第7話 魔導寺院

 街に戻った俺は、ギルドで薬草を換金し銅貨十六枚を得た。中央広場の屋台でリンゴのような果物を二個買って食べる。値段は小粒二枚、リンゴモドキ一個が小粒一枚なのは安い。その足で魔導寺院まで行った。


 魔導寺院は中央広場を挟んでハンターギルドの反対側に在った。石造りの平屋だが天井が高い。アーチ型の門は寺院というより教会を思い出させる。玄関ホールでは、魔導師ギルドの職員が案内をしていた。


「この寺院には、神紋の間と呼ばれる部屋が、九部屋有り。それぞれの部屋には神々の加護を得る為の神紋付与陣が壁に刻まれております。魔法を得たい方は、神紋の間を使用する権利を購入して下さい。使用権は時間制です。金と交換に渡された蝋燭ろうそくが燃え尽きるまで使用できます」


 中央の廊下に閉ざされた扉が並んでいる。扉には加護を受ける神の名前が書かれていた。一番手前の扉には、大地の下級神バウルと書かれていた。


 職員の説明が続いている。

「料金についてですが、大地の下級神バウルは銀貨二枚、風の下級神ボウアは……」

 それを聞いていた俺は、怒りが込み上げる。世の中すべて金か、そんなに貧乏人いじめて楽しいんか! 


 勘弁してくれ、と溜息が出た。見習い卒業に必要な大地の下級神バウルの神紋を受けるのに銀貨二枚が必要だと知り動揺したのだ。


 銀貨二枚、銅貨なら二〇〇枚、今日の稼ぎは銅貨十六枚、宿代と食事代を引くと銅貨五、六枚しか残らない。着替えの服も必要だし、塩も買い足したい。

「どう考えても赤字だ。収入を増やすか、支出を削るかしないと」


 寺院の壁に説明書きが在ったので詳しく調べてみる。魔法とは魔力と神の言葉で書かれた神紋により現世の理を変化させイメージした現象を現出させる技であると書かれている。


 神紋には第一階梯から第四階梯まであり、階梯が上がるにつれ強力な魔法となるらしい。

 魔法は根源魔導と諸元魔術に大別され、根源魔導は創世神ゴゼバルメスがこの世界バルメイトを去る時に残していった『創世の神紋』を他の神々が分割し個別の神紋術式として作り上げた神紋による魔法、諸元魔術は諸元を司る神々が根源魔導を元に作り上げた神紋による魔法だと記述されていた。


 俺はウェルデアの魔導寺院で加護を受けられる神紋を調べた。神紋の種類は第一階梯と第二階梯の神紋に限られるようだ。


【加護神紋】

・魔力袋……第一階梯神紋:大地の下級神バウルの神紋=>体内に魔力を蓄える神紋

・魔力変現…第一階梯神紋:天空の下級神ミトアの神紋=>魔力を魔系元素に変換する神紋

・灯火術……第一階梯神紋:火の下級神ウトラの神紋=>第一階梯魔力を火に変え操る神紋

・湧水術……第一階梯神紋:水の下級神システアの神紋=>第一階梯魔力を水に変え操る神紋

・土砂導術…第一階梯神紋:土の下級神バダの神紋=>第一階梯魔力により土や砂を移動させる神紋

・疾風術……第一階梯神紋:風の下級神フィオルの神紋=>第一階梯魔力により風を起こす神紋

・魔力発移…第二階梯神紋:大海の下級神シルベリアの神紋=>魔力を体外へ放出する神紋

・紅炎爆火…第二階梯神紋:火の中級神ウゴリスの神紋=>火炎の塊を作り出し自在に動かす神紋

・土属投槍…第二階梯神紋:土の中級神バンダルの神紋=>石や金属の槍を作り出し投擲する神紋


 最後に神紋記憶域について書かれていた。加護を受けるには神紋記憶域に空きがある事が必要で、個人により神紋記憶域の大きさが異なるらしい。ある人は三つの神紋を得て満杯となり、別の人は八つの神紋を得ても余裕があるという現象が起こるらしい。


「という事は、慎重に神紋を選ばないと後で後悔するって事か。『魔力袋の神紋』は必須として、『灯火術』『湧水術』『土砂導術』『疾風術』『紅炎爆火』『土属投槍』はゲームで馴染みのある属性魔法に近いのかな。『灯火術』が有れば火起こしには困らなくなるな。でも魔法の火や魔法の水などの魔系元素を創り出す『魔力変現』は万能型の神紋じゃないのか。これが有れば火でも水でも作れるんじゃ」


 確かに『魔力変現の神紋』は、明確なイメージを持つ事で様々な魔系元素を作り出せるが、制御が難しく使いこなしている者は少ないと後で知る。


 俺が悩んでいると案内をしていた魔導師ギルドの職員が声を掛けて来た。四〇過ぎくらいのオッさんで髪の毛と顎鬚が赤い、人の良さそうな人物だ。


「どうかされましたか」

「ああ、加護を受ける神紋は、どんなものがいいか考えていただけだよ」

「そうですか……しかし、誰でも欲しい加護を受けられる訳ではありません。神に認められた者だけが神紋を受けられるのです」

「どういう事?」


 オッさんは、大地の下級神バウルの部屋の前に案内し扉に触れるように指示した。俺は右手を伸ばし扉に触れる。バウル神の名前が記されたプレートが光った。


「『魔力袋の神紋』は大丈夫です。次は『紅炎爆火の神紋』を試してみましょう」

 火の中級神ウゴリスの扉は反応がなかった。


「『紅炎爆火の神紋』は無理だったようです。まあ、若い方は、ほとんど魔力袋しか反応しないようですね。これから色々経験し神に認められるようになるでしょう」


 金が有っても加護は得られないんだ。チェッ、『紅炎爆火の神紋』とか欲しいな。どうやったら神が認めてくれるんだ。俺は魔導師ギルドのオッさんに尋ねた。


「『魔力袋の神紋』を授かってから、魔物を倒し魔力を貯めるのです。そうすれば、神が認めてくれます」


 俺は魔力袋について詳しく訊いてみた。昔は、神の加護により魔力を溜め込む袋が備わると考えられていたらしい。イメージとしては魔物の魔晶管と同じようなものだ。


 だが、近年の研究により筋肉細胞の一部が変化し魔導細胞と呼ばれる組織になると解明された。通常の筋肉細胞より強靭で強力な細胞であり、魔粒子を溜め込む事で益々活性化する。『魔力袋の神紋』を得たばかりの頃は、筋肉組織の0.01%が魔導細胞に変わると統計で分かっている。


 ハンターギルドや魔導師ギルドの正式ギルド員になると魔導細胞の変換割合を調べ、その評価レベルを登録証に記載する。0.1%未満ならレベル1、0.1%以上1%未満ならレベル2、1%以上3%未満ならレベル3という具合である。因みに50%以上が最高評価のレベル9となる。


 『魔力袋の神紋』も得ていないのに、俺は目標レベルをレベル4と決めた。魔導師ギルドの中堅がレベル4だと聞いたからだ。魔導細胞の割合が3%以上、一人前の魔導師に匹敵する魔法を駆使するハンターになりたい。


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