30,どうする?

 いくら俺達三人がいるからと言っても、汐莉と問題の箱を両方守るのは無理がある。

 そう思った俺達は、汐莉の家で保管していた箱を俺の家へ持ち込み隠す事にした。とは言っても、もちろん父さんやラグナロクの奴らには気づかれないようにだけど。

 本当、隠すのは正直大変だったよ。

 家に帰ればみんなが勉強はいいのかって騒ぐし、いや確かに三日くらい前勉強のために万事屋の手伝いができないとは言ったけどさ。

 なにはともあれなんとか父さんに気づかれる前に部屋にある勉強机の鍵付き部分に隠した俺は、無事に廃ビル探しへ戻る事ができたというわけだ。

「しかし、こうも多いとは……」

「ご主人、ヘロヘロっスね」

「俺そんなにアウトドア派じゃないし……」

 蒼からの依頼がなければ、今頃家でゆっくりしているよ。

 そうも言ってはいられないからと中を見たビルは、ちょうど七か所目。廃ビルになっているのは確かだったけど、誰もいないビルだった。つまり――

「最後のビルが、アルカディアの潜伏先になっている可能性が高い」

「まぁ、人間移動しようとすればどこでもできるし、その最後の場所にいるかもわからないけどな」

「蒼は話の腰を折るな」

 確かにそうだけどさ!

 肩を落としながら、溜息一つ。蒼の言う通りではあるけど、少しの希望にかけたいから。

「じゃあ、次行く? 私の方もなにもなかったし」

「そうだな……悠人、最後のビルはどの辺だ?」

「えっと、すぐ近くっぽいっスね。この道をまっすぐ行って……」

 悠人に案内されて歩いた先は地図で丸を書いた範囲でもギリギリの場所で、今日回るとしたらここが最後のチャンスだと思う。

「あ、ここの角を曲がった場所っスね……っと、ご主人達、ストップ」

「?」

 目的地を目の前に悠人に押し返され、俺も蒼も汐莉もわけがわからず言われるままにする。

「ゆ、悠人?」

「静かに」

 なにが起こっているのかわからずしばらく押され続け、手前の路地に入ったところで悠人も俺達を押すのをやめた。

「……よし、もう大丈夫っスね」

「なぁ、いったいなにが」

「あのビル、当たりっス」

「っ……!」

「詳しく説明しろ、悠人」

「蒼もそんな怖い顔しないで、ちゃんと説明するっスから」

 ヘラヘラといつも通り笑う悠人は、大通りに誰もこないのを確認しながら口を開いていく。

「そこのビル、入る前からかなりの人数の奴がいたっス。その中に数人だけど見た事がある顔も……間違いでなければ、あいつらアルカディアの奴っス。昔仕事でブッキングした事あったっスから」

「なるほどな……」

 この街で今アルカディアがいるとすれば、それはパンドラの欠片を探してになる。なら、あそこを調べれば今回の事は終わるかもしれない。

「しかし、ここからどうする気だ? 見つけたところで、今の様子だと見張りがいたのだろう」

「まぁ、そうっスね……ざっと見張りは二十人、汐莉を守りながら三人で行くのは少し無謀っス」

 少しというよりかなりだと思うけど。

 悠人の話の通り二十人なら俺と悠人のレコードでなんとかできるかもしれないけど、それだけですむ保証はない。むしろその騒ぎのせいで中から他の奴が出てくるかもしれないし、そうなったら侵入は難しくなると思う。

「どうしよう……」

 最初から八方ふさがりじゃ、どうにもできない。

 打開策を探してみても答えは見つからなくて、小さく唇をかみしめた、その時。


「あのさ、太一くん……ちょっといいかな?」


「ん……?」

 いつも通りの、俺達と比べて緊張感のない汐莉の声が聞こえる。

「ちょっと私に、考えがあるんだけど」

「おとりはなしな」

「もちろんだよ!」

 どうだか、自分からおとりになるなんて言ったからまた言い出しそうだけど。

 そんな俺の心配をよそに、汐莉はどこか楽しそうに頬を緩めていた。


「あのね、悠人くんが少し大変なんだけど――」

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