第21話.正義の実行①

 荒砥翔也あらとしょうや達、社会に憤るオフ会メンバーは再び公園に集合した。


 この度の実力行使デモは8人のメンバーを4人ずつ、二手に分けることにした。


 二つのグループで街中を回り、なるべく多くの世直しを実行しようというわけである。


「Aグループのリーダーは金シャリね。任せたわよ!」


 金シャリこと翔也はサロンメンバー、ミカリンからリーダーを任された。


 翔也がリーダーのAグループとミカリンがリーダーのBグループ。


 ミカリンが大きく息を吸い、声を張り上げる。


「この世界から差別を無くすために! 生きごみの殲滅を!」


 メンバー全員で円陣を組み、ミカリンの掛け声で気持ちを一つにした後、それぞれ活動を開始した。


 翔也達Aグループは、まず狙いを定めたカフェまで行進し、店に着くなり店外から拡声器を用いてガラス張りの店内の客へと呼びかける。


「バカな客共に告ぐ、コーヒーを飲むのを直ちに止めろ! お前達のやっていることは差別的行為だ!」


 翔也は一方的に自分達の主張を、客や周囲の通行人に伝えた。


 翔也の演説に好奇の目を向ける人々。


 数分間だったが、一頻ひとしきり演説が終わると、翔也は周りの反応を窺った。


 特に自分達に対して拍手が起こるわけでもなく、皆、一様に唖然としている。


 すぐさま店内へと目を向けた。


 店内の客も同じような表情だった。


 ただその客の中に、翔也達を見て冷笑のような表情を浮かべる若い女を見つけた。


 その嘲りの笑みが着火剤となり、翔也の正義の魂が一気に憤怒の炎に包まれる。


 翔也は目を吊り上がらせて、他のメンバー三人へ呼びかけた。


「生きごみに何を言っても無駄だ。行くぜ!」


 翔也を含めた四人は雄叫びを上げ、手に持った金属バットやハンマーを自動ドアに叩きつけ、ドアが開く前にガラスを割って店内へと侵入した。


 店内に響く多数の悲鳴。


 女性の店員が急いで翔也達を止めようとやってきたものの、金属バットを振り上げると慌てて後方へと逃げた。


 誰も彼らを止められず、店内はパニックに陥っていた。


「お客様! 裏の出口がございます! そちらからお逃げください!」


 店員が声を張り上げる。


「警察を呼んで!!」


 店員の一人が他の店員に呼びかけた。


「けっ、警察の呼び方わかりません!」


 他の店員が大声で応答する。


「自分達のやってること、反省しろや!!」


 そんな店員などお構いなしに翔也は叫んだ。


 その叫びを合図に、メンバーは手に持った鈍器を壁やテーブルなどに叩きつける。


 翔也はまずは自分を冷笑した女の元へと向かった。


 女もパニックのようで、床を這いずりテーブルの下へと隠れた。


 女が潜むテーブルに金属バットを叩きつける。


 翔也は直接、人間の身体は狙うつもりはなかった。


 だが、金属バットで破壊されたテーブルの下から大慌てで這い出してきた女の左肩に、振り回す金属バットが当たってしまった。


 女は痛みに悶絶する。


 意図しなかった不測の事態だが、今更、翔也も後には引けない。


 悶える女への気遣いなど忘れ、彼女を睨みつける。


 そんな翔也を見て女は声を振るわせ言った。


「ご、ごめんなさい……」


 彼女は虫けらのように体を縮こませ、目を潤ませながら涙声で翔也に許しを請う。


 自身を見て怯え謝罪する女。


 それを目にした瞬間、翔也の体内に高揚感が駆け巡った。


 正義の実現、それは射精を超えるほどの、翔也が過去に体験したことのない得も言われぬ快感だった。

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