第7話 入院
年が明けると、世間が騒ぎ始めるより先に私の皮膚粘膜がスギ花粉の飛散を告げた。飲み薬は当然ながら、マスクと眼鏡と静電防止素材でできたストールを巻き、私は今年も三学期を迎えた。年内に五作目を読み終えており、既に同じ著者の別シリーズを読み始めていた。この日も朝から花粉にまみれて自転車を漕いで登校すると、教室で重装備を解いて自席に座った。HRが終わるとすぐに、隣のクラスの花井が入ってきた。
「坂田、おはよう。」
私は驚きに目を大きく開いた顔を挙げ、マスク越しに応えた。
「お、おはよう。」
花井は私の机に両手をついてこう尋ねた。
「ね、相馬の病室番号、教えて。」
私は、何を聞かれたのかまったくわからず、まばたきを何回もした。恐らくだが、私が驚いている様子を見て取ったと思われる花井は、首を傾げた。
「あれ?知らない?」
私は花井よりももっと首を傾げた。
「あ、そうなんだ。坂田って、相馬と仲良いのかと思ってたから。なんだ、そっか。」
そう言って花井は机から手を離した。私は慌ててその手首をつかんだ。
「どういうこと?」
花井は、私の反応に動じることなく、そっと私の手をほどきながら説明した。
「相馬、年末から入院してるんだって。それでちょっと様子見てこようかと思って。」
「え、あ・・・そう。全然知らなかった。」
私は優しくほどかれた手を引っ込めた。
「先生に聞けば病室わかるんだろうけど、坂田なら知ってるかなって思ってさ。知らないなら、いいや。ごめんね。」
私はその場を去ろうとする花井を慌てて呼び止めた。
「ねえ、どこが悪いの?」
「うん、なんか、心臓らしいよ。」
花井は足を止めてそう言った。
「つっても、そんな重病でもないらしんだけどね。」
それを聞くなり、頭で考えるより先に私の口から言葉が出ていた。
「私もお見舞いに連れて行ってくれないかな。」
花井はほんの少しだけ考えてから、
「そう。だったら、明日にするか。六時限の数Ⅲ、一緒だったよね。じゃあ俺、それまでに病室とか面会時間とか、そういうの先生に聞いておく。」
小さく手を挙げて花井は教室を出て行った。私は努めて平静を装って着席した。
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