第44話.暗躍の二人

 鏡原かがみはらみゆりが仮想世界、メタアースの拠点である廃工場の地下空間に、知り合った小学生、高梨涼太たかなしりょうたを連れ込んでいる間、外出しているケロッキーはある人物と人気ひとけの無い公園で会っていた。


「どうっすか? 街の様子は」


 ケロッキーは一緒にベンチに座っている女性に訊く。


「ゆっくりと、でも順調にメタアースと同化していっているみたいね」


 ケロッキーの隣にいる夢城真樹ゆめしろまきと瓜二つな女性、皿井菊美さらいきくみが答えた。


「それは良かったっす。こっちも生贄になるちょうどいい人間を見つけたっすよ。後はいまのこの世界で満足している者と、この世界に絶望している者を対立させて終末を引き起こし、いまの世界を粛清するだけ」


「今度こそ、成功すると良いけど……」


 菊美が微笑みながら言った。


「成功すると良いけど……? 他の護法者ごほうしゃが無能だったせいで、わざわざこのボクが手を下す羽目になったんすよ。失敗するわけないじゃないっすか。バカにしてるんすか?」


「……ごめんなさい」


 眉間に皺を寄せたケロッキーに、菊美は身を固くして小さく頭を下げ謝罪した。


「ようやく天帝のご意思どおりに事が運ぶんすよ。そもそも天帝がお創りになったわけではない『かね』なんてモノを価値があると崇めている人間なんて、それこそ無価値なんだから。さっさと滅ぼして、新たに価値ある世界を創り直さなきゃ」


 ケロッキーは手に持ったチルドカップコーヒーにストロー差し、吸った。


「あたしも中間者ちゅうかんしゃにして頂いたおかげで、次の新世界でも存在できるわ」


 菊美は礼を述べる。


「釘を刺しておくけど、それもキミの働き次第っすよ。神と悪魔……、名前は贄村囚にえむらしゅう天園司あまぞのつかさだったっけ? 奴らは天帝のご意思に背き、自らが望む新世界を創ろうとしてる。あいつらを争わせて終末を起こさせるのがキミの役目なんだから。しっかりとそれを果たしてもらうっすよ。因みにキミの姉を粛清することになるかもだけど、大丈夫っすか?」


 ケロッキーは訊いた。


「……姉だから、なんて情はあたしにはないわ」


 菊美はまっすぐ前を見て答える。


「それならいいっすけど。まあ、とにかくこの世界にある大きな欠陥、『かね』という自らが創り上げた幻想こそ、言わば人間の弱点。そこを突けばこの世界なんて簡単に滅びるっす」


 ケロッキーは再度、コーヒーに口をつける。


「……ええ」


 菊美はケロッキーのその意見に賛同の意味を込め、また小さく頭を下げた。


 ケロッキーはカップ内の残りのコーヒーを全て吸い込むと、満足そうに息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る