第142話 偵察部隊の戦い 2

 翌朝、金光一等陸佐は倉木三等陸尉たちと一緒に樹海へ狩りに出た。金光一等陸佐の得物はショートソードでウキウキした感じで歩いている。


 一方、倉木三等陸尉たちはどういう訓練をするか未だに迷っていた。

「俺たちがやらされた伊丹流のやり方でやるしかない」

 筧一等陸曹は過酷な訓練を思い出し身震いする。


「しかし、相手は一等陸佐だよ。機嫌を損ねたらまずいんじゃない」

 森末陸曹長が反対する。それを聞いた倉木三等陸尉が。

「ちょっと声が大きい。隊長に聞こえる」


「おい、君たちが耐えた訓練だろ。私に耐えられないはずがないだろ」

 やっぱり聞こえていたらしく、金光一等陸佐が睨みながら告げた。

「厳しい訓練になりますが、よろしいですか?」

 金光一等陸佐が大きく頷いた。


 四人はゴブリンとよく遭遇すると聞いた樹海の浅い部分に分け入った。すぐにゴブリン二匹と出会でくわす。

「隊長、一匹は我々が始末しますから、もう一匹を倒して下さい」

 倉木三等陸尉が指示する。そこに森末陸曹長が急いで付け足す。

「ゴブリンは小柄ですけど、力が強いので気を付けて下さい」

「判った」


 まず、筧一等陸曹が前に出て先頭のゴブリンと戦い始める。もう一匹は警戒しながらも金光一等陸佐の前に来た。金光一等陸佐はショートソードを抜き構える。その背後にはいつでも飛び出せるように女性自衛官二人が待機している。


 ゴブリンなど雑魚だと聞いている金光一等陸佐は、ゴブリンとの戦闘を気楽に考えていた。だが、いざ戦い始めると思っていた以上にゴブリンが強敵なのに気付いた。


 相手にしたゴブリンは棍棒を持ち威嚇するように唸り声を上げていた。その眼は殺気を放ち、振り回す棍棒からは風を切り裂く音が聞こえる。


 ゴブリンが振り被った棍棒を腹目掛け振る。

「うおっ」

 金光一等陸佐はショートソードで受け止めるが、ゴブリンの力に少し押された。若い頃少し粋がってヤンキー仲間と遊んでいた時代のある金光一等陸佐はとっさに地が出てしまう。

