13,暴力反対!
突然現れたそいつらは、俺達にジリジリと近づいてくる。手に持っているのはどこにでもあるようなバールやバッド、メリケンとかで……いや、全部普通じゃないし危ないよ。
「えっと、これは……」
「まぁ夕方だし、時間帯は話の通りで問題ないだろう」
「いや待て蒼、問題大ありだろ」
そういう事じゃないんだよ、今の状況は。
ぐるりと目線を動かすと、全員が俺達を真っ直ぐに見ていた。明らかに焦点の合っていないその目は、なんだか不気味にも思える。
「例の、商店街にいる半グレ集団っスかね」
「それにしては、量が多いだろ……」
こんな小さな街の半グレ集団だから、そこまで人数はいないと思っていた。けれどもふたを開ければこの人数で、ざっと数えただけで三十人はいる。これ、絶対うちの学区じゃない奴もいる。
「へぇ、こんなガキかよ」
「こそこそかぎまわって、なにが目的だ?」
「なにがって、それは……!」
言えるわけないだろ、自分達はヴィランでその偽者を探していますなんてさ。
どうやって説明しようかと悩んでいると、俺よりも先にずいと蒼が前に出た。
「そちらこそ、敵意のない四人に対してこんな大人数でどんなご用かな?」
「どんな、だぁ?」
「ちょ、蒼!」
頼むから、変に波風を立てるな。
そんな俺の気持ちがここで通用するはずもなくて、蒼の一言は目の前にいる半グレ集団には引き金になったらしい。
「人のシマに土足で踏み込みやがって、痛い目見せてやろうぜ」
「後悔しても知らねぇからな!」
「うわ!?」
そんな言葉と共に、半グレ集団の一人は俺達に向かって拳を振り上げてきた。
「中学生相手に手を上げるなんて、こんな大人にはなりたくないな」
「本当っス!」
蒼が半グレの拳を両手で受け止めるのと悠人が俺の影に潜るの、それからさりげなくライが俺の前に出たのはほぼ同時だった。
「って、ちょっと悠人!?」
「ご主人、申し訳ないけどそのままで!」
どぷん、と低い音を出しながら俺の影に潜り込んだ悠人はそれ以上何も言わず、どうすればいいかわからず動く事ができなかった。
「太一様、お下がりを」
「いや、ライだって戦闘は」
「今の私は普段よりも力が有り余っている容姿なので。それに比べおそらく感情が溜まっていない太一様はひんじゃ……かなり危険です、下がっていてください」
「ライは今俺の事を貧弱って言おうとしたよな? 聞こえたぞ?」
その通りだからなにも言い返せないけどさ。
感情が溜まらないと使えない俺のレコードは、こういった日常の中ではただのポンコツだ。悠人はよく俺の感情が溜まっているのを見計らってくるけど、今はそんな時じゃないから。なにもできないのは自分が一番わかっているし、それが歯がゆくて仕方ない。
「なんだ太一、お前ポンコツなのか?」
「傷をえぐるな」
俺だって気にしているんだよ、話をぶり返すのはやめろ。
「そういう蒼こそ、なんで力任せなんだよ……!」
半グレ集団に自分からは手を出さず正当防衛と言わんばかりに拳を交わしながら蹴りを入れる蒼は、なにも気にしないで見るとヒーローそのものだけどレコードを使う素振りを一切見せていなかった。おまけに蒼には傷一つついていないし、基礎が強すぎる。
「使いたくないし、使っても意味がないからだ」
「意味がないって……」
そこで思い出すのは、この前悠人が言っていたハンドレッドの特徴。いつも力技で解決するから本当のレコードは不明の、謎が多いヒーローって部分。
俺だってちょっとはそのレコードが見えるか期待したけど、この調子だとまたの機会にした方がよさそう。
「それより、狙われているぞ太一」
「狙われて?」
「なんだよこいつら、レコードありかよ!」
「そこの棒立ちならやれそうだ!」
「かかれ!」
「いや、どう聞いても俺じゃん!」
どこからともなく聞こえてきたのは明らかに俺を狙っていて、それを証明するように俺の周りには半グレ集団が集まっていた。
「よお、お坊ちゃま」
「おれ達と遊んでくれるか?」
「その質問に拒否権はなさそうだけど……」
こういうのなんて言うんだっけ、万事休す?
仕方ないと思って手のひらをグーパーさせても感情は出てくる気配もなくて、我ながら情けなく思えた。
「どうしよう……」
ライは俺の事なんか忘れたみたいに半グレ集団を相手しているし、蒼も力技でゴリ押し中。頼みの綱な悠人は、俺の影から戻ってくる気配がない。
勝ち目はないなと思って肩を落とすと、それと同時に気づいたのは目の前の半グレ集団が何やら慌てた様子で俺から意識を外している事。なんだろう、どうしたのだろうか。
「くそ、動けない!」
「なんだよこのお坊ちゃま、なにやりやがった!」
「なにって、俺はなにも……ってあれ?」
ふとそこで、ある場所に目がいく。
半グレ集団ではなくて、その足元。通常ならまっすぐに伸びているそこは、異常な状態になっていた。
こいつらの影の形、全部繋がっているんだ。
「これって、もしかして……」
「にゃあ」
「うわぁ!?」
耳元で突然声がするから肩を揺らすと、俺の影からゆっくりと顔を出した悠人がいて。いや待って、どこかのB級ホラー映画に出てくるお化けみたいに顔を出すのやめて。
「ギリギリだったっスね、ご主人」
「ギリギリって、お前なぁ」
「けど今の驚きで、感情も溜まったのでないっスか?」
「…………」
確かに、溜まったよ――その驚きってのがさ。
「おいなんだよ、身体が動かねぇ!」
「やめろ、離れろって!」
どうやら悠人は影をくっつけたまま出てきたらしく、半グレ集団は大慌て。その隙に手のひらをグーパーさせてみたら……うん、ちゃんと出てくる。
「じゃあ、遠慮なく!」
手のひらを半グレ集団へ向けて、呼吸を一回。
力を込めて、感情の波に沈めて。
右手に現れた黒いそれを見つめながら、俺はニヤリと顔をゆがめる。
「安心しなよ、俺――ヴィランや半グレよりは優しいから」
こんな事を言う時点で、俺も一般人にはほど遠いなって思うけどさ。
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