第144話 偵察部隊の戦い 4
「私が一匹貰います」
錦織が紅炎剣を抜き駈け出した。同時に織部一等陸尉たちが二つのグループに分かれ、それぞれオーガを囲む。仲間外れにされたのは金光一等陸佐と倉木三等陸尉たちだった。
紅炎剣を持つ案内人はジリジリとオーガに近付く、そのオーガが柱のような棍棒を高速で振り回す。錦織は大きくステップしひらりと棍棒を躱した。
倉木三等陸尉は「ほおっ」と声を上げた。イケメンは避け方も華麗であるらしい。
錦織は紅炎剣の魔導核に触れて魔力を流し込む。その瞬間、紅炎剣から炎が吹き出した。オレンジ色に輝く炎は剣全体を覆うように吹き出し、その炎はオーガを威嚇する。
オーガは一瞬怯んだように呻き声を上げた。錦織が間合いを縮めると紅炎剣を打ち払うように棍棒を叩き付けてくる。
ヒョイと棍棒を受け流した。体勢を崩したオーガに紅炎剣が襲い掛かった。炎をなびかせた剣がオーガの脇腹を切り裂く。切られた箇所は高熱の炎が纏わり付き追加ダメージを与える。
オーガは
「チッ、だから原始的な魔物は嫌いだよ」
紅炎剣の炎が弱まって来た。錦織はもう一度魔導核に触り魔力を流し込む。この紅炎剣は魔法効果の発動に大量の魔力を必要とするのかもしれない。
錦織は攻撃目標をオーガの右腕に絞って攻撃を開始した。何度も腕を紅炎剣が斬り付け、最後には腕の付け根から先を切り落とした。
錦織はニヤリと笑って首に紅炎剣を叩き込もうとした。剣の軌道が少しだけ大振りになった。片腕となったオーガはドカッと地面を蹴ると錦織に前蹴りを放つ。
一瞬早く紅炎剣がオーガの首に入り、切り裂くと同時に切り口から内部に炎を送り込んで焼く。そして、オーガの左足の先が錦織の肩を掠めた。
錦織の身体が吹き飛ばされ空中で回転し地面を転がった。
「あっ」
金光一等陸佐は錦織が吹き飛ばされたのを見て声を上げた。オーガは最後の一撃で息の根を止められたようだ。転がった錦織は、罵り声を上げてから起き上がった。肩を痛そうにしているが大丈夫そうだ。
一方、残りの二匹と戦っている織部一等陸尉たちは大乱戦となっていた。ちょこまかと走り回る隊員の中で二匹のオーガが巨大な棍棒を振り回している。
やはり再生能力を持つオーガ相手では、普通の剣や槍だと仕留めるのが難しいようだ。折角ダメージを与えても時間が経つと回復しているのだ。しかもオーガは無限の体力を持っているように見える。
疲れた隊員がオーガの攻撃を受け吹き飛ばされる。致命傷を居った者は居ないが、気絶した者が数名居た。
このままでは犠牲者が出るかもしれないと金光一等陸佐は判断を下した。
「倉木、森末、筧。織部たちを援護する」
見ていられなくなった金光一等陸佐が、号令を発した。
倉木三等陸尉と森末陸曹長は<
呪文が完成し、それぞれの魔導印が骨弾に刻まれると金光一等陸佐が命じた。
「オーガから離れろ!」
その声を聞いた隊員たちは反射的にオーガから飛び退く。
「爆炎弾発射!」と金光一等陸佐の声。
倉木三等陸尉と森末陸曹長が同時にパチンコを放った。爆炎弾はオーガの顔に命中し両眼を焼く。二匹のオーガが悲鳴を上げた。
金光一等陸佐が「凍結弾!」と叫んで走り出す。使い始めたばかりのパチンコで命中させるには近付く必要が有ったのだ。
まず筧一等陸曹が凍結弾をオーガの肩に命中させ、その筋肉から熱を奪い血管を凍らせる。続いてもう一匹のオーガに金光一等陸佐が放った凍結弾が命中し棍棒を落とさせる。
