第14話 後日談
後日談というほどのことでもないが、卒業して半年くらいだったころだったか、たまたま加勢に出くわした。お互い、大学の最寄り駅が同じだったのだ。加勢は駅から五分の一流大学に通っていた。私はというと、そこを通り過ぎてまだまだ歩いたずっと先にある三流大学にかろうじて合格していた。駅の前で見かけた加勢は、外見からして一流大学に通うキラキラした大学生に見えた。一方の自分は最低限の身だしなみしか気にもしないような恰好をしていて妙に恥ずかしくなった。そんな心情でもあったため、気付かぬふりをしようと目を逸らせた時、意外にも加勢の方から声を掛けてきたので、そのまま駅横の喫茶店に入った。
加勢との共通の話題と言えば、当然相馬に関することしかない。今更何を聞いても仕方のないことではあったが、加勢にしても良くわからないことがあったらしく、なんだかお互いの疑問の答え合わせをしているような会話となった。
堀居と相馬はまったくの無関係で、堀居は「しょうま」というアイドルオタクだったらしい。相馬は当時やっぱり心労もあって痩せていたが、今はすっかり健康になりふっくら丸い顔にあの愛嬌のある笑顔を振りまき、女子率の多い医療系専門学校で人気者となっているという。花井はというと、実は相馬のことが好きだったのだと言う。相馬には恋愛対象として見てもらえないとわかっていつつも、切ない片思いを卒業まで貫いたのだそうだ。
「坂田は結局、相馬の事、好きだったの?」
と加勢に聞かれた。
「え・・・うーん。どうだったのかな。」
私は思わず腕組みをして、当時の自分を振り返った。
「ちょっとは、気になってたのかな。あの笑顔は、確かになんかこう、惹かれるものがあった、んだと思うけど。」
加勢は、コーヒーを飲みながら私の回顧を見守る。
「でも、途中からなんか、違う世界の人、みたいに思えて。ま、実際、そうだったんだろうね、あの後、特に何もなかったし。」
私はそう言ってチーズケーキを食べる。
「ふうん。・・・実はさ、相馬もおんなじこと言ってたんだよ。」
加勢はコーヒーカップを丁寧に置きながら
「残念だけど、坂田は自分とは世界が違うって、確かにそう言ってた。」
と言った。私はその言葉の意味を少し考えたが、
「ふうん。ま、縁がなかったってことだね。」
と返した。
「もう、今はぜんぜん?」
「もうとっくに、なんとも思ってない。」
「そう。」
「うん。」
チーズケーキを食べ終えて、私は何気なく補足した。
「お気に入りの本を貸してたでしょ。私としてはすごくドハマりしたの。あれを読んで、もし同じ位にハマってたりしてたら、私も対応が違っていたとは思うよ。」
加勢は微妙に首を傾げて尋ねる。
「違う対応?」
「うん。本のツボが一緒だったとしたら、私から猛アプローチしてたんじゃないかな。」
そう言って残りのコーヒーを飲み干しカップを置くと、加勢が急に顔を近づけて言った。
「じゃあ、試しに今度は俺にその本、貸してみない?」
「ん?いいよ、読んでみる?」
加勢は一瞬戸惑ってから、笑った。
恐らく、初めてみる加勢の可愛い笑顔だった。
「意味、わかってないでしょ。」
と加勢が言った。
・・・何のことだろう。
「意味って、何が?」
私にはさっぱりわからない。何のどこに意味が含まれていたのか?
「じゃ、取りあえず、連絡先交換しよう。本、借りるのに必要でしょ。」
「うん、いいけど。」
連絡先を交換した終えた私は、ふと思い出して忠告した。
「貸すけど、もし一冊目で気に入ったら残りは自分で買ってよ。」
「え、なんで?」
「それは・・・まあ要するに、同じ失敗はしたくない。」
「そう・・・いいよ、わかった。」
結局、加勢に二作目以降を貸すことはなく、加勢が自分で購入することもなかった。
加勢は、時間を作っては私の部屋を訪れて、私のお気に入りの本達を次々に読破している。
-終-
恋未満<坂田の場合> 諏訪 剱 @Tsurugi-SUWA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます