第6話 噂話
二学期の終業式を明日に控え、修学旅行前後で彼氏が出来たとか、誰が誰に振られたとか、そんなことできゃいきゃい騒ぐ女子らが廊下に増殖していた。一応進学校のはずのこの高校では受験モードと恋愛モードの二択となって、前者は難関志望校、後者は滑り止め私立大学へと照準を定めることになるらしい。当然ながら、私は消去法で受験モードとならざるを得なかったが、成績が伸び悩み続けて志望校のランクは下げ止まらない。期末テストの結果を根拠に、数学の教師から文転を薦められ落ち込みつつ教室に戻る途中、廊下で噂話をする女子らの声がかすかに耳に入ってきた。
「聞いた?相馬。」
「え、何?」
「好きな人いるからって。」
「きゃー。」
「堀居、たまらず泣き出して。」
「ウソ、まじ?」
恐らくこんなことを言っていた。堀居と言えば、学年でもランキング上位に入る美人女子の名だ。私なんぞ遠巻きに見るだけで綺麗な子だなあ、と見惚れてしまう。話をしたことは一度もないが、優しく明るくとにかく良い子で、悪く言うのを聞いたことはない。もちろん男子からのアプローチも多いらしいがなぜか彼氏はいない、という話だった。それはつまり、意中の人がいたからだった、ということなのか。
・・・にしても。はっきり聞こえなかったが、今の会話からすると、堀居は相馬に告白するも振られて泣いた、ということのようだ・・・本当だろうか?女子に人気の高い男子はいくらでもいる。恋愛やイケメン探しに興味のない私でさえ、アイドル的存在とされる何人かの人気男子について顔や名前は知っている。しかしそんな中に部活もサボりぎみで遅刻や早退をくり返すあの普通顔で存在の薄い相馬が含まれるはずがない。影の薄い、顔色の悪いひょろっとした相馬が、あの堀居に好かれたりするのだろうか。・・・いや、違うな。私が今気になっているのは、そこではない。「好きな人がいるから」と言ったらしいではないか。・・・そうか。相馬には好きな人がいるのか。まあ、そうであっても不思議ではない。別に、好きな人が居ること自体珍しいことでもない。いても当然な年頃だ。廊下できゃいきゃいしている女子らを見るだけでもわかる。同じだけ、男子らも教室もしくは学校の外などでそんなことを話して過ごすのだろう。青春真っ盛りの年頃なのだ。私にとっては他人事でしかないが、自分だってそんな年頃だ。図らずしてあんなきゃいきゃいとするような性格でもなければ状況でもないだけのこと。・・・そうか、相馬には好きな人がいるのか。ま、所詮は本の貸し借りだけの関係だから、迷惑にはならないだろう。・・・そうか。そうなんだな。ふうん。・・・三作目を返してもらう前に四作目を貸してしまっているが、ちゃんと返してもらえるかな・・・。
私はふと、もう返しに来ないのではないだろうかと不安になった。一瞬だけ、それでもいいか、という考えが頭をよぎったが、すぐに、そうはいかない、と抵抗した。
あれだけはどうしても、ちゃんと返してもらおう。そうしたら、向こうから頼んでくるまではもう本は貸さないでおこう、と心に決めた。
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