとした。
車体は鋼鉄と大剣甲虫の外殻を使い少しくらいの衝撃では壊れないようにする。座席は
魔導飛行バギーの全体的な形状は、長細い三輪バギーに屋根が付いているようなものである。屋根部分は浮揚タンクとメイン魔導推進器、方向転換用スラスター、方向舵などが組み込まれている。
またV字型の浮揚タンクの上には鉄パイプの枠と金網で作った荷台を付け、物を乗せられるようにした。
魔導推進器に使う魔導核にはワイバーンの魔晶玉、方向転換用スラスターに使う魔導核には雷黒猿の魔晶玉が使われた。大きな出力を要する魔導推進器には、高性能の魔導核が必要だったのだ。その部品にも高価なミスリル合金が大量に使われ、魔導推進器関係だけで金貨四〇〇枚が必要だった。
オラツェル王子やモルガート王子から簡易魔導核の注文が無ければ資金不足となっていただろう。
浮揚タンクや魔導推進器に魔力を供給する魔力供給装置を除いて魔導飛行バギーは完成した。その段階でテスト飛行を行う事にした。
場所は勇者の迷宮へ向かう途中にある草原で、立会にカリス工房の職人たちが付いて来た。荷馬車で魔導飛行バギーを運び草原に下ろす。
空には雲一つ無く、風もなかった。三席ある座席の内、一番前が操縦席である。前輪を操作するハンドルは方向舵にも連結していて、ハンドルを操作すると前輪と方向舵が同時に動く。
魔力供給装置が無いので自分の魔力を供給しないといけないのは面倒だが、躯豪術に習熟しているので可能だった。まずは浮揚タンクに繋がっている導線に魔力を少しずつ流し込む。実験で怖い思いをしているので、本当に少量ずつ魔力量を増やす。
バギーの車体がゆっくりと浮き上がり地上二メートルほどの所で静止した。この高さはカリス親方と相談して決めたもので、これ以上の高度になると故障した時に危険であるとして決定した。
「ウォーッ、浮いたぞ!」「やりました、親方」
カリス工房の職人たちが魔導飛行バギーが浮き上がった姿を見て感動の声を上げる。
「よし、ミコト。魔導推進器に魔力を送り込んでみろ」
俺は頷き魔導推進器にも魔力を流し込む。魔導推進器が前方の空気を吸い込み圧縮し後方に噴き出す。
魔導推進器はジェットエンジンに似ているが、燃料となるものを使用していないので爆発的な推進力はない。ゴォーと唸るような低い噴出音が響き、魔導飛行バギーが進み始める。
気分的には宇宙戦争映画のホバーバイクと呼ばれる乗り物なのだが、加速力が小さく亀並みのスピードで進む。加速力不足は流し込んでいる魔力量が少ないのも原因である。魔力供給装置が完成すれば改善されるはずだ。
「遅いですね」
カリス親方たちがバギーの横に並んで歩いている。あまりの遅さにカリス親方が。
「なあ、この魔導推進器は失敗じゃねえのか?」
「失敗と判断するのは早過ぎです。加速するのに時間が掛かるだけかもしれません」
俺はそう言ったが、内心がっかりしていた。
だが、次第に加速していく。横に並んでいるカリス親方たちが早足になり、ついには走り出した。しばらくすると親方たちの息が荒くなって来る。
「親方はここで待っていて下さい」
俺が叫ぶと親方たちが立ち止まりバギーを見送る。
スピードは徐々に上がり時速二〇キロほどになった。大体ママチャリで走る時のスピードであり、身体に吹き付ける風が心地よい。ハンドルを左に切ると背後にある方向舵も動きゆっくりとだが左旋回を始める。
旋回している間も加速は続き時速三〇キロまで加速する。そこが限界だった。これ以上のスピードを出すには空気力学的な計算を行いバギーの形状を改造するか魔力供給装置を完成させ、大量の魔力を供給するしかない。
方向転換しカリス親方の方へと近付き魔導推進器と浮揚タンクへ流す魔力を止める。魔導飛行バギーはカリス親方の近くで着地し静止した。
「始めはどうなるかと思ったがいいじゃねえか」
親方は兎も角、職人たちが興奮し自分たちも乗せてくれと言い始めた。仕方なく親方と職人たちを順番に乗せ何回か試験飛行を繰り返した。
本格的な飛行は魔力供給装置を完成させ、安全面でのチェックを繰り返した後で行う事になった。上空数百メートルでトラブルが発生した場合の対処法も考えなければならないと頭を悩ます。
不意にカリス親方が尋ねる。
「ミコト、魔光石はいつ取りに行くんだ。アルミ容器は渡しただろ」
「伊丹さんが戻ってからですよ。明日には戻る予定なので三日後くらいには迷宮へ潜ります」
「そうか、楽しみだな。一度上から迷宮都市を眺めてみたかったんだ」
明日、伊丹と薫が異世界へ来る予定になっている。薫は本当に来れるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます