第19話 登録証更新
街に戻る途中、少しだけ魔力が回復したので魔法の水を作り、土埃で真っ白になっている頭と顔を洗う。屋台で夕食を済ませ、宿に戻りあらためて水浴びをした。着替えて部屋に戻ると寝台に横たわった。はあっ、疲れた。
魔力の使い過ぎで体が怠い、疲れているはずなのに寝付けない。原因は分かっている。魔法爆弾の危険性に気付いたからだ。もし投げる時の衝撃でガラスが割れ爆発していたらと考えるとゾッとする。
<缶爆>は危険な魔法だと気付いたのだ。
何で、あんな魔法に夢中になったんだろう。やっぱり攻撃魔法というのに憧れたのか。あの魔法は封印しようか、いや、混合気体の量を爆竹並みにして使おう。使い道は有るはずだ。
翌日、ハンターギルドへ行く。依頼票ボードの前にカルバートとキセラの姿があった。カルバートの様子を見ると怪我の影響は感じられず絶好調のようだ。
「身体は回復したのか?」
カルバートが明るく笑って、
「当たり前だ、借金が有るのに寝ていられるか」
そうだ、治療費を立て替えているんだった。大金が手に入ったので忘れていた。
「金は何時でもいい。無理するな」
「ミコトさん、ありがとうございます」
キセラが礼を言う。―――チッ、夫婦みたいじゃないか。
「俺たちが家にいる間、ミコトは何をしてたんだ」
槍トカゲの特異体については言わない方がいいだろう。変に広まってやっかみを受けるのは御免だ。
「双剣鹿狩りをしていた」
「いいね。今日も双剣鹿を狩りに行こうぜ」
双剣鹿狩りで怪我をしたカルバートが明るく言う。あのくらいの怪我ではトラウマとかにはならないようだ。異世界人は逞しい。
「ああ、いい依頼が無ければな」
依頼票をチェックする。特異体の依頼票は消えていた。
「岩甲蛙皮の採取に、戦争蟻の外殻採取か。……報酬はなかなかだけど、あの地域にはオークが居るからな」
「私たちには、まだオークは厳しいよ」
「そうだな。双剣鹿にしよう」
オークより強い戦争蟻という選択は、俺たちの頭の中に無かった。外に出る前にドルジ親方の工房へ寄る。
パチンコとホーンスピアを受け取るためだ。南門近くの工房に入ると親方が居た。親方は俺の顔を見ると「待ってろ」と言って奥へ消える。
再び現れた時には、手に槍とパチンコ、袋が有った。礼を言って受け取り確認する。ホーンスピアは刃の部分と柄との接合部分に工夫がしてあり、三箇所をネジ止めする事で固定されている。
さすが本職の作だけあってバランスもいい。パチンコは握りを太くし滑り止めの山羊革が巻かれている。二股に分かれた部分は繊細な湾曲を描き美しい。
素材は魔導伝導率の高い素材が使用され魔力を流し易いように作られている。俺が命名した魔導ゴムは、特異体の槍舌皮を鞣した物が使われ、弾をセットする部分は頑丈な特異体の革が使われている。
試しに魔力を流し込むと魔導ゴムがすんなりと伸びる。
『バチッ!』
魔力を止めた途端、凄まじい勢いで魔導ゴムが元の長さに戻った。
「なかなかの威力だ」
ドルジ親方がニヤリと笑う。最後に残った袋を俺に渡す。ズシリと重い。
「替えの魔導ゴム三十二本と鉛玉三十個だ」
鉛玉はパチンコ玉サイズが二十個、直径二センチの大玉が一〇個である。袋の中には鉛玉を作る型が入っており、鉛さえ有れば自作出来るようにという親方の心配りだ。
親方に言われてパチンコの試し打ちをする。標的は工房の奥に積まれている丸太だ。五〇センチほどの丸太が年輪をこちらに向け置かれていた。
一〇メートルの距離から狙いを付け鉛玉を放つ。空気を切り裂きパチンコ玉サイズの鉛玉が飛び、鈍い音を響かせ年輪に減り込んだ。減り込んだ鉛玉をナイフで穿り出すと変形していた。
「鹿の頭蓋骨くらいなら穴を開けられる威力だな」
親方が威力を保証してくれる。弓ほどの射程距離はないが、威力はそこそこ有るようだ。
「いいな、それ」
カルバートが物欲しそうに見ている。
あげないぞ。そもそも魔力の制御が出来ないだろう。カルバートに魔力の事を言った。
「調息と魔力の流れだろ。ちょっと出来るようになったんだ」
「な、何だと!」
俺は驚いた。こんな短期間で出来るはずがない。
「本当に出来るらしいの。カルは才能が有るみたい」
キセラが保証する。試しにパチンコを撃たせてみた。問題なく魔導ゴムを引き絞り鉛玉を丸太に命中させる。
クッ、このチート野郎め。キセラも一緒に練習したようだが、この時点では上手くいかないようだ。
「手作りのパチンコで我慢するんだな。魔導ゴムは快気祝いに提供するから」
「本当か、ミコト」
カルバートが満面の笑みで喜んだ。
親方に鎧の進捗を訊くと。
「もう少し時間が掛かりそうだ。思っていた以上に革が硬いらしい。その分上質の革鎧に仕上がりそうだとクルツが言っとった。三日後くらいにまた来い」
俺は親方に礼を言って工房を出た。ギルドで借りた荷車を引いて南門から外へ出る。双剣鹿のテリトリーへ行く途中、長爪狼に襲われた。
四匹の群れの二匹を俺、後の一匹ずつをカルバートとキセラが仕留めた。カルバートはショートソードではなく、俺のホーンスピアを使って仕留めている。
「このホーンスピアもいいな。魔力を込めると貫通力が増すようだ」
カルバート、何でも欲しがっちゃ駄目だぞ。
「欲しいなら、金貯めてドルジ親方に作って貰うんだな。それから長爪狼程度に魔力は使うな。双剣鹿を見つけた時に魔力切れとか言ったら怒るぞ」
「そうだな」
カルバートが照れ笑いする。魔力の制御が出来るようになった事で少し浮かれていたようだ。
「カル、あれ!」
キセラが何かを見つけたようだ。指差す方を見ても何も居ない。カルバートも見付けられないようだ。
「よく見て」
ジッと目を凝らす。……あっ、動いた。緑狐だ、二〇メートルほど離れている。よく見付けられたな。
パチンコに鉛玉をセットし引き絞る。慎重に狙い付けて放つ。鉛玉は緑狐の胸に減り込み、血を吐いて倒れた。俺たちは素早く駆け寄り止めを刺す。
「カル、剥ぎ取りを」
「任せろ」
カルバートが器用に毛皮を剥ぎ取り、次に魔晶管を取り出す。
近くで見ると緑の毛皮は綺麗だった。手触りも良く、貴族の奥方に人気なのも納得する。
「この調子で行こう」
その後、三頭の双剣鹿を仕留めた。もちろんパチンコを使ってだ。二頭は俺が仕留め、一頭はカルバートが仕留める。街に戻る途中、スライムの群れに遭遇したが、ホーンスピアを手にしたキセラによって、無双され殲滅する。
「これ良いですね。私もお金を貯めて作って貰おうかな」
ギルドに戻って精算する。総額銀貨三枚と銅貨九〇枚になる。三等分しようとしたら、治療費だと言われ、銅貨三〇枚ずつしか受け取らない。
「そんなに急いで返す必要ないのに」
「駄目ですよ。お金はキチンとしなきゃ。残り銅貨三〇枚は早めに返します」
しっかり者のキセラが言う。カルバートが後ろで頷いていた。
「分かった。明日も一緒に狩りに行こう」
俺は二人と別れてから、ギルドの受付に向かい、登録証の更新を依頼する。ランクが上がった訳ではないのだが、筋力、持久力、魔力、俊敏性などの基本評価と魔力変現が気になるのだ。
測定の結果、登録証が更新された。
【ハンターギルド登録証】
ミコト・キジマ ハンターギルド・ウェルデア支部所属
採取・討伐要員 ランク:序二段
<基本評価>筋力:10 持久力:8 魔力:12 俊敏性:9
<武技>鉈術:2 槍術:1
<魔法>魔力袋:2 魔力変現:2
<特記事項>特に無し
基本はどれも上がり、特に魔力が随分上がっている。驚いた事に、魔力袋と魔力変現がレベル2となっている。これで付加神紋術式を利用出来る。
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