第138話 巨大蟹と犬人族
「ザブロブ、任せるからな」
「はい、ミコト様」
巨大蟹はザブロブの側面に回り込もうと移動する。巨大なハサミを、バチッバチッと鳴らし振り上げ襲って来た。ザブロブは素早く攻撃を躱し剛雷槌槍を突き出す。ガッと音がして甲羅に弾かれた。単純な突きでは堅い甲羅は破れない。
巨大蟹は続け様にハサミを振り回し攻撃してくる。ザブロブは俊敏な動きで尽く避けるが、勢いのある巨大なハサミは地面に突き刺さり砂塵を舞い上げる。当たれば致命傷を負いかねない威力である。
ザブロブは冷静に動き回り巨大蟹の行動パターンを見抜こうとしているようだ。
「見切った」
初めて剛雷槌槍の魔導核に触れ魔力を流し込む。巨大蟹がハサミを振り上げようとした瞬間、『雷発の鎚』をカニの頭に叩き付けた。バチッと火花が弾け巨大蟹の動きがおかしくなった。
泡を吹き始めた巨大蟹に剛雷槌槍を構えたザブロブが渾身の突きを入れた。堅い甲羅に『剛突の槍』が突き刺さる。『剛突の槍』の魔法効果が持続するのは一〇秒ほど、カニの急所など知らないザブロブは連続して三回突きを入れた。
巨大蟹がガクッと崩れるように地面に
「よくやった。ザブロブ」
里長のムジェックが若いザブロブを
将来的には犬人族の数を一〇〇〇人ほどに増やし、ザブロブのように戦える戦士を二〇〇名ほど揃えれば、王国側でも無視出来ない勢力となる。
一旦エヴァソン遺跡の所有権を認めて貰えたとしても、塩田開発や他の特産物が産出されるようになれば、そこから手に入る金に群がる者たちが必ず出て来るだろうと予測していた。
その時には、エヴァソン遺跡に手を出すと酷い目に遭うと知らしめるだけの戦力を早い内に用意しておこうと考える。
「丁度いい。こいつを昼飯にしよう」
俺は<
「初めて食べますがカニというのは美味いものなのですな」
ムジェックが呟き、周りの犬人族も同意するように笑顔を浮かべる。犬人族は樹海に住んでいたので海の食べ物はほとんど馴染みがないようだ。
犬人族には漁を教えようか。異世界の海にも鯛や鰤に似た魚がいるかも。鯛めしとブリ大根が好きな俺は期待に胸を膨らませる。
それはさておき、作業している犬人族を守る為には石垣が必要だ。ここの作業は犬人族に任せ、石垣に使う石を取りに行こうと考えた。ムジェックに後を頼んで海岸線を南下する。
石が取れる場所は常世の森近くに在る岩場と海岸線を南下した場所にある岩山だ。俺は岩山を一度詳しく調べてみたいと思っていた。この岩山を通り抜けられれば、迷宮都市への近道になるからだ。
海を見ながら南下し、この前発見した旧エヴァソン遺跡の所まで辿り着いた。中を詳しく調査したいと言う好奇心が湧き起こるが、今日の目的は別なので素通りする。それから一時間ほど歩いて岩山に到着した。
岩山自体はそれほど大きくはなかった。高さは五〇メートルほどで切り立った山の形が人の侵入を阻んでいた。
俺は<
「上手くすると迷宮都市の方へ抜けられる道が作れるな。……しかし、岩を切るのは可能でも切り出した石を排除する方法が問題だな」
今回切り出した石のブロックは<圧縮結界>を使って縮小し運ぶつもりだが、<圧縮結界>は魔力を馬鹿食いするので何度も使えない。
<
「魔力回復系魔法薬を買うか。下級じゃ回復量が少ないから中級だと一瓶銀貨一〇枚か……材料を自分で集めてトリチルに頼んで作って貰おう」
その一ヶ月後に、岩山の抜け道が完成する。この作業の為に<
それと同時に石のブロックが大量に手に入り、塩田作りやエヴァソン遺跡の修復に役立った。
その日、石のブロック三つを<圧縮結界>を使って塩田まで運んだ。戻ってみると二区画分が整地され、粘土が敷き詰められていた。
思っていた以上に早い。犬人族の身体能力は予想以上だったらしい。
「ご苦労さん。今日はこの辺で終わりにしてくれ」
犬人族を帰らせると石垣作りを始めた。と言っても、運んで来た石のブロック三つを元の大きさに戻して並べただけだ。それだけで十五メートルの石垣が出来るのだから土建会社もびっくりである。
「身体がだるい。魔力切れ寸前だな」
重い身体を引き摺るようにしてエヴァソン遺跡まで戻った。リカヤたちは大漁だった烏賊を<
「大漁だったようだな」
声を掛けるとリカヤたちが嬉しそうに頷いた。
「ミコト様、塩田作りは大変にゃのでしゅか?」
ミリアが尋ねた。俺は頭を掻きながら。
「まあね。初めて作るものだからな。大変なのはしょうがない」
ルキが俺の顔を見上げ。
「ルキ、お手伝いしゅりゅよ」
「ルキちゃんが手伝うなら、あたしも手伝う」
オリガも声を上げる。嬉しい申し出だったが、「大丈夫だよ」と言っておいた。
「ミコト様、本当にお手伝いが必要にゃら言って下さい。あたしたち、手伝うから」
リカヤが申し出てくれた。躊躇ったが好意に甘える事にして、中級
中級
「趙悠館で中級
ミリアのパーティで唯一の男であるマポスは驚いた。趙悠館の薬房で魔法薬を作っているのは知っていたが、一番簡単な治癒系魔法薬だけだと思っていたのだ。
「何、驚いているんだ。児島さんの指の再生に使っている再生薬だって趙悠館製だぞ」
「他の魔法薬工房から買って来てるんだと思ってた。始めたばかりにゃのに、凄いんだな」
マポスが勘違いしていたのも無理はなかった。高度な技術が必要となる魔法薬作りは、下級治癒系魔法薬から始め少しずつ技術を蓄積していくものだからだ。
もちろん、他の工房で修行していたのなら別だが、マッチョ宮田や鼻デカ神田から魔法薬作りは初めてだと聞いていた。
「趙悠館で作る魔法薬は効き目が高いって評判にゃのよ」
趙悠館の薬房を少し手伝った事の有るネリが誇らしげに告げた。
「だったら、薬房の魔法薬を買うから、少し安くしてくれよ。いいだろ、ミコト様」
マポスが調子のいいお願いをする。俺は少しだけ値引きすると言ってやった。
ネリが言ったように趙悠館の二人の医師が作る魔法薬は効き目が高く、迷宮都市では評判になり始めていた。
そのお陰で、治療院や街の薬屋からの注文が増え、薬師見習いトリチルだけでは手が足りず、臨時でネリなどの猫人族や貧民街の女性を雇った。
その中で才能の有りそうな少女三人を正式に雇ってくれとマッチョ宮田に頼まれている。俺としては雇うのに反対はないんだが、可愛い子ばかり三人選んだマッチョ宮田の人選基準に疑問を持った。
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