第16話.ハンバーガーショップでの会話③

「あの、お待たせいたしました」


 緑門莉沙りょくもんりさ天象舞てんしょうまいの二人が注文していたハンバーガーを、店員の南善寺小咲芽なんぜんじこさめがテーブルへと運んできた。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


 莉沙と舞が揃って礼を言う。


「それでは、どうぞごゆるりと」


 小咲芽は丁寧にお辞儀をして、その場を離れようとした。


「あっ、ちょっと待って」


 舞が彼女を呼び止める。


「はい?」


 小咲芽は首を傾げた。


「仕事はいつ終わりですか?」


 舞が訊いた。


 小咲芽は不思議そうな顔をしながらも「あと、1時間でバイトは終わりですけど」と答えた。


「そうなんだ。1時間ぐらいなら待てるかな。終わった後、時間空いてませんか? 良かったら南善寺さんとお話ししたいんです」


 舞が誘う。


「えっ、ちょっと、舞、今日?」


 莉沙が少し戸惑いながら言った。


「思い立った日が吉日です。どうです、よかったらわたし達とお話ししませんか?」


「えっ、ええ……。わたくしはかまわないですけど、でも聖音きよねさんが知ったら、どう思われるか……」


「大丈夫です。わたし、神側の先導者の方と交際してますから。それにもう神とか悪魔とかの対立を止めにしませんか? そのことについてもお話ししたくて」


 舞は折れることなく誘う。


「そうおっしゃるのなら……。わかりました。それでは申し訳ありませんが、1時間ほどお待ちくださいませ。後で皆さまとご一緒させて頂きます。ではわたくし、仕事に戻らなくてはいけませんので」


 小咲芽は二人に頭を下げると、そそくさとカウンターへと戻っていった。


「……舞って思い立ったらすぐ行動に移すタイプなんだね」


 莉沙が感心する。


「わたしも昔はこんな性格じゃなかったんですよ。終末騒動を乗り越え、純真さんと付き合ったおかげです」


 舞は少しはにかみながら言った。


 莉沙はなんだか自分も恥ずかしくなってきたので、話題を変えることにした。


「ところでさ、思ったんだけど、なんとなく店の空気、暗くない?」


「そうですか?」


「なんか人の数の割に静かな人が多いような……」


 グループで来ている高校生などいるものの、互いに会話を弾ませるわけでもなく、多くの者がひとりでスマホを触っていたり、黙ったままじっとしていたりして、時間を過ごしている。


 莉沙は何度かここに訪れたことはあるが、自分が覚えている店内とは雰囲気が違う気がした。


「あれの影響かな?」


 そんな店内を見て舞が言う。


「あれって?」


「ほら、いま若い人達の間で、ダウナー系って呼ばれるワォチューバーが流行ってるんですよ。堕ち系、闇系、頑張らない系、だらだら系っていろいろあるんですけど。それ観てるせいで、みんな影響受けてまったり過ごしてるんじゃないですかね」


 舞が莉沙に説明する。


「あー、なんか聞いたことあるけど。わたし、体動かす系の動画しか観ないから、そんなに流行ってるなんて知らなかった」


 そう言って、莉沙はぐるりと店内を見回した。


 みんな迷惑かけることなくおとなしい。

 だが、逆からみれば活気がない。


 莉沙は周囲が静かにもかかわらず、終末騒動前の不穏さを感じた。

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