第50話.山道の戦い④

 道脇の大木へと姿を隠した贄村囚にえむらしゅう


 だが、毒水ぶすみず家の執事、黒川くろかわ変化へんげしたミミズのような怪物「ろりめく衆愚を平定する者」は、その身体を伸ばし、這いずりながら贄村を追いかける。


 大木の裏を覗き込み、隠れる贄村を姿を見るなり、ニヤリと笑った。


 黒川に追いつかれた贄村は、素早く山道の反対側へと逃げ、同じように大木へ隠れる。


 だが、黒川はそちら側まで身体を伸ばし、また大木の裏側を覗き込み、不敵な笑みを浮かべた。


 贄村は驚いた表情で黒川を見る。


「逃げても無駄だ、贄村。私の身体は無限に伸ばすことができ、そして切断されても無限に再生する」


 黒川は高笑いをした。


 贄村は慌てて、再度山道の反対側へと逃げた。


 黒川は口を大きく開き、背後から逃げる贄村を噛み殺そうとする。


 黒川の攻撃を僅かに躱したが、牙が贄村の背中をかすめ、皮膚が裂けた。


 初めに隠れた大木に、再び身を隠す。


「無駄だ!」


 黒川の顔が大木の裏側へと回り込み、目を見開き口を大きく開けて、大木の裏に隠れる贄村へと襲いかかる。


 贄村は血を滴らせながら、また反対側への大木へと懸命に逃げた。


 追いかける黒川。


 道脇の大木に身を隠し、また反対側へ逃げるを繰り返す。


 山道間を往復すること六度。


 贄村を追いかける黒川の胴体は、山道両側の二本の大木に巻き取られ、輪状になっていた。


「いい加減に覚悟を決めぬか!」


 黒川の怒号が静かな山に響いた時、山道の真ん中辺りで、贄村は空中へ高くジャンプした。


 黒川の頭も牙を剥き、宙へと追いかける。


 贄村は黒川の攻撃を、背中を反らして間一髪かわすと、両手から鋭い爪を出し、今度は咆哮をあげながら急降下した。

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