第20話.物憂い朝の部屋

 けたたましい目覚まし時計の音が、一瞬にして安息を吹き飛ばす。


 薄目の緑門莉沙りょくもんりさは、だるい腕を時計に伸ばし、騒音を止めた。


 昨夜は、天象舞てんしょうまい南善寺小咲芽なんぜんじこさめに付き合って帰宅した後、ベッドの上で物思いに耽っていたが、いつの間にか眠ってしまったようだ。


 スマートフォンの充電も忘れてしまった。


(……またいつもとおんなじ朝か)


 莉沙はベッドの上に座り、両手を高く上げ、身体をほぐす。


 今日も学校へ行き、講義を受け、終了後に公園でトレーニングをして、それから帰宅し、風呂に入り眠る。


 いつもと同じサイクルの生活を送るだろう。


 だが昨日会った舞は、神の先導者と恋仲になり同棲を始め、性格も積極的に自己主張する性格へと変化を見せ、一方の小咲芽は、閉鎖的な実家から逃れ、一人で生活を始めバイトもしていた。


 二人とも以前と違う日常を手にしている。


 周りが変化する中で自分だけが変わらない。


(学校行く準備しなきゃ……)


 莉沙は毎日が退屈というわけではない。

 やるべきことはある。


 だが、こなすべきスケジュールよりも日常を破壊するほどの変化が欲しい。


 だから自分は新世界を求めたのかもしれない、莉沙はそう思った。


 変化を求めているはずなのに、変わらないし変えられない。


 繰り返されるもどかしい毎日。


 だが結局、新世界の到来は叶わず、自分はまた以前の日常に取り残されてしまった。


 莉沙の心に埋まらない穴が残る。


(ダウナー系の動画にハマるのも、こんな感じからなのかな……)


 一人で過ごすことを好む莉沙には、友達がこれといっておらず、また恋人もいない為、変化が起こり得る兆しすら期待できなかった。


(舞の言う通り、彼氏作ったら変われる……?)


 ふと舞の言葉が頭に浮かんだ莉沙は、おもむろに硬い左腕を男性の腕に見立てて、恋人に触られてることをイメージしながら、シャツの上から自分の胸を揉んでみた。


 みるみる顔がほてってくるのがわかる。


 そのまましばらく、何と無しに触っていると、その男性のつもりの左腕が、うっすらと緑色に光りだしていることに気づいた。


(……何やってんだろ、わたし)


 莉沙は我に返ると、急に自分のやっていることが恥ずかしくなって、頭を激しく左右に振った。


 さっさと学校へ行く支度を始めようと、ベッドから腰を上げる。


 わかっていたことだが、誰かと付き合おうにも、この人間離れした左腕では恋人との体の触れ合いはできないのだ。


 彼氏が作れない理由を思い返すと、なぜか安心する自分がいた。


 莉沙は後ろで髪を束ねると、ハムと目玉焼きを乗せたトースト、バナナとレタスのサラダ、それにヨーグルトを用意して食べた。


 いつも通りの朝食だった。


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