第49話.山道の戦い③

 黒山羊と大鹿、左右非対称の怪物に変化へんげした贄村囚にえむらしゅうに、人の顔を持ったミミズのような怪物「ろりめく衆愚を平定する者」に変化へんげした黒川くろかわ


 人気ひとけが無く、ひっそりとした山道で対峙する二匹の怪物。


 緊張感漲る静寂を、先に破ったのは黒川だった。


 口を大きく開き鋭い牙で贄村を噛み殺そうと、襲いかかる。


 贄村は素早く後方へ飛び退いて、黒川の攻撃をかわした。


 着地すると今度は後ろ足で踏み切り、一転して前方へと飛び掛かる。


 贄村は腕を振りかぶり、鋭い爪でミミズの怪物の頭をねた。


 それは一瞬の出来事だった。


 黒川はあっけなく首を失い、その場に倒れた。


 顔を失い、地面でのたうち回り、砂埃を立てる怪物の胴体。


 贄村はとどめを刺そうと、警戒しながら近づく。


 歩みを進めたその時、背後から何かが贄村を目掛けて飛んできた。


 気配を察知した贄村はすんでの所でそれを避けた。


 どうやら正体は、先程刎ねた黒川の首のようだ。


 その首は胴体のぬめった切断面にぐちゃりと接合した。


 姿を蘇らせた黒川の笑い声が、閑静な山道に響く。


 嘲笑うかのようにうねうねと活発にうごめく黒川に対し、贄村はハァッと大きく息を吐くと、再度爪を立て向かっていった。


 右手で黒川の頭を刎ねた後、返す刀で左手で黒川の胴を裂く。


 黒川は三等分された。


 だが、それも同じことだった。


 のたうつ胴体に、切り離された部分が順に接合される。


 結局、黒川は元の姿へと戻った。


「無駄だ。私の身体は切断されようとも、記憶された胴の並びは順に再生する」


 黒川はそう言うと、再度高笑いをした。


「潔く死ぬのだ、贄村!」


 黒川が高く首をもたげて、勢いよく贄村へと襲いかかる。


 贄村は攻撃を躱したものの、黒川の牙が左肩を掠めた。


 大きく皮膚が裂けた贄村の肩。


 贄村は急いで、道脇の大木の裏へと自分の姿を隠した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る