金光一等陸佐は確実に命令を実行する三人を見て、よく鍛えられていると感じた。三人を鍛えた伊丹という人物が指導者としても一流だったのが判る。
「倉木、森末、もう一発凍結弾だ。筧は私と一緒に突貫だ」
倉木三等陸尉と森末陸曹長が呪文を唱え凍結弾を放った。二匹のオーガは両腕が使えなくなった。血管や神経が凍結し麻痺しているだけなのでしばらく動かないだけなのだが致命的だ。
筧一等陸曹と金光一等陸佐は<
突き刺した槍を捻って傷口を大きくしてから引き抜いた。二匹のオーガから大量の血が吹き出し、足をよろめかせる。だが、オーガの再生力は
「止めを!」
倉木三等陸尉と森末陸曹長はそれぞれの武器に魔力を流し込む。長柄山刀と山刀鉈の刃に輝きが生じる。オーガに走り寄った二人は首に長柄山刀と山刀鉈を叩き付けた。
オーガの首にそれぞれの刃が食い込んだ途端、オーガの魔力と反応し強化武器に秘められている源紋が力を開放する。刃から衝撃波が放たれ傷口を大きくする。オーガの首は半ばまで断ち切られた。
二匹のオーガは致命傷を受け横倒しになった。それを目撃した隊員たちは声も出ないほど驚いた。
「よくやった」
金光一等陸佐は倉木三等陸尉たちを褒めると他の隊員たちも口々に賞賛する言葉を倉木三等陸尉たちに贈った。
「何か照れるな」
こういう機会が無かった筧一等陸曹は大いに照れ、女性自衛官二人も顔を綻ばせる。
金光一等陸佐は情況を確認した。負傷した者たちが数名いる。すぐさま治療を命じる。
そこに錦織と織部一等陸尉が近付いて来た。錦織が。
「彼女たちの武器は魔導武器なのですか?」
「魔導武器の一種である強化武器だと聞いている」
「強化武器? そんなものをいつの間に」
「何を言っている。この武器を作った職人を紹介したのはあなたですよ」
「ええっ、私が紹介した職人に魔導武器を作れるほどの技量は無かったはず」
「強化武器は魔導核を使わない武器だそうだ。普通の武器職人でも作れると聞いた」
「隊長、そんな武器が手に入るのなら教えて欲しかったですな」
織部一等陸尉が文句を言う。威力の有る武器が手に入らず苦戦した彼らにすれば、正直な気持ちだろう。
「君らは
「それには長い修業が必要です。神紋レベルが5以上になれば可能だそうです。それよりパチンコから繰り出した魔法は『魔力発移の神紋』の応用魔法なのですか」
「そうだ。私も教わったが使い方次第で強力な武器となる。それはどの神紋も同じだろう」
「隊長は知っていたので『魔力発移の神紋』を選んだのですな」
「もちろんだ。君らが何故『魔力発移の神紋』を軽く見るのか理解出来なかったが、今日使った応用魔法は知られていないのか?」
錦織が頷く。
「私も初めて見ました」
金光一等陸佐が説明を求めるような視線を倉木三等陸尉に向けた。
「『魔力発移の神紋』の応用魔法は案内人のミコトさんとある研究者が共同で作り上げた新しいものだそうです」
「ほう、新しい応用魔法を作るとは凄い才能だ」
この時を境にミコトは自衛隊から注目され、彼らからの依頼が多く来るようになった。
オーガからの剥ぎ取りが終わり、治療も済ませた偵察部隊はベースキャンプとなるポイントを目指して移動を開始する。
この一件で倉木三等陸尉たちを見る他の隊員たちの目が変わった。今までは単なる通訳だと思われていたのが、戦力となる一人前の仲間として扱われるようになる。
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