第18話.愛の抗議活動①
デモの目的は、自分達の主張を多くの人に周知させ、コーヒーを飲むという行為が差別的であることに気付いてもらう為。
そしてコーヒーをこの世界から無くす為である。
「なるべく多くのカフェを巡りましょう!」
ミカリンが力強く言った。
コーヒーと言えば、まず多くの人が触れ合うのはカフェだろう。
メンバーで話し合い、行く先々のカフェの前で抗議することを決めた。
翔也は仲間と共にプラカードを作り用意した。鉢巻きも締めた。
仲間と共に、社会に野放しになっている間違いを正す、この正義の行いに翔也は高揚した。
「でも許可も取らず急にデモやって大丈夫かな? 警察に止められないかな?」
メンバーの一人、まるちゃんが言う。
「大丈夫よ。第一、みんな警察なんて見たことないでしょ?」
ミカリンがあっさりと答える。
確かに言われてみればそうだ。
翔也自身も、警察という存在は知っているものの、この街で様々な事件や終末騒動が起こっているにもかかわらず、警察官自体は見た記憶がなかった。
「そう言われればそうだな」
「うん、そうだそうだ」
メンバー全員が納得し「それじゃ行くわよ!」
というミカリンの掛け声を合図に、メンバー全員が「オーッ!」と拳を突き上げ、デモが開始された。
街中を八人で練り歩く。
有名なカフェが多く立ち並んでいる通りへやって来ると、ハンドルネーム、金属バットマンがメガホンを口に当てた。
ガラス張りのチェーン店の前で、店内の客へ呼びかける。
「コーヒーを飲むことを止めてください! あなた方がやってる事は差別的な行為です!」
彼がそう叫んだ後、メンバー全員で「そうだー!」と声を揃えて上げる。
「黒い物を口にして飲み込む、その侮蔑的な行為で苦しんでいる人達がいること、考えたことありますか?!」
「そうだー!」
「直ちに飲むのを止めなさい! あなたの何気ない行為が差別を生む。愛なき世界に未来はない!」
翔也達のデモを周囲の通行人は、何事が起きたのかと遠巻きに見ている。
カフェの店内の客も、一様に目を丸くしていた。
「金属バットマン、その調子よ! 大衆に伝わっているわ」
ミカリンが彼に耳打ちをする。
金属バットマンは力強く頷いた。
「もう一度警告する! コーヒー飲むのを止めろ! 飲み続けるなら、お前達はナメクジ以下だ!」
彼はさらにヒートアップし、声を張り上げた。
「そうだ! ナメクジはコーヒーを飲まないぞ!」
翔也も大声で続いた。
共に寿司職人を目指す仲間、黒人のダニエルを守る為、翔也の正義の叫び。
その叫び声の後だった。
「お前らこそバカだろ!」
翔也達に野次を飛ばす者が現れた。
メンバー全員がその声の主の方へと視線を向ける。
それは仲間と一緒にヘラヘラ笑っている金髪の若い男だった。
「なんでも差別に結びつけんな、カス! お前らはさっさと病院行って頭の中を診てもらえばいいんだよ!」
その男は更に言葉を続け、中指を立てて翔也達を挑発する。
これは自分達の正義の行動、ひいてはダニエルが罵倒されたに等しい。
そう受け取った翔也は、頭に血がのぼり「てめぇ!」と叫ぶと、その男に向かって走って行き殴りかかった。
相手の男も応戦し、その場で乱闘が始まった。
「やめろ、金シャリ!」
他のメンバーが追いかけて止めに入る。
金髪の男の仲間も止めようとしていた。
怒りが収まらず二人が揉み合ってる中、騒動を目にした女性達の悲鳴が辺りに響き、普段は平穏なカフェ通りが、暫く騒然としていた。
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