「クソッ、本当に力が強えじゃねえか」


 棍棒の攻撃をショートソードで受け止めている上司に、倉木三等陸尉が駄目出しをする。

「棍棒は躱すか受け流して下さい。まともに受け止めると刃が欠けます」


 その頃には筧一等陸曹とゴブリンの戦いは終わっていた。倉木三等陸尉たちが見守る中で、金光一等陸佐とゴブリンの攻防は続いた。


「ハアハア……こいつはきついぜ」

 倉木三等陸尉がアドバイスをする。

「敵の動きをよく見て、剣道の試合だと思って下さい」


 少し冷静になった金光一等陸佐は、ゴブリンの隙を見付け棍棒が空振りした瞬間、敵の脇腹に突きを入れた。ゴブリンの手から棍棒が落ち地面に蹲る。

「止めを!」

 ショートソードがゴブリンの首を切り裂いた。


 血を流して倒れたゴブリンを見て、金光一等陸佐は少し距離を取ろうとする。

「死んでいます。近付いて放たれる魔粒子を受けて下さい」


 肩で息をする金光一等陸佐は初めて倒した魔物を見詰め、しばらくの間口を開かなかった。

 倉木三等陸尉たちは自分たちも経験した事なので落ち着くのを待つ。


「副隊長が私を訓練に参加させたがらない理由が判った。ゴブリン相手にこれじゃあな」

「初めは皆、こんなものですよ」

 森末陸曹長が慰めの言葉を口にする。それを聞いた筧一等陸曹がプッと吹き出して笑う。


「何で笑うんですか?」

「だって、森末はミコトの竜爪鉈を使ってゴブリンを真っ二つにしていたじゃないか?」

「クッ、心の中では葛藤が有ったんです」


「その竜爪鉈と言うのは何だ?」

 金光一等陸佐が尋ねると森末陸曹長が答えた。

「我々の訓練を引き受けた案内人さんが使っていた武器で、ワイバーンの爪から作られた鉈です。切れ味が凄くて鎧豚も一撃です」


「こっちの案内人が持ってた紅炎剣より凄いのか?」

「切れ味だけなら竜爪鉈が上だと思いますけど、紅炎剣は魔導剣ですからね。きっと炎とかが、ぶわっと出るんじゃないですか」


 金光一等陸佐はショートソードを確かめ、刃が少し欠けているのを見付けた。

「私もそんな武器が欲しいよ」


 倉木三等陸尉たちがゴブリンから魔晶管を剥ぎ取っている間、金光一等陸佐には休んで貰い。次の獲物を探す。午前中に四回魔物と遭遇した。ゴブリンが二回、森林狼一回、跳兎が一回である。


 それら全てを倒した昼頃、街に戻った。金光一等陸佐はヘロヘロになっていた。

「さすがに疲れたぞ。午後からどうする?」


 金光一等陸佐は午後から何をやらされるのだろうとちょっとだけ不安になっていた。体力には自信があったが、四〇歳を超えた男に四連戦はきつすぎた。


 午後は魔導寺院へ行く、この国の魔導寺院もマウセリア王国のものとほとんど変わらなかった。金光一等陸佐は『魔力袋の神紋』を手に入れた。その衝撃でボーッとしているが、少しだけ休んでから、今度は槍トカゲのいる東の川へ向かう。


 向かっている途中も初めて体験した魔法の所為で金光一等陸佐の足取りは覚束ない。ぶつぶつ文句を言いながら重い足を動かしていた。

「もう少し休憩させて欲しかったよ」


 川の流れが大きく曲がっている場所に砂場があり、そこに多くの槍トカゲが居た。早速、金光一等陸佐を除く三人で槍トカゲを仕留めていく。


 金光一等陸佐は槍のようにビュッと伸びて来る舌に驚いたようで、眼を丸くしている。倉木三等陸尉はショートソードで槍トカゲの首を切り裂き、森末陸曹長は鉈で背骨を絶ち、筧一等陸曹は短槍で心臓を一突きにする。


 三人が次々に槍トカゲを仕留める傍に金光一等陸佐は呆然として立っていた。三人の動きが常人とは思えないほど速く鋭かったからだ。


「よっぽど鍛えられたのだな」

 死んだ槍トカゲから魔粒子が放出される。それは金光一等陸佐の魔導細胞に吸収され、チクチクする感覚を味わった。


 合計で九匹を仕留め、魔晶管と舌肉、腹側の肉を剥ぎ取り街に持って帰った。午後の獲物に槍トカゲを選んだのは、その舌の皮を鞣しパチンコを作成する為である。


 案内人の錦織に頼んで職人を紹介して貰い、パチンコを製作してくれるよう頼んだ。筧一等陸曹は趣味で狩猟もするので、皮の鞣しが一日で終わるものではないと知っていた。だが、異世界では特別な薬剤を使い短時間で終了する。明後日にはパチンコが完成するだろう。


 倉木三等陸尉たちは隊長の訓練の為にゴブリンやコボルトなどを狩りながらも、自分の武器を作成する為に武器となる魔物を狩った。但し大物を狩る場合、金光一等陸佐は後方で待機となる。


 山刀甲虫と一角水牛を倒した時は、出来上がったばかりのパチンコを使って氷結弾や爆炎弾を大量にばら撒き仕留めた。これには金光一等陸佐も驚いた。


「おいおい、大した威力じゃないか。私にも教えてくれ」

 訓練五日目でやっとコボルトを倒せるようになった金光一等陸佐は、『魔力発移の神紋』を取得可能になり、迷わず取得した。


 他の自衛官たちは『躯力強化くりょくきょうかの神紋』を手に入れた者が多かった。他に『魔導眼の神紋』や『疾風術の神紋』を取得した者がいる。


 金光一等陸佐が『魔力発移の神紋』を取得すると聞いて、織部一等陸尉が『躯力強化くりょくきょうかの神紋』の方がいいと言い出したが、結局『魔力発移の神紋』を授かった。

 倉木三等陸尉は知っている応用魔法を隊長に教え、訓練期間が終了した。


 『魔力発移の神紋』の応用魔法については、ミコトたちと自衛隊の間で契約しており、自由に教えても良いらしい。自衛隊でも応用魔法の有用性を認める者がいるのだ。


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