第131話 巨木の森で魔物狩り
パチンコに対して危険な玩具くらいの認識だった倉木三等陸尉たちは、その威力に驚いた。
「この威力、小型の拳銃に匹敵するんじゃない」
森末陸曹長が呟くように言うと、倉木三等陸尉と筧一等陸曹が頷いた。
撃ち漏らし近付いて来たゴブリンは、リカヤが『剛突の槍』の原型である『剛爪槍』で胸に穴を開け、マポスが強化海軍刀で首を刎ねる。最後に残った一匹は逃げようとしたが、ネリがパチンコを取り出して後頭部を射抜いた。
『剛爪槍』は『剛突の槍』と同じくバジリスクの爪に秘められている『剛突』の源紋がコピーされている強化武器である。魔導武器である剛雷槌槍とは違い魔導核が組み込まれていないが、自分で魔力を流し込めるリカヤたちにとっては頼りになる武器だ。
ミコトが<
だが、その槍は耐久性が無く使っているうちに刃毀れ酷くなり使い物にならなくなった。その槍を『剛突の槍』と呼んでいたが、失敗作なので廃棄し『剛突の槍』の名前も剛雷槌槍の一部である槍部分の名前に使うようになった。
その失敗を元にして作られたのが『剛爪槍』で四等級のミスリル合金製である。強化武器は四等級以上のミスリル合金を使わないと脆くなると判ったのはいい経験になったとカリス親方が言っていた。
「マポス、そろそろ強化海軍刀は寿命じゃにゃいのか」
リカヤが心配そうに言う。マポスが使っている強化海軍刀は廃棄した槍と同じ素材で作られており、いつ折れてもおかしくない。それを知りながらマポスは使い続けていた。余程気に入っているらしい。
「折れるまで使うよ。勿体にゃいだろ」
「戦闘中に折れたらどうする。危険じゃにゃいか」
リカヤの指摘はもっともなのだが、マポスは背中に背負ったもう一本の剣を示した。
「予備が有るから大丈夫だ」と
そのとぼけた言葉に伊丹は苦笑する。戦いの最中に武器が折れる事は珍しくない。予備が有るので問題ないと言えるが、折れる危険性が有るのを知っていて使い続けるのは馬鹿だ。
巨木の森にいる魔物は昆虫型魔物やホブゴブリン、サーベルバードなどだ。折れるとしたら昆虫型魔物と戦っている時だろう。あいつらは素早くないので予備の剣を抜く時間はある。
巨木の森が見えて来た。森の樹々の中に飛び抜けて高い木が数十本も見える。通常の樹木は高さは一〇メートルくらいが精々だが、その森には五〇メートルクラスの樹木が数多く有った。
森には山羊に似た野生動物の群れが居た。その山羊たちが下草を食べるからだろうか、森は割りと歩き易すそうだ。
森に入ってすぐ、ホブゴブリンの集団と遭遇した。発見したのは両者同時だったが、敵の中にホブゴブリンメイジが二匹居て、先制攻撃とばかりに火球と風刃を飛ばして来る。
この攻撃に驚いたのは筧一等陸曹たちである。初めて経験した魔法による攻撃に自衛官三人は慌てる。
三人の自衛官には、火球は見えても風刃は見えなかった。だから火球から逃れようと移動を開始するが、運悪く森末陸曹長が逃げた場所目掛けて風刃が飛翔して来る。
歴戦の武人である伊丹は、風刃を眼で捉えられなくとも気配を捉えていた。逸早く森末陸曹長の危機に気付く。
その時点では森末陸曹長は気付いていない。伊丹はとっさに腰に差している疾翔剣を抜き魔力を込めてから振る。その斬線に沿って魔力の刃が形成され風刃に向かって飛ぶ。
疾翔剣はスケルトン神殿騎士が持っていた魔導剣を改修して出来上がった剣で、長さが脇差しほどとなっていた。とは言え疾翔剣に秘められている『飛翔刃』の源紋は健在で伊丹の魔力に反応し飛翔刃を飛ばす。
森末陸曹長の目の前で、飛翔刃が風刃を消し飛ばし奥に有った木を切断した。直径三〇センチほどある木の幹がズズッと斜めにずれ大きな音を立てて地面に倒れた。
「うわっ、何で木が……」
森末陸曹長が目を白黒させている。
「魔法でござる。魔法は目に見えるものだけではござらんぞ」
伊丹がパチンコで攻撃するよう指示を出すとホブゴブリンたちが一匹二匹と倒れる。その時、リカヤたちが戦闘に加わり、あっという間にホブゴブリンを打ち倒す。
死んだホブゴブリンたちが魔粒子を放ち始め、それを全員が吸収する。リカヤたちが伊丹が切断した木に集まり、その切り口を調べガヤガヤと話し始める。
「これ、伊丹師匠が切ったんだよね」
伊丹が疾翔剣を抜いたのを見たマポスが眼をキラキラさせながら尋ねる。
「ミコト殿から頂いた疾翔剣の能力を使ったのでござる」
「いいにゃ、オイラも欲しいにゃ」
マポスは厳しい鍛錬と実戦に依って、考えなしに行動する癖もちょっとだけ直り二回に一回は考えてから行動するようになっていた。
五割じゃ駄目でござるな。疾翔剣は危険な武器だ。今のマポスには危なくて持たせられぬ。ミコトとカリス親方は疾翔剣と同じものが作れないか研究しておるが、それが実現したとしても……。
倒れたホブゴブリンから魔晶管を剥ぎ取るとメイジの魔晶管から魔晶玉が出て来た。
「ヨシ、こうでにゃくちゃ」
リカヤが嬉しそうに魔晶玉を仕舞う。三人の自衛官は初めて経験した魔法を使った戦闘に興奮しているようだ。伊丹は魔法に対する戦い方を説明し冷静に対処するように指導する。
指導が終わり、伊丹たちはサーベルバードを求め森の奥へと進んだ。
◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆
太守館から戻って来た俺は、ピアニストの児島に捕まった。
「君、アカネにも話したんだが、この世界の音楽を聞きたいんだ」
俺はアカネから、音楽について尋ねられたのを思い出した。しかし、この迷宮都市は芸術的なものから縁遠い場所なのだ。
酒場で吟遊詩人的な人が竪琴を鳴らし英雄譚のようなものを歌っているのは知っているが、それを音楽として児島が認めてくれるかどうか疑わしい。
ディンにも尋ねてみたが、王都になら音楽家と呼ばれる人々が居て竪琴やバイオリン、ピアノみたいなものを演奏しているらしい。だが、迷宮都市には音楽家は居ないと言っていた。俺はそのまま児島に伝える。
「う~ん、居ないのか。だったら、ピアノは有るのか?」
俺は中古屋でピアノに似たものを見た記憶が在った。どうやら貴族の誰かが持ち込んだものを中古屋に売ったらしい。
「手に入れてくれ。私にはどうしても音楽が必要なんだ」
この世界のピアノとリアルワールドのピアノは同一のものでないと説明する。
「構わない。音が出ればなんとかする」
あまりにも懸命に頼むので根負けした。俺は児島と一緒に中古屋に出かけ、売っているピアノらしきものを調べた。
「原理的にはピアノと一緒だ。鍵盤を押すとハンマーが動き、中に張られた弦を叩いて音を出している。だが、モーツァルト……いや、バッハが使っていたピアノと同等かそれ以下のものだ」
児島が鍵盤を叩き音を出す。中古の調理道具や工具などが並べられている中古屋に、ピアノらしい音色が響き渡る。
バッハか、十八世紀頃の人だろ。そんな古臭いピアノじゃ駄目か。
「こいつが欲しい」
児島の音楽に対する情熱に負け、ピアノを買った。もちろん、そのままでは使い難いので木工工房で改造して貰う。鍵盤の並びをリアルワールドのピアノに合わせて改造したのだ。白い鍵盤と黒い鍵盤が並ぶ見慣れたピアノに改造するよう注文する。
調律は児島自身が行うと言う。リアルワールドのピアノに合わせて行うのだろう。
その後、モルガート王子に贈る魔導武器の製作で手が離せなくなり、アカネへ任せてしまったが、驚く事に、児島は異世界でピアノを作り上げてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます