第30話.カフェ内の攻防⑤
「こちら現場から中継です。カフェ『冒険者ギルド』に従業員を人質にとって立て篭っている男達は、コーヒーの販売や飲む行為は差別であるという主張をしており……」
世直しの為にカフェを襲撃した
「翔也くん……」
佳奈が呟く。
「……あのバカ」
親方は眉間に皺を寄せた。
「翔也さん、私のために……」
ダニエルが悲しげな表情を見せる。
それに気づいた親方は、ニュースの途中でテレビを消した。
「おい、ダニエル、仕込みの続きだ。行くぞ」
二人は厨房へと向かう。
熟練の手つきで魚を捌きながら、親方はダニエルに話しかけた。
「なあ、ダニエル。人生は韓信の股くぐりだ。知ってるか?」
「カンシンノマタクグリ……? いえ、知りません」
「大きな夢があるなら、つまらん事で人生を無駄にするんじゃなく、夢の為に堪えろ。そしてお前は立派な寿司職人になって、馬鹿にした連中を見返してやれ」
親方の言葉を聞いたダニエルは静かに頷き、一層、目の前の魚に集中した。
◇ ◇ ◇
全員がその人物へと目を向ける。
「シュウ!」
そこにいたのは
「だ、誰だお前は!」
「なに入ってきてんだ!」
男達が焦りいきりたつ。
贄村は人質に取られている莉沙やメイド達へ目をやった。
「……差別をするなという割には、己の気に入らないものは力づくで排除しようとするのだな」
「世の中を良くする為だよ!」
男の一人が怒気を込めて叫ぶ。
「これが貴様達の答えか。人間は所詮、何かを差別しなければ生きられぬ悲しい生き物よ」
贄村は男達に射抜くような視線を送ると、右手の握りこぶしを胸元に当てた。
「貴様達に新世界は創世できない」
続けて、マントを広げるような仕草で腕を大きく払う。
次の瞬間、店内が一切の闇に包まれた。
その闇の中に、顔の右半分は赤い目をした黒山羊、そして左半分は目がぎらついた鹿に似た不気味な動物の顔が浮かび上がり、同時に獣の咆哮のような声が響いた。
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