第46話.山道の待ち伏せ

 毒水ぶすみず家の執事の黒川くろかわとメイドの皿井菊美さらいきくみが、燃えゆく邸宅を庭から眺めていた。


「きちんとムラなく平等に屋敷が焼けるように仕掛けただろうな?」


 黒川が訊く。


「あ、はい。言われた通りやりました」


 菊美が答えた。


「あの兄妹ではいずれ贄村にえむら達に止められただろう。人間同士の対立を起こしただけで用済みだ。しっかりウェルダンに焼いてやろう」


「けど、贄村囚にえむらしゅう夢城真樹ゆめしろまきは、この程度では死にはしませんわ」


「そんなことはわかっておる。奴らはいずれ私がこの手で粛清してやる。しかしまずは更なる終末への焚き付けを行う、別の操り人形を探し出さねばな」


 黒川は顎髭あごひげを撫でた。


「何でもいいからとにかく有名になりたいって、承認欲求に飢えた人間はいっぱいいますからね」


「まったく、中間者ちゅうかんしゃである影鳥智奈かげどりちなが役目を放棄しなければ順調に進められたものを。なんとしても終末を成功させねば、奴等を選んだ護法者ごほうしゃたる私の失態になる。天帝に顔向けができんわ」


 黒川と菊美は邸宅が盛んに燃え続け、徐々に焼け落ちていく様を確認すると、その場を立ち去った。


 二人、樹々に囲まれた閑静な山道を歩いてゆく。


「……ずいぶんと杜撰ずさんな策略だったな。天帝とやらも手下を見る目がないようだ」


 どこからか、男の声が聞こえる。


 二人は歩みを止め、辺りを見回した。


 視線の先にある山道脇の大木、そこにたたずむ人影。


 その人物はゆっくりと二人の前へ歩を進めた。


「ヒッ! 贄村囚!」


 菊美が驚きと恐怖が入り混じった声を上げる。


「現れたな」


 黒川はニヤリと笑った。







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