第17話.同志の顔合わせ②

 荒砥翔也あらとしょうやはオフ会主催者のミカリンに突如、最低だと言われた。


 思い当たらぬ叱責に、戸惑いと焦りに襲われる。


「えっと、その俺、な、なんかしたっすか?」


 翔也は目を丸くして尋ねる。


「いま、あなたがやったことは何?」


 ミカリンはテーブルに両肘をつき指を組んで、翔也に逆に質問をした。


「えっ……?」


 今やったことと言えば、ミルクを砂糖を入れかき混ぜたことぐらいだ。


 それ以外思い当たらないが、その行為が叱責にあたるようなものだとも思えない。


 かき混ぜ方が下品だったのであろうか。


 それともコーヒーで濡れたスプーンの置き方が良くなかったのであろうか。


 周りの他のメンバーも何が起こったのかと、ぽかんとしている。


「いや、かき混ぜ方だけなんすけど……」


 翔也はミカリンに答えた。


「それはいいのよ。あなた、黒人の仲間を差別から助けてあげたいのよね? それでマザー舞のサロンの仲間になったのよね?」


「そうっす」


「じゃあ、なんでコーヒーにクリームなんか入れたの?」


「えっ?」


「黒い物に白い物を入れて染める……、つまり白に黒を支配させると言うこと。私の言ってることの意味わかる?」


 ミカリンの真剣な目つきに翔也はたじろいだ。


 だが、さすがに言いがかりのようにも聞こえた。


「いやっ、でも……」


 ミカリンは戸惑う翔也に畳み掛けるように話を続ける。


「あなた、いま私の主張に無理があるんじゃないかって思ったでしょ? でもね、差別する人の意識ってそういうものなのよ。悪気はないって言い訳、よく聞くでしょ? それは今あなたが抱いたような感覚なの」


 翔也はミカリンに対し、なんと答えて良いのかわからない。


「差別を無くしたいなら、こういう日常の細かいところまで想像力と思いやりを持たないといけないわけ。普段何気なくやってる行為が、他の人にとっては侮蔑的なこともあるのよ」


 真剣な目つきでミカリンは語る。


 自分には差別的な意図は無かったが、翔也自身、普段の何気ない行いに細かい配慮をしていなかったと言われれば、事実かもしれない。


「ね、みんなもそう思わない?」


 ミカリンは他のメンバーにも賛同を求めた。


「そ、そうだね」


「ま……、そうだな、うん。確かに金シャリさんは配慮が足りなかったね」


「え? あっ、そうそう。だから俺は、えっとコーヒーは、以前からブラックしか飲まないように心掛けてるよ」


 ミルクを入れていないメンバーから、翔也は責められる。


「いや、すみません……」


 翔也はとりあえず頭を下げた。


「それにね、まるちゃんはコーヒーはブラックしか飲まないって言ったけど、私はコーヒーすらも口にしないわ」


 ミカリンは続けて言う。


「だって考えてもみて? コーヒーを飲むって行為は、黒を自分の好きなように支配できるって意味にも通じるじゃない? お前は私より劣ったものだって。それってとても失礼なことだと思う」


 確かにミカリンは供されたコーヒーには口をつけていなかった。


 ミカリン以外のメンバー、皆が黙りこみ、うつむく。


「私たち以外のテーブルのお客さんを見てよ。そういうことも考えずに、当たり前のようにコーヒーを飲んでおしゃべりして過ごしてる。許せないと思わない? その意識の低さで苦しんでる人がいるというのに」


 ミカリンの言う通り、他のテーブルに目を向けると、客の中には談笑しながらコーヒーを飲んでる者もいた。


「マザー舞の教えに従って、ああいう連中を根絶やしにするため、私は世の中と戦いたいの。実はその意志を伝えるために今日、オフ会を開いた。メインの目的はそれ。だからみんな、私に力を貸してちょうだい」


 ミカリンは突然立ち上がり、堂々とメンバーに頭を下げた。


 翔也はミカリンの熱意を知り、自分の差別に対する思いが、いかに甘いかを思い知らされた。


 彼女となら仲間のダニエルを守る為に、世の中を変えられるかもしれない。


 本当にマザー舞が唱える愛の新世界へ行けるかもしれない。


「俺、ミカリンさんと一緒に戦うよ!」

「俺も」

「僕も!」


 皆が次々に賛同の声を上げる。


 翔也も他のメンバーと同じく、ミカリンと共に戦うことを決意した。